紙とペンとファンアート

ゆうけん

感謝のカタチ

 白紙を目の前に彼は焦っていた。

 一夜、平原に降り注いだ雪のようにどこまでも白い原稿用紙。


 幅358mm 高さ252mm

 つまりB4サイズ。


 上質紙のきめ細かい表面をジッと見つめる。


「う~ん。白い」


 小さく独り言が零れ落ちた。




 漫画の原稿用紙は内枠、外枠、断ちきり幅の三種類の枠が薄い水色の線で書かれている。

 更にトンボと言う十字が四つ角にあり、センタートンボと呼ばれる十字が用紙の上下に存在した。


 本来、漫画を描く為に作られた上質紙。

 しかし、今彼が描こうとしているのはイラストだった。


 断ちきり幅に台詞を置かないようにとか、トンボ線をベタで潰さないようにとか、考えなくてもいいはずなのに彼は悩んでいた。


 三種の水色の線は印刷する時に重要だ。トンボも原稿用紙を中心に定める為に意識しなくてはいけない。


 だが、今はこの水色の線は見えていない。


 イメージを形にしたい。

 そのプレッシャーから視界は真っ白なのだ。


 強くペンを握り締めた。


 だが、アイディアが湧かない。いや、アイディアではない。


 頭の中にあるモノがうまく纏まっていないのだ。




 彼は想像する。妄想する。読んだ作品を深く思い返す。


 カクヨムという小説サイトで、魅了された作品の文章を絵にする為に。



 俗に言うところのファンアート。

 読んで笑った、泣いた、わくわくドキドキした。

 その感動を一枚のイラストに込める。


 文章から想像する登場人物、背景、世界観。

 それらすべてを一枚の絵に。


 下描きは沢山描いていた。

 毎晩、仕事から帰って頭の中にあるイメージを描き殴る。コピー用紙に鉛筆で描いた数十枚の下描き。絵柄を変えてみたり、服装を変えてみたりと何回も何回も描き直す。そして、作品を読み返す。


 この絵でいいのだろうか?

 もっと良い絵が描けるのではないだろうか?


 自問自答しながら没になるコピー用紙が積み上がった。


 納得のいく下描きが、ようやく描けると今度はパソコンに取り込む。

 

 ファンアートを描きたいが為に購入したスキャナーに、自信作を読み込ませれば色塗りの開始だ。


 ちなみに下描きは様々な方法を試す。


 Gペンやカブラペン、丸ペン。ボールペンや鉛筆。

 どの線も使用するペンによって描き上りが違う。下描きをパソコンで直接描く場合もある。ペンタブレットを使い色からイメージする時は、パソコンへの直描きだったりする。またパスという放物線が特徴なツールを使う時もある。


 描く道具は違っても、込める気持ちは変わらない。


 感謝の気持ち。書いてくれて「ありがとう」

 カクヨムに公開してくれて「ありがとう」

 感動を「ありがとう」




 作者さまへの感謝の気持ちをペンに乗せ、紙の上に表現する行為にどんな意味があるのだろうか?


 所詮は自己満足の領域を出ないことは分かっている。


 それでも、どうしても伝えたい感謝の気持ち。


 彼に出来ることは限られている。ちょっとだけ絵心があるのだから、それを形にしよう。そう思って描き始めたファンアートだった。




 この想い。彼の想いは届くのだろうか。



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紙とペンとファンアート ゆうけん @yuuken

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