作り出せ、新たな戦隊ヒーローを!

無月弟(無月蒼)

戦隊ヒーローのファンの皆様、ごめんなさい

「何か、良いアイディアは無いものか?」


 ため息をつくチーフ。見ると他の皆も、同じように頭を抱えています。

 ここはテレビ番組や映画の製作会社、西映の会議室。皆が悩んでいるのは他でもありません。四十年以上続く西映の人気特撮番組、『スペシャル戦隊シリーズ』の新作をどうするか、良い案が出ないのですよ。

 何せ今まで、40作品以上の戦隊が作られてきたのですから、中には似たり寄ったりの話もあるのです。だからそんなマンネリを打破しようと、会社の皆で相談してたのですけど。


 結局、良いアイディアが出ないまま、この日の会議は終了です。このまま、戦隊ヒーローの歴史は終わってしまうのでしょうか?いいえ、そんな事はさせません!

 私は、心の中で誓います。絶対に戦隊ヒーローの火を絶やさないって!


 私は西映株式会社に努める、28歳独身の女性社員。子供のころから戦隊ヒーローが大好きで、見るだけでなく、自分でも制作に関わりたいと思って、この会社に入ったのです。

 そして念願だった戦隊ヒーロー制作部に入ったのですが、早々にぶち当たってしまった壁。

 でも、諦めちゃダメ。私がこのピンチを救うんだ。過去に例のない、新たなスペシャル戦隊を作りましょう!


 そうして三日三晩、私は寝ずに考えました。お肌が荒れても、目の下にクマができちゃっても、関係ありません。戦隊ヒーローへの思いを胸に、ひたすら紙にペンを走らせて、アイディアをまとめていきます。

 そうして遂に完成したのです。これこそが、次のスペシャル戦隊なのです!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 平穏な街に、突如現れた悪の軍団。世界征服を企む御門帝国が攻めてきたのです。


「おーほっほっほ!世界征服ですわよー! トリ―さん、マッキーさん、やってしまいなさい!」

「「はい、かしこまりました、御門様!」」


 悪の女王である御門様の指揮の元、破壊活動が繰り返されます。しかしそこに、5人のヒーローが現れたのです。


「そこまでだ、悪党ども!」

「なんですの⁉ 私は御門帝国の女王ですのよ?指図されるいわれはございませんわ!」


 しかしそんな女王、御門様に、赤い服を着た男が迫る。そして……。




 ドンッ!

「お前はよう、俺の言う事だけ聞いてりゃいいんだよ」(壁ドンをしながら迫力のある鋭い目で睨む)


 強引な彼の名は、俺様レッド!

 それだけではありません。


 クイッ

「やれやれ、あんまり手間を掛けさせるな」(顎クイをしながら冷たげな眼をする)


 冷たい眼差しの奥に見える、青い炎、クールブルー!

 次は。


 ぽんっ。

「でもそう言う所が、可愛いと思うよ」(頭ポンをしながら、とろけるような爽やかな笑顔で)


 無限の優しさと爽やかさ、王子様イエロー!

 更に。


「覚悟してよね、おねーさん♡」(身を屈めて、上目遣いで)


 幼く愛くるしく、それでいて時々攻めの姿勢を見せる、ショタグリーン!

 そして。


 最後にやってきた、白くゴージャスな服装に身を包んだ彼……いや、彼女は、御門様の背中と足に手を回し、そのままお姫様抱っこをする。


「おやおや、困ったお嬢さんだ。どうやらここは、私の出番のようだね」(ハスキーなイケボで、耳元で囁く)


 イケメン女子からの突然のお姫様抱っこに、動揺する御門様。


「い、いったいなんですのアナタは⁉女性ですわよね⁉」

「ああ、そうだとも。すまない、挨拶が遅れてしまったね。私の名は……宝塚ホワイト!」


 御門様を下した宝塚ホワイトは、他の四人と合流する。

 そうして横一列に並んだ5人は、一斉にポーズをとり始める。


「俺様レッド!」

「クールブルー!」

「王子様イエロー!」

「ショタグリーン!」

「宝塚ホワイト!」


「天下御免の胸キュン戦隊……」

「「「「「イケメンジャー!」」」」」


 『胸キュン戦隊イケメンジャー』の誕生である。

 画面全体に、キラキラの特殊効果が掛かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……ふざけるな」


 チーフは静かにそう言うと、せっかく作った企画書をビリビリに破り捨てた。


 あー、私の企画書がー! 三日も寝ない考えたのにー!


「ど、どうしてダメなんですか?」

「どうして?当たり前だろう、こんなふざけたものを作ってきて!君はスペシャル戦隊をバカにしているのか⁉」

「そ、そんなことありません!私、心の底からスペシャル戦隊が大好きなんです!」

「だったらどうしてこんなものを作った⁉」

「イ、イケメンも大好きなんです……」


 最初これを考えた時は、心が躍った。


 胸キュン戦隊イケメンジャー。それは乙女ゲームをモチーフにした戦隊ヒーローで、悪役令嬢からヒロインを守るため、5人のイケメンヒーローが戦うという物語。

 大好きなスペシャル戦隊と、大好きなイケメンの合わせ技なのだ。だけど。


「こんなもの、子供が喜ぶわけがないだろうが!」

「しゅ、主婦層には人気が出るかと」

「たしかにそうかもしれん。だけどなあ、スペシャル戦隊のターゲットは、あくまで子供だ。子供が楽しめない作品を作るのは、お前だって本望じゃないだろ?」


 うっ、たしかに。子供のころからスペシャル戦隊が好きだった身としては、痛い所を突かれる。けど、これくらいで引き下がる私じゃない!


「子供に人気が出ないとは限らないじゃないですか! 例えば男の子二人が、レッドとイエロー役になって『お前、俺の物になれ』『君がそれを望むなら、僕はその気持ちに応えるよ』とか言って遊ぶかもしれませんよ」

「保護者から苦情が来るわ!お前は子供に何を求めている⁉」

「ええー、尊いのに―!」

「だいたい、全部の子供がそれをできるわけじゃないだろ!『ただしイケメンに限る』って言葉を知らんのか―!」

「で、でもそれじゃあ。イケメンジャーが流行れば、男の子同士でそう言う遊びをするのが流行って、彼らがそのまま大人になった暁には、日本は腐女子にとって住みよい国になってくれるのではと言う、私のひそかな野望はどうなるんですか⁉」

「知るかそんなもん!」


 チーフは今にも、ちゃぶ台返しのごとくデスクをひっくり返しそうなほど怒っている。そんなにダメかなあ、BL?


「けどこれなら、グッズはたくさん売れると思うんですよ。乙女ゲームとか、抱き枕とか」

「だから子供に合わせて考えろ。子供が俺様レッドの抱き枕を抱えて寝ていたらどう思う?」

「ええと……尊い?」

「お前にまともな意見を求めた俺がバカだった」


 私はその後もしつこく交渉を続けたけれど、チーフは取り合ってくれなくて。そして今日、ついに新しい戦隊の番組が放送される。


 日曜朝9時半。私は自宅のテレビの前で、新しく始まった戦隊を見ていた。胸キュン戦隊イケメンジャーを抑えて企画を通った、騎士と恐竜をモチーフにした戦隊ヒーローが、悪い奴らと戦っている。うん、これはこれで面白いかな。


 けど、それはそれ。私はまだ、胸キュン戦隊イケメンジャーを諦めたわけでは無い。

 チーフは頑なに認めようとはしないけど、たくさんの署名を集めて納得させてみせるんだから。胸キュンを……イケメンを求める人は、たくさんいるんだ。


 私は秘密裏に、署名活動を行っている。既に西映の女性社員の9割から、署名を貰う事には成功しているのだ。ほら、やっぱり皆、イケメンが好きなんじゃない。

 だけどこれじゃあまだ足りない。紙とペンと、スペシャル戦隊への思いを胸に、ある時は東へ、ある時は西へと赴いて、たくさんの人から署名を貰っている。


 こうして地道な活動を続けて、いつか必ず、チーフを納得させてやるんだから。

 だから皆さん、もし私が署名活動をしているところを見かけたら、是非ともペンで紙にあなたの名前を書いてください。

 そうすればもしかしたら来年の今事、テレビの中で活躍する、胸キュン戦隊イケメンジャーを、見る事ができるかもしれませんよ♡





 最後に、作者から一言。

 戦隊ヒーローを愛している、全ての人へ……ごめんなさい<(_ _)>

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