第7話 武器と仲間

 審査の次の日からもクエストを受け続けた。

 難易度も5以上を受け続け、三週間で3千万リラを突破した。


「ナッシュ。ついに3千万リラ超えたぞ!」


 クエストが終わって武器屋ゴレンに来たオレは、ナッシュにお金の入った袋を見せる。


「もうそんなに稼いだのか? 毎日頑張ってるとは思ったが三カ月はかかると見てたんだがな」


 驚いた表情でオレを見るナッシュ。


「人は欲しい物の為なら頑張れるだろ」


 ついに武器が手に入ると思うとすごく嬉しい。


「まぁそうだな。オレもこの筋肉の為に毎日頑張ってるわけだしな。よし、ちょっと待ってろ。ユーヒの要望に合わせたやつを仕入れてあるからよ」


 ナッシュは店の奥に取りに行く。




 箱を持って戻って来たナッシュ。


「ライオスに特注したナックルだ。オレが気に入ってる職人でな。ライオスの装備は装飾もいいんだ」


 綺麗に加工された木箱を受け取る。

 箱に焼印でライオスとある。

 オレも少しは字が読めるようにはなっている。


 箱を開けてみると黒い武器が姿を現わす。

 装飾が施された金と黒の…… ナックル?

 派手さはないが、どんな装備にも合わせてられそうだ。が、ナックルにしては少し小さいんじゃないか? 

 ナックルというよりガントレットのように見えるが。


「ユーヒの要望をそのまま形にしたらガントレットになったそうだ。だがガントレットを攻撃に使えるように作ってあるらしい。あとその下にレガースが入っている。両手足で戦うと言ったら作ってくれたんだ」


 確かにオレの要望からするとこれであってるのかもしれない。あまりゴツくないようにとも言ったしな。

 ガントレットは拳から肘まで覆うが、各部関節も曲がるように作られている。

 指の部分もしっかりと折り曲げられるようにミスリルが重なっている。

 レガースは膝から脚の甲までを覆い、動きやすいよう可動部は重なるようにミスリルを組まれている。

 見た目はかなり良い。

 オレ好みに仕上がっているし、作りもかなりしっかりしている。


「ありがとうナッシュ。レガースも着いてきたけどこれ値段はいくらになるんだ?」


 ナックル分として3千万リラしか用意してないが……


「それで3千万リラだ。うちの儲け分を差し引いて注文してあるからな。予定とは違うかもしれんがそれでどうだ?」


 ナックルがガントレットになってしまったが攻撃に使えるように加工してあるらしい。

 それならナックルと呼んでも良いのかもしれない。


「これで良いよ。オレの要望を形にすると、確かにこうなるだろうからな。このまま装備して帰るから箱は処分してくれ」


 3千万リラを支払って装備する。

 思った以上にしっくりくる。

 魔力の放出も素手よりも早いし動きを阻害することもない。


 店を出て、また役所へ向かう。

 サーシャに武器を見せに行く為だ。

 ランクの事もあるので武器を買ったら見せに来いと言われていた。






「サーシャ! ほら、買ってきた!」


 役所に着くなり武器を見せつける。

 ふふん、と自慢気に見せたのだが……


「ユーヒさん…… 武器を買いに行って防具を装備して帰ってくるとか何のつもりですか!?」


 サーシャは頭を押さえている。


「んん、これがオレの武器だ!」


「ま、まぁユーヒさんならそれで問題ないんでしょうけどね…… ナスカさんも来てますしとりあえず所長に報告して来ますね」




 少し待つと所長室に通された。

 ファジーだけでなくナスカ達も何故かオレを見て苦笑い。


「あれ? オレの格好なんか変か?」


「武器持ってないじゃない」


 やはり防具にしか見えないようだ。


 一応ライオスの武器であると説明し、ナスカが装備を確認する。

 ライオスというのは武器の職人として有名らしく、防具は作らず武器専門の職人という事で納得したようだ。


「さて、ユーヒ君が武器を手に入れたという事でランクアップをしたいんだが…… ナスカ君はどのランクが良いと思う?」


 オレのランクアップを武器を手に入れるまで禁止していたのはナスカ。

 前回カインとエレナはブルーランク以上でも良いと言っていたが。

 ファジーはナスカの意見を聞きたいようだ。


「ユーヒはシルバーランクでも通用すると思う。だけどソロじゃシルバーランクとして認めたくないというのが本音だ」


 シルバーランク。


 難易度9までのクエストを受注が可能。

 ソロでは認めたくないという事はかなり危険だと判断しての意見だろう。

 まぁブルーでも別に困らないのだが…… なんかナスカがモジモジしてるな。


「ナスカ。言いたい事があるなら言わなきゃダメよ?」


「そうだよ。リーダーなんだから君が言うべきだよ?」


  何か言わなきゃならんらしい。


「そう…… だな。ユーヒ、良ければ私達のパーティーに入る気はないか?」


 ナスカはなんで申し訳なさそうに言うんだろう?


「えーと……」


「いや! 待て! 答える前に私達の話を聞いてほしい!」


 ナスカが焦ったようにオレの言葉を遮る。


 ナスカの話はパーティーの話しだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 過去のパーティー。


 ナスカをリーダーとしてカイン、エレナのパーティーに、一人の新人冒険者を仲間に加えた。

 名前はユミル。

 登録してまだ半年ほどの新米冒険者だったそうだ。

 その頃既にシルバーランクの冒険者としてこの辺りで名の通ったナスカのパーティー。

 三人だけのパーティーに、仲間に入りたい冒険者も多かったそうだ。


 そんなナスカのパーティーに入ったユミルはイエローランク。

 それをよく思わない者も少なからずいたらしい。

 陰口をたたかれ、直接本人の耳にも入っていたそうだ。

 ナスカ達の前では仲間として気にする風でもなく元気に振舞っていた。

 強くなろうと努力し、毎日夜遅くまで魔法の訓練をしていたそうだ。


 程なくして受けたクエスト。

 難易度8のクエストで事件が起こった。

 モンスターに囲まれたパーティー。

 前衛のナスカとエレナがモンスターの群れをなぎ倒していく。

 カインは弓矢を放ち、ナスカやエレナの合間を縫って敵を射る。

 しかし押し寄せるモンスターの数に、ナスカやエレナも捌ききれずにいた。

 この窮地を脱するべく、一番後ろに立ったユミルは練習していた魔法を発動する。

 下級魔法陣を発動し、呪文を唱えて魔力を練る。

 覚えたての呪文と魔法陣。

 範囲魔法を放つ事だけに集中していた。

 合図とともにユミルの範囲風魔法が炸裂する。

 およそ三十体もいたモンスターの群れの半数を倒し、そして……


 ユミルは背後から槍を突き刺された。


 魔法に集中し過ぎたせいで、周囲への警戒を怠った。

 その結果としてモンスターの殲滅に成功するが、ユミルは死んだ。


 本来彼が参加するべきではないクエストに自分達は連れて行ってしまった。

 その結果として彼を殺してしまった。

 そこには自分達がシルバーランク冒険者としての驕りがあった。

 新米冒険者を連れていても守りきれると。


 自分達上位ランクの冒険者には大きな危険が伴う。

 ランクアップは喜ぶべき事であると同時に命の危険性を高めてしまう事だ。


 自分達はシルバーランク冒険者。

 その危険に、戦う事のできないヒーラーを巻き込む事はできない。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「だから私はユーヒがヒーラーだと知った時、戦う術のないユーヒをパーティーに誘えなかった。だが今目の前にいるユーヒは私達よりも強いだろう…… それでもソロの高ランク冒険者は危険過ぎる! ソロではシルバーランクと認めたくないんだ」


 拳を握り締めたナスカ。


「オレがパーティーに入ったら?」


「シルバーランクを認めるし、命掛けでユーヒを守る!」


「入らないと言ったら?」


「シルバーランクは認めない!」


「随分と勝手だな…… まぁ別にランクとかどうでもいいんだけどな」


 あれ? なんかナスカが泣きそうに見える。


「ねぇ、ユーヒ。パーティーに入ってよ。ナスカがユーヒを気にし過ぎて私達がクエストに行けないのよ」


「ちょっ! エレナ!?」


「そうなんだよ。僕達を助けると思ってパーティーに入ってよ。ナスカがユーヒのクエストを追いかけたりするから僕達はなかなかクエストを受けれないんだよ」


「うわぁぁぁぁあ!! 言うな!!」


「…… え? ナスカってストーカー?」


 ストーカーの意味は通じなかったが。


 エレナがナスカを押さえつけてカインが説明してくれた。

 オレが冒険者登録をした時はエントのクエストをサーシャに頼んであった。

 エントなら逃げれると判断しての事らしい。

 次にゴブリンクエスト。

 ナスカがクエストを発注し、オレがピンチの際には他の冒険者が助けてくれるようにしてあったそうだ。

 サーシャを通して情報を集め、字が読めないのをいい事に無理なクエストは受けさせないようにも指示していたそうだ。

 少し難易度が高めだと必ずナスカは追いかけたらしい。

 困った奴だ。

 リーダーのくせにパーティーに迷惑をかけるとは。

 心配性なのは以前かららしいが、カインが言うには今回は異常らしい。

 もしかしたら異世界から来たオレが怪我をしてたからとはいえ、ヒーラーになってしまった事に責任を感じてるのかもしれない。

 

「よし、わかった。カイン説明ありがとう。エレナも離していいぞ」


 エレナは椅子に座り直し、ナスカは全て知られてしまったせいか涙目だ。


「パーティーの件だが、オレが加入するのに条件がある。それを認めてくれるならパーティーに入るよ」


「うんうん。その条件とは?」


「条件次第ね……」


 ゴクリと唾を飲んでオレの言葉を待つ三人。


「ナスカをリーダーから外す事」


「なんで!?」


「暴走するから。ん? いや、変態だから?」


「変態じゃない!」


「人をつけ回すのはオレのいた世界では犯罪だ。ストーカーと呼ばれる変態だぞ」


「え…… そ、そんな……」


 ポロポロと涙を流すナスカ。


「嘘!? ナスカが泣くとか…… ちょっとナスカ? どうしたの? お腹減ったの?」


 ナスカは腹減ると泣くのかな?


「まぁ心配し過ぎた結果だよ。悪く思わないでよユーヒ。ナスカとしては初めて子供をお使いに出す親の気分だったんだよ」


 適当な事を言うカイン。

 まぁわからなくもないんだけれども。


「ナスカ。悪いな、半分冗談だ。ほら泣くなよ」


 持っていたハンカチを渡してやる。


 涙は止まったがなんか睨んでるな。

 どうしたんだろう?


「で? どうするんだ? パーティーに迷惑をかけたナスカはリーダーを外す! これが条件なんだが?」


「わかった。私はリーダーを降りる…… だから……」


「よし、決まりだな。オレをパーティーに入れてくれ!」


 ナスカがリーダーを降りると言ったのでパーティー加入を決める。


「…… 今からユーヒがリーダーだ」


 何故かナスカがリーダーをオレに振った。


「は? なんで!? カインかエレナだろ! オレはパーティーに入っただけだからリーダーなんてやらねーぞ!」


「ユーヒリーダーよろしくお願いします」


「ユーヒリーダーよろしくね!」


 丁重にお断りしたのだが、カインもエレナも認めない。

 ナスカをリーダーから外したのだから勇飛がやりなさいと言われてしまった。


「わーったよ。オレがリーダーやるよ。カイン! エレナ! よろしくな! ナスカもよろしく! それと…… 心配してくれてありがとう」


 ついにオレにも仲間ができた。


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