第4話 筋トレ

 翌日も役所を訪れた。


「今日もオレのできそうなクエストを頼むよ」


 受付のサーシャに話しかける。


「今日は無難にゴブリン討伐はどうですか?」


 クエスト内容:ゴブリン討伐

 場所:デンゼル東部森林地帯

 報酬:三十体討伐で100,000リラ

 注意事項:群れで生息する

 報告手段:魔石を回収

 難易度:3


「三十体倒せば良いのか?」


 クエストの用紙を見て聞いてみる。


「数字を覚えたんですか? そうです。三十体討伐で10万リラとなります。ただ群れで生息してますので注意してくださいね」


 オレが字を覚えようとしているのがわかり、少し嬉しそうに言うサーシャ。


「10万リラは大きいな。それ行ってくるよ」


 という事でクエストを受注して昨日と同じ森林地帯に向かう。






 森林に入るとまたエントがいるので、とりあえず倒していく事にする。


 昨夜もまた魔力の訓練を積んでいるので、今日は左手からも魔力を放出できる。


 試しにエントの触手を右手で爆破し、怯んだところを左手で胴体を爆破。

 昨日よりも楽勝だ。


 さらに奥へと進み、最初のゴブリンと遭遇するまでにエントを六体倒した。




 遭遇したゴブリンは七体の群れだった。

 オレに向かって走ってくるゴブリンは背が小さく、120センチほどあるだろうかという程度。

 しかしながら木の棒や石槍などの武器を手に持ち、動きもなかなかに速い。

 当たれば怪我をするかもしれないが、ヒーラーだし回復すればいけるだろと安易な考えで戦いに挑む。


 最初のゴブリンを前蹴りで吹っ飛ばし、巻き込まれてバランスを崩した一体に右手で爆破を浴びせる。

 爆発音に驚いたゴブリンが硬直しているうちにすぐ横にいたゴブリンに左手で爆破。

 すでに右手には魔力が放出されているので次々に倒していく。


 一分と経たずに七体のゴブリンを殲滅し、全て魔石に戻して回収する。

 ゴブリンの魔石は直径1センチほどの小さなものだった。




 他の群れを探しにまた先へと進み、およそ二時間森を歩き回って三十四体のゴブリンを倒した。

 途中現れた豚のような顔をした、人間の大人ほどの大きさのモンスターも十体ほど倒した。


 クエストの条件を満たしたので役所へ戻る。






「サーシャ。これ確認してくれ」


 ジャラリと魔石の入った袋を受付のテーブルに置く。


「今日も早いですね…… 他にもいろいろ倒してるみたいですし確認してきます」


 袋を持って奥の部屋に入っていくサーシャ。




 数分待っていると魔石の入った袋とクエストの用紙を持って戻ってきた。


「オークも倒してましたけどどうでした? 大きな人型のモンスターですが強かったですか?」


「例えるならゴブリンが子供、オーク? は大人のモンスターって感じだったな。別に強くはなかったけど」


 何の苦もなく倒したので軽く答える。


「あれでも人間の大人よりはるかに力が強いんですけどね。難易度も5ですし……」


 オークは決して弱くはないそうだ。

 動きは人間よりも速くて力も強い。

 武器も持っているうえ群れで生活するモンスターとの事。

 普通の冒険者が正面から挑んでもそう簡単に倒す事はできないらしい。


「オークの報酬はらいくらなんだ?」


 ゴブリンより少し高いだろうと踏んで問いかけるたのだが……


「オークは一体につき4万リラです」


 クエスト用紙をこちらに向けて、苦笑いで答えるサーシャ。


「え!? 高くねぇ!? すげー楽勝だったのに!」


 めっちゃ驚いた。


「オークを楽勝と言う人はなかなかいませんよ。ユーヒさんは少し異常です」


 クエストの報告書を書きながら言う。




 難易度5のクエストを簡単にクリアしたという事でグリーンランクに上げても良いらしいが、ランクアップはまだ防具すら付けていないので見送る事にした。




 受け取った報酬は総額54万リラ。

 大金が手に入った。

 まぁしかし今後ミスリル武器を買う予定なので、目標はまだまだ先となるが防具は近々買いに行こうと思う。


「今日はこの後どうするんですか?」


「体を鍛えに行ってくるよ。あとは魔力の訓練と勉強かな」


「防具は買いに行かないんですか?」


「今日はまずいいや。サーシャが暇な時に連れてってくれ」


 二日続けて早退させては申し訳ないので断る。


「わかりました。では三日後に私もお休みですので買いに行きましょう」


 三日後か。

 それまでにもう少し稼いでおきたいな。




 役所を後にして武器屋に向かい、隣にあるジムのようなところを訪れた。

 字が読めないので名前はわからない。


「すみませーん。体を鍛えたいんだけど」


 なんとも頭の悪そうな発言だなと思う。


「いらっしゃい。オレは武器屋ゴレンの店主ナッシュだ。兄ちゃんはどんな武器を使うんだ?」


 スキンヘッドの筋骨隆々といった男は武器屋の店主らしい。


「オレは勇飛だ。まだどんな武器を使うか決めてないけどだめか?」


「いや、体を鍛えるのはいい事だ。ただ強そうな武器を買っていくだけの奴が多いからな。まともに使えなくて宝の持ち腐れになる奴も多い。今日は体験の意味でやっていけ。明日は身体中痛いだろうがな」


 ガハハと笑うナッシュは筋トレ好きなのだろう。




 中に案内された。


 オレが知っている筋トレの用具とは違い、ただの金属の塊や重そうな鉄の棒が置いてある。


「やり方がわからないんだけどやって見せてくれないか?」


「おう。まずはこの金属の塊を掴むだろ? これを持ち上げるだけだ。やってみろ」


 丸みを帯びた金属の塊を掴んで軽々とやってのけるナッシュ。


 試しに掴んでみるが持ち上がらない。

 両手でなんとか持ち上がるくらいの重さだ。


「こ、こんなやり難いので鍛えるのか?」


「そうだ。体の限界まで追い込めば強くなりやすいから頑張れ」


「ちょ、ちょっと待て。何か書くものないか?」


 紙とペンを借りてサラサラと絵を描く。

 お世辞にも上手いとは言えないがまぁ見てわからなくもない絵だろう。


「なんだそれは? 初めて見る形だな」


「体を鍛えるための物だ。その鉄の塊も持ち手を作ればやりやすいからな。武器屋ならこれ作ってくれるとこも知ってるだろ」


「これは鉄の棒の端に金属の板を何枚か付けるのか。確かに良さそうだな。鍛冶屋に頼んでくるからちょっと待ってろ」


 武器屋の方を店員に任せて出ていくナッシュ。



 待ってる間に少しやっておくかと金属の塊を持ってスクワット。

 まともに上がらないが全力で持ち上げる。

 数回で膝が笑い出し、立っている事もままならない。

 このままじゃまずいしな…… 全身に回復魔法をかけるか。

 痛みがひき、スッと立ち上がれる。




 あれ? 腿が硬くなっている。


 この数回で多少鍛えられたようだ。


 再び金属の塊を持ち上げてスクワット。

 限界まで持ち上げて立てなくなったら回復をする。



 何度か繰り返すとスクワットの回数も増えてきた。

 ヒーラーが筋トレすると数ヶ月でゴリマッチョになれそうだ。


 さらに金属の塊を地面に近いところから持ち上げて上体を起こす。

 背筋を鍛えるつもりでやってみる。


 これも数回で限界がきた。

 回復してまた繰り返す。



 次にベンチに寝転がり、太い鉄の棒を持って持ち上げる。

 やり難いがベンチプレスの要領だ。


 持ち難いがやれなくもない。

 これはなかなか限界がこなかったのでもっと重そうな物を探す。



 やはり先程の金属の塊を持ち、力いっぱい掴んだままベンチに寝転がる。


 重いし持ち難い。

 気を抜いたら潰される。

 歯を食いしばって全力で持ち上げる。


 五回持ち上げたところで腕が上がらなくなった。

 堪らず横向きに金属の塊を落とす。


 回復して再び繰り返しているとナッシュが戻ってきた。


「おう、やってたのか。感心だなユーヒ。さっきのやつ頼んできたぞ」


「よくこれでやってたな…… って言いながらオレもやってみたけど」


「やったと言うわりに全然平気そうだな。負荷が足りないんじゃないか?」


「オレ実はヒーラーなんだよ。体が限界きたら回復してる」


 苦笑いで頭を掻く。


「ヒーラーなのに冒険者か。変わりもんだな」


 首から下げた冒険者カードを見て言うナッシュ。


「奴隷にはなりたくないからな。一応戦えるから問題ないだろ」


「普段はどうやって戦うんだ? 何も持ってなさそうだが」


 どこにでもいる一般的な庶民の服装をしたオレを見て問うナッシュ。


「魔法で倒すんだ。でもほとんどのモンスターは動き速いし力も強いんだろ? 鍛えておかないと今後厳しいだろうからな」


「ヒーラーの魔法で倒す? モンスターも傷が治るんじゃねーのか?」


 ナッシュも不思議そうな表情だ。


 指先に魔力を集めて爆破して見せる。

 わずかな魔力だったので小さな爆発だ。

 今度は驚いた表情をするナッシュ。


「こんな爆発する魔法だ」


「ヒーラーが戦える魔法を使うとは、おもしれーなユーヒは。武器は今後どうするんだ? 何か希望のもんがあれば仕入れとくぞ?」


「どんなのが良いと思う? 武器なんて使った事ないけどな」


「今素手で戦えるならナックルでも良いかもな。ミスリル製なら今より強い魔法になるだろ」


「今は金無いしな。一応参考までに聞くけどミスリル製のナックルっていくらするんだ?」


「安いので片手で800万リラだな。まぁ1,200万以上のもんだと装飾もついて見た目もだいぶ良くなるがな」


「見た目も大事だよな。最低3,000万リラは集めたいところだ」


「しばらく買えねーな。まぁ半額払えたらあとは分割でも良いぞ」


「それなら助かる。明日からまた頑張るわ」


「おう。死なねー程度に頑張れよ」


 また筋トレを再開する。

 筋トレと回復を繰り返して、二時間もすると目に見えて鍛えられた事がわかるほどになった。

 もう少し頑張るか、とさらに二時間続けた。

 明日も来る事を伝えて宿に戻る。


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