第30話 デュアルクラス

翌日、部室にて。

茜は、昨日俺に話した事を、宿名と紫苑にも話した。

話す事で楽になる事もある。


「なるほど・・・酷い話だ。・・・自分を変えたかった、その気持ちは──分かる」


宿名は、そう言うと、


「すまないが、俺の話にも付き合ってくれるか?」


こくり、俺は頷く。

宿名も、何か有りそうだよな。


「俺は、かつて、プリーストをやっていた」


「「「分かる」」」


俺、茜、紫苑が頷く。


「昔から頼られる性質たちでな、だが・・・良い様に使われやすい、が正しいかも知れん。一応PTリーダーではあったが・・・結局は、奴隷の様なものだ」


宿名が続ける。


「プリーストがいなければ潜入ダイブできないから、と借り出され。しかし、感謝される事は滅多に無い。回復が遅ければ文句を言われ、支援が切れれば罵倒される。一方で、魔力回復の休みは当然無く、支援掛け直しの隙すら与えず、魔物に突っ込む」


「・・・酷いな」


俺はそう漏らすが・・・以前やっていたオンラインゲームでも良くあった。


「報酬の取り分が少なくなる事は日常茶飯事。経験値を渡す事すら渋る事も良くある」


「・・・噂には聞いた事あるな・・・」


茜が呻く。


「ゲームも、現実リアルも、全てが面倒になってな・・・ひたすら人を遠ざけていた。職を変えたのは、ソロがやり辛かったというのも有るが・・・変わりたかったんだ」


「大変だったのですね・・・」


紫苑が、沈痛な表情で言う。


「私も・・・変わりたい、とは思ってましたわ。茜さんや、宿名君の様に、キャラを演じる事はしていませんでしたが・・・」


紫苑は、目を伏せ、


「私は、メイジでした。私は・・・自分勝手でした。みんなで協力してこそのDDSなのに・・・自分だけが活躍している様に錯覚していました」


紫苑が続ける。

今は、誰からも好かれる優等生だが・・・そんな過去が。


「決めたんです。人の痛みが分かる人になろうって、人の為に生きようって・・・」


「紫苑さんは・・・上手くやれているよ。入学以来、誰からも好かれ、生徒会も内定していると聞く」


宿名の言葉に、


「生徒会は断りましたわ」


紫苑が答える。

内定とかじゃなかった。

そして断ってた。


「お前も断ったのか」


呆れた様に宿名が言う。

も?


「でもやっぱり、本質は変わって無いと思うのです」


紫苑が続ける。


「そ、そうだよ。紫苑さんはきっと、最初から優しい人で──」


「そろそろ、みんなに良い顔をするのも疲れましたわ。もう少し気を張らずにすごす事にしますわ」


紫苑が、これまで以上に魅力的な笑みを浮かべる。


「それで良いと思うよ」


俺は頷く。

無理は良くない。


「・・・私は、紫苑、で。呼び捨てで良いですよ」


紫苑が言う。


「俺も、陽斗で良いよ」

「俺も茜って呼んでくれ」

「俺も宿名で良い」


俺が多い件。


こくり、頷きあう。

もやもやしていたのだろう。

みんな、話してすっきりした印象を受ける。


<鷺谷茜は過去を乗り越え、新たな力に目覚めました。デュアルクラスが開放されました>

<青森紫苑は過去を乗り越え、新たな力に目覚めました。デュアルクラスが開放されました>

<遠藤宿名は過去を乗り越え、新たな力に目覚めました。デュアルクラスが開放されました>


システムメッセージが流れる。


「何だ?」


俺の問いに、茜が答える。


「クラスを2つ設定できるみたいだね。同時に2つクラスにつく訳では無く、何時でも切り替えられるだけらしい。ホーム以外でも切り替えられる上、経験値を10%失うペナルティも無い・・・こんな隠しスキル、初めて聞いたよ」


システム説明でも読んだのだろうか。

デュアルクラス・・・俺も欲しいな。


「デュアルクラスをプリーストにしておいて、普段はメイジをやれば良さそうだな」


宿名が空中で手を動かしつつ言う。

過去を乗り越えて、か。

俺は特に乗り越える過去は無いからなあ。


まあ良い。

今は・・・潜りたい。


ところで、現実リアルでシステムメッセージなんて出たっけ?

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