第19話 負けたくねー
さて、オレはある程度回復済み。
んでオークの化け物の方はカイン達の攻撃のおかげで瀕死だ。
超速回復があるみてーだけど今のところその兆候はみられねー。
ダメージが大き過ぎて傷の回復よりも血流の循環を優先してんのか?
今も起き上がって動いてるとこから見ると、まずはあの傷でも行動できる方向に振ってんのがわかる。
やるなら今のうちだとは思うんだけど結構無理したせいか頭がはっきりしねーな。
化け物もこっちに意識を向けてるしあいつら逃してくれりゃあとはオレが何とかする。
絶対死なせんじゃねーぞ。
「よし、やるか化け物」
「グルルルルルルルルルルルルル…… グオォォォォォォォォォォォォオ!!!!」
図体通りのでけー雄叫びだな。
爆破でジャンプして右頬をぶん殴る。
右の首が切られてるんだし回復しかけた血管ぶち切れろ。
やっぱ首が耐えられなくて左を向いて仰け反った。
けど奴もそう簡単には倒れねー、そんな状態からでも右の拳で殴られた。
すでに壊れた家屋に突っ込んで、痛みを堪えたまままた爆破跳躍で接近して胸目掛けて右ストレート。
さらに仰け反る体を倒れ込む形で蹴り上げられた。
くっそ…… 一撃が重い……
でもこの攻撃の仕方でわかったのは、奴は目があまり見えてない。
防御もしないでオレが殴り付けた場所に拳や蹴りを打ち込んでくるから間違いねーな。
カイン達の攻撃ダメージがデカいだろうし今生きてんのも奇跡的なもんだろう。
蹴り上げられたけどたぶんオレの位置は大体しかわかんねーだろうから、このまま落下速度を乗せて寝転がったその頭をぶん殴ってやる。
魔力を放出しながら落下、全力爆破を食らえ。
奴の口内に魔力が溜まる。
ヤバい! ブレスが来る!!
化け物の口内から放たれた焔のブレスをオレの全力爆破で相殺…… するはずだったんだけどそのまま放たれるブレスはオレのいた場所を突き抜けた。
なんとか爆破で体の方向を逸らして回避した。
ブレス吐いてるし隙だらけ。
一気に駆け寄って奴の耳の中に爆破を叩き込む。
「グギイヤァァァァァァァァァア!!!!」
耳からは血が流れ、右手で耳を押さえて地団駄を踏む化け物。
両足を地面に叩きつけ、左の拳でオレを狙ってんのか平手を地面に打ち付ける。
この巨体相手じゃこうも暴れられると近付けない。
動きが収まるまで回復しながら少し待機だ。
バンッ!!! バンッ!!! と地面に打ち付ける平手は続くものの、足での地団駄は収まった。
右手を耳から離して両腕で起き上がろうとする化け物。
オレがそれを許すはずがねーだろ。
爆破で顔面目掛けて飛び上がったところで化け物の左目が見開いた。
オレが最初に潰した左目が回復してしまう。
次の瞬間振るわれた左手で払われるオレの体。
横薙ぎの手刀が全身を打って弾き飛ばされる。
その一撃はこれまで受けたどの攻撃よりも重く、オレの強化を容易く突き破った。
全身が爆発したんじゃないかと思う程の激痛が走り、家屋に叩きつけられた衝撃もあって息が全くできない。
苦しい…… 息が吸えない……
遠退く意識の中で視界に入るのはクルドの死体。
仲間を守るように覆い被さるクルドは、もうこの世にはいない。
あのムカつく酔っ払い姿も見れねーんだ。
辛いな…… 悲しいな……
オレがここで死んだらあいつらも同じ気持ちを味わうんだよな……
こんな気持ちにはさせたくねーな……
負けたくねーな……
勝ってあいつらを守るんだ。
オレが奴を倒すんだ!
ぜってー負けねー!!
「グフッ! ゲフッ! オエェ…… ううぅ……」
内臓もやられてんな、ゲロ吐いたのに血の味がする。
奴は…… また少し回復したか。
胸の傷と首の傷は回復してねーけど内部の血管は繋がり始めてる。
このままじゃこっちが先にやられるし内部から破壊してやる。
また懲りずに爆破で加速して跳躍。
顔面に殴り掛かる。
そこに向けられる拳を爆破で回避して、バランスを取りながら顔面に近付く。
奴は口を開いてブレスの準備か。
だがオレの狙いは顔面じゃねー。
その繋がり始めた首の血管だ!!
左の拳で爆破を込めて首の傷口を抉り取る。
悲鳴と共に放たれたブレスは方向が逸れてオレの右腕を掠めて突き抜けていく。
直撃は避けられたけど右腕は焼ける程の痛みが走る。
構わず右回し蹴りでさらに首の傷を爆破。
左腕と左右の足で連撃を叩き込む。
グラリと膝から崩れる化け物と、足場が傾いて地面に落下していくオレ。
やったか?
それともまたさっきみたいに死んだフリか?
着地しようと地面に視線を向けたところで頭上から影が襲う。
化け物の右の拳を打ち付けられた。
全身から魔力を放出して爆破したから地面を抉って耐えたけど、受けた左腕も尺骨が折れたみたいだ。
拳をまた上げたところで穴から脱出して、化け物との距離を取る。
奴も首の血管が切られた事でまたまともに動かないだろうし、オレも自分の体の状態を確認しとこう。
右腕は…… 焼け
水疱が大量に出来てるし潰れた部分は出血してるしグズグズになってる。
回復魔法を掛けてるけど状態が酷いからか見た目に変化はない。
左腕は尺骨が折れてるけど動かなくはない。
とりあえず左腕の結合を優先しよう。
右腕が痛くて集中できねーけど奴も動けねーみたいだしな。
それよりも問題なのは残りの魔力量か……
残ってるのは感覚的に言って五分の一程度。
レベル10で最大魔力量14万ガルドから考えても残りは3万ガルドもねーのか。
だとすりゃ勝てる可能性があるとすればあの胸の傷を抉って、内臓ごと破壊し尽くすしかねーな。
よし、やってやる。
あの化け物ぶっ潰してやる。
まだ動けねーうちにケリを付けるべきだ。
一気に駆け寄って膝をついてる奴の体に殴り込む。
右の拳にぶん殴られて家屋に叩きつけられるもまた接近。
左腕は地面に着いてるから右腕だけ何とかすりゃイケる…… と思ったらまさかの頭突き。
咄嗟に飛び退いて躱したけどオレの狙いがわかってんのかもしれねーな。
また駆け寄ると右の拳が襲ってくる。
それを回避しても首筋の血管がまた切れるのも構わず頭突きで攻撃してくる。
もう魔力も無駄にできねーから防御して魔力を消費するわけにもいかない。
そんならやる事は一つ。
頭突きがくるならその顔面の弱えとこまた潰してやる。
距離を詰めて拳を回避し、続く頭突きがきたところで一歩前進。
オレを狙ってるその目をまた潰してやる。
左の拳を突き上げて目ん玉を突き破りながら爆破。
目の奥の視神経ごと破壊してやった。
体ごと目ん玉に入ったけどくっそ狭い。
外からは夜空に轟く叫び声、が体内を伝って聞こえてくる。
右手だろうが目を押さえてるせいで出口が塞がれた。
目を押さえてしばらく苦しんだあとに起き上がった化け物は、オレの足を摘んで引き摺り出す。
おかげでオレは助かったけど摘まれた足も腓骨が折れたかもしれねーな。
けどそれも構っていられねー。
痛みに苦しんで転がりながら暴れる化け物の胸元に飛び乗るが、左手で払われて地面を転がった。
あんだけ苦しみながらも胸の傷を守ろうとしてるんならあそこからとどめはさせるだろう。
左右の手に何度も払われながらも奴の胸目指して挑み続け、左の腕も犠牲にしてなんとか胸の穴に飛び込んだ。
オレを取り出そうと手を突っ込もうとしたところで体内を爆破。
空を引き裂くかの如き絶叫が響き渡り、奴が動かなくなるまで蹴りによる爆破を続けた。
叫び続けた化け物も最後には声を上げる事が出来なくなり、体を痙攣させながら息耐えた。
化け物の体内から出たオレも両手がまともに動かねーし、体に力が入んねーな。
でも…… あいつらの誰かはもしかしたら生きてるかもしれねー。
残りの魔力で回復すれば命を繋げるかも……
必死に体を踏ん張って、上手く動かない左足を引き摺りながらあいつらのとこに近付いた。
クルド達はもうダメか……
プラドも内臓が飛び出してるし無理だ……
オセルス達も……
ヘンリーとジェシー、カナンは壁に寄りかかって倒れてる。
もしかしたら……
意識が……
もう……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デンゼルから草原へと避難した冒険者達と街人、役所の者達。
あの後も襲って来た五十体を超えるオークの群れを撃退し、化け物の叫び声に怯えながらデンゼルの街を見つめる。
「ファジー所長! 勇飛を、勇飛を助けに向かわないんですか!?」
「すまないモーリス…… まだ安全が確認できない以上デンゼルへの出入りは禁ずる」
「それでも勇飛さん一人であの化け物と戦ってるんですよ!? 私だけでも行かせてください!!」
サーシャが涙を流しながらファジーに頼み込むが、マークも悔しそうにサーシャを引き止めている。
「オレ達も行かせてくれ!! 勇飛一人見殺しにする気かよ!?」
「そうだ!! オレ達も行くぞ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
「皆さんだめです!! 勇飛さんが任せろと言ったんです!! 所長の許しが出るまでは行ってはいけません!!」
「ターナー!! お前だって行きてーんだろ!? 勇飛みてーに強え冒険者になりてーって言ってたのオメーだろうが!! そんなあいつをお前は見殺しにすんのか!? ああ!?」
「勇飛さんは僕の憧れなんです。たった三カ月でシルバーランクまで上り詰め、今はこうして僕達を守る為必死に戦ってる! 僕は信じてるんですよ…… 勇飛さんが勝つ事を…… 絶対に勝つと信じてます」
「私も信じます。彼はクイースト王国最強の冒険者。鈴谷勇飛は必ず勝つと…… 信じています」
ファジーは膝をつき、デンゼルの街へと祈りを捧げる。
同じように役所の職員達、勇飛を知る街の者達も祈りを捧げて勝利の時を待つ。
サーシャも涙を流しながらマークと共に祈りを捧げ始めた。
三時間を過ぎた頃。
化け物の叫び声も爆発音も聞こえなくなり、暗闇の中に風の吹く音だけの静けさとなる。
「お…… 終わったんじゃないか?」
「勝った…… のか?」
「待ってください皆さん。まだどうなったかはわかりません。私と共に怪我のしていない冒険者の皆さんはついて来てください。もしこの場が襲われれば街の皆さんが危険です。半数はここで待機をお願いします」
「ファジー所長。私も連れて行ってくれませんか。勇飛の怪我は私が治してやりたいのです」
「エルリー医師。お疲れのところ申し訳ありません。お願いします」
「オレも行かせてください!」
「モーリス。私の許可よりも家族の許可を」
「すでにもらっています!」
「私も! 私もお願いします!」
「ファジー所長、サーシャと僕も行かせてください」
「もし危険があれば即退避をしてもらうよ」
「「はい! ありがとうございます!」」
ファジー、エルリー、モーリス、サーシャとマーク他、冒険者十四名がデンゼルの街へと向かって行く。
勇飛の勝利を信じて。
デンゼルの街へと着くと、破壊された家々が軒を連ね、道を埋めるかのようにオークの死体が転がっている。
そしてその中に点々と倒れ伏す冒険者の亡骸。
誰もが自分達の顔見知りで、命無き彼らを見る度に涙がこみ上げてくる。
そして大通りへと出ると、視界に入るのは真っ赤な血溜まり。
そして地面に倒れる巨大な化け物の姿。
勇飛は……
オークの死骸が積み上がるその奥。
家屋の壁に寄りかかるようにして倒れている冒険者達の正面に膝をつき、範囲の回復魔法を展開する勇飛がいた。
「勇飛さん!!」
サーシャが叫ぶが勇飛に反応はない。
全員で駆け寄り、勇飛の状態を確認する。
右腕は酷く焼け爛れ、左手は砕けて骨が肉を突き破り、口からは血を流しながらも目を虚ろに開いている。
全身傷だらけで乱れた装備の中に見える体にも赤黒い痣が見える。
発動している範囲の回復魔法は自分に向けられたものではない。
壁に寄り掛かかるヘンリー達に向けられていた。
「勇…… 飛…… さん? も、もしかして…… 意識が……」
「気を失ってなおも彼らの回復をしていたのか……」
「エルリー医師。彼らの容態は?」
三人を診ていたエルリーは無念そうに首を横に振る。
そのままでは可哀想だと冒険者達に頼んで彼らの亡骸を役所内に運んでもらう。
彼らの亡骸を移動すると同時に、事切れたかのように勇飛は地面へと倒れ込んだ。
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