第6話 ランクアップ審査

「なぁサーシャ。今日はどれ行こうか」


「まだ字が読めないんですか……」


 そんなわけでサーシャが選んでくれたのはオーク討伐だ。

 以前倒したオークとは別の場所、南部の街道から外れた山の中らしい。


 クエスト内容:オーク討伐

 場所:デンゼル南部山中

 報酬:一体につき40,000リラ

 注意事項:群れで生息する

 報告手段:魔石を回収

 難易度:5


「南部のオークはものすごい数がいるそうです。ユーヒさんの戦い方なら大丈夫だとは思いますが充分注意してくださいね!」


「それならめっちゃ稼げるな! いやーそういうクエスト待ってたんだよ」


 稼げるクエストは嬉しい。


「オークやるのか。サーシャが言う様に群れの数が半端じゃないぞ?」


 振り返ると三人組のパーティーが立っている。


「ナスカさん! 今日はユーヒさんをお願いしますね!」


「おお、ナスカか。カインとエレナも久しぶりだな。今日はよろしくな」


 久しぶりに会うメンバーで少し嬉しい。


「久しぶりだねユーヒ。オーク狩りに行くなら僕達もついて行くよ」


 念の為ね、といった口調で言うカイン。


「サーシャ。ユーヒ一人にオーク討伐クエストはあまりなんじゃない? 難易度の見直しも必要だと思うわよ?」


 訝しげな表情で言うエレナ。


「そ、そうですか? ユーヒさんなら全然余裕だと思って選んだんですけど」


 あわわと慌てるサーシャ。


「サーシャが選んだのなら安全だろ」


 サーシャは無理なクエストは指定しない。


「危険と判断したら即参戦するからな」


 睨みを利かせて言うナスカ。

 クスクスと後ろで笑うカインとエレナは何なのだろう。






 役所を出て南門に向かって少し歩いたところでナスカが気が付く。


「ちょっと待てユーヒ! 武器はどうしたんだ!?」


「武器はまだない」


 手をひらひらさせて答えてみる。


「なんで武器を最初に買わないのよ! 一番大事なものでしょう?」


 エレナに注意されてしまった。


「最初に何を買ったんだい?」


 苦笑いで問うカイン。


「普段着とパンツかな」


「確かに大事だけど!」


 ツッこまれた。


「お金はあるんだろう? なんで買わないの?」


「ミスリル製の武器買おうと思って金貯めてる」


「いくら貯めるの?」


「少なくとも3千万リラは用意したいな」


「高いな…… 何を買うつもりなんだ?」


「見た目の良いナックル」


 などという会話をしながら南門を抜け、街道を進んで側道から山へと入る。


 街道で一体もモンスターが出てこない事にナスカ達は首を傾げていた。




 山を登り始めて二十分程でモンスターらしき声が聞こえる。

 さらに登って行くと拓けた場所があり、オークの群れを見つけた。


「じゃあ行ってくる。ナスカ達は自分の身を守る以外は手を出すなよ」


「本当に平気か? 見えるだけでも三十体はいるぞ」


 心配するナスカに振り返らずオークに向かう。


 オレに気付いてオークが群がって来た。


 オークの一体が武器を振りかぶると同時に正拳突き。

 爆発音が鳴り響き、オークが吹っ飛ぶ。

 直後に横にいたオークに回し蹴りでの爆破。

 両手足から繰り出す攻撃は、一撃の元にオークを叩き伏せる。

 テンポよく響く爆発音はさらなるオークを誘き寄せ、数え切れないほどのオークで埋め尽くされていく。


 集まるオークの数も尋常ではないが、同時にオークの死体の山もどんどん高くなっていく。


 さすがに数が多過ぎるな……

 時折オークの攻撃を受ける。

 すぐさま回復するから問題はないけどね。




 およそ十分ほども戦い続けるが、息も切れないし動きが鈍る事もない。

 それどころか戦いに慣れてキレが良くなってきた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 少し離れたところで話すナスカ達。


「なんだよあれ。本当にヒーラーか?」


「回復もしてるから間違いなくヒーラーだね」


「爆破の威力が物凄いわね。ほとんど一撃じゃない」


「サーシャから聞いていたけどこれ程とは思わなかったぞ」


「これならレベルが上がるのも早いだろうね」


「ブルーランクどころじゃないわね……」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 戦闘開始からおよそ十五分ってとこか。

 全てのオークを倒し終え、死体の山の上に立つ。

 血に塗れて全身がどす黒い。

 気持ち悪いし早く魔石に還そうと死体の山を降りる。




 全ての魔石を集めるまでに二十分かかった。

 倒すよりも魔石集めに時間がかかるのはどうかと思う。

 魔石に還すと体に浴びた血も全て落ちる。

 なんとなく防具の臭いを嗅ぎながらナスカ達の元に戻る。


「悪いな。待たせた」


「早過ぎるわよ……」


 顔を引攣らせたエレナ。


「ユーヒは疲れないの?」


 苦笑いで問うカイン。


「体力も回復してるからな。あまり疲れは感じないな。で? 審査は問題ないだろ?」


「ええ。問題ないわ。それどころかブルーランクより上げても良いくらいよ」


「それは武器を買ってからだ。それまでは私は認めないぞ」


 指差して言うナスカ。

 うーん。と頭を押さえるカインとエレナ。


「なぁ、洗浄魔法かけれないか? 血は落ちてるけどなんか気持ち的に嫌だから綺麗にしてほしい」


 ナスカが水筒から水を出して魔法を発動し、防具を洗浄してくれた。


 サラサラに乾いたのでお礼を言う。


「ユーヒは随分と体を鍛えたんだな。一週間前はあんなに細かったのに」


「回復魔法あるからな。体が限界になったら回復すれば筋肉もつくのが早い」


「そういうものなのか。レベルはいくつだ? かなり魔力量があるみたいだが」


「今朝レベル8に上がって魔力量が10万ガルドだったな」


「「「10万?」」」


 三人とも驚いているが。


「それは多いのか?」


 冒険者の平均が15,000ガルドほどらしいが、強い冒険者はどれほどか知らない。


「私はレベル9で54,000だ」


「私は50,000よ」


「僕がレベル8で42,000ガルドだよ」


 魔力量二倍もあるんだ……


「迷い人は魔力量が多いって本当なのね……」


「さすがに今までそんな数値は聞いた事ないがな……」


「さて、そろそろ帰ろうか。報酬も楽しみだし!」


 顔を引攣らせるナスカ達をよそに魔石を見つめる。

 すげー稼げそうで嬉しい!






 役所に着いて報告。

 ナスカ達は所長室へ入っていく。


 本日の報酬536万リラ。

 これまでの最高額が手に入った。

 呆れ顔でオレを見るサーシャはいつもの事だ。


「ランクを上げた途端にこれですか!」


「サーシャのおかげですげー稼げた! ありがとな」


「オーク百三十四体ってそんなにいた事自体にも驚きですよ!」


「さすがに多かったな。捌ききれなくて何発かもらったし」


「何発かで済むのもおかしいですけどね!」




 しばらくしてナスカに呼ばれたので所長室へ入る。


「これで審査は無事終了だ。カイン君やエレナ君はシルバーランクでも通用すると言うんだけどね。今回の審査員であるナスカ君がブルーランクのままと言うので変更はないが構わないか?」


「ランクはどうでもいいからな。サーシャが選ぶクエストに行くだけだし」


「ねぇナスカ。シルバーランクでいいじゃない。パーティーに誘いたいんでしょ?」


「僕達三人だってあの数のオークは倒しきれないよ?」


「だめだ! 武器がないと今後は倒せないモンスターがいるかもしれないだろ!」


「ナスカは心配性だよね」


「もういいか? 腹減ったんだけど」


 魔力を消費して空腹なんだよな。


「む! それなら私達も一緒に食べに行く!」


 もう要件は済んだので役所を後にする。




 今日の昼食は揚げ物を扱う店に入った。

 串揚げみたいな店で、日本にいた時の感覚で食べると衝撃を受けた。

 予想外の激辛料理。

 全員が頭を押さえて「くあっ!」っと声を漏らしていた。


「ユーヒはヒーラーの魔力で攻撃魔法が使える事知ってたのか?」


「いや、魔力を単純に火のイメージじゃなく火薬に例えてみたら爆発したんだ」


「カヤク? なんだそれは」


「この世界には火薬もないのか。えーと、簡単に言うと火をつけると爆発する粉の事だ」


「ふむ。魔力が粉状だからそのイメージがうまく当てはまったんだろう」


「まぁ魔法がイメージ次第ならヒーラーでも魔法は使えるよな」


「そんなヒーラー今までいなかったんだがな」


 頬杖をつきながら言うナスカは訝しげな表情だ。


「ナスカはあれから毎日クエストか?」


「そんなわけないだろう。二、三日おきに休みを取っている」


「ナスカは休みの日にこっそり役所に様子見に行ってたわよね」


「少しサーシャに用があっただけだ!」


「物陰からサーシャを見てたの?」


「んなっ!? まさかつけて来たのか!?」


 少し顔が赤いナスカだった。




 食事が終わったら次はゴレンに向かう。

 普段は何をしているのか見たいとの事でナスカ達も着いてくる。

 ゴレンに着いてベンチプレスを始める。

 ナッシュに促されてナスカもダンベルを持ち上げる。


「魔法は使うなよ。筋力だけで持ち上げろ」


 ナッシュの指摘に魔法を使わず持ち上げようとするが上がらない。

 ある程度鍛えられているはずのナスカでも持ち上がらない程の重さのダンベル。


 カインやエレナも試してみるが上がらない。

 普段魔法の補助で重い物を持ち上げる事も可能だが、筋トレである為魔法は厳禁。


 オレは爆破魔法と回復魔法しか使えない為、常に筋力のみでトレーニングを行っている。


 その後一時間ほどトレーニングをして解散となった。


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