第3話 冒険者

 爆破魔法を手に入れた。


 これで戦闘は何とかなると思うし、とりあえず役所に行って冒険者の説明だけでも聞いてこようと思い向かう。


 役所の場所はナスカに聞いていたので迷わず向かう事ができる。




「すみません、冒険者になりたいんですけど条件とかあるんですか?」


 受付の女性に向かって声をかける。


「はい。冒険者になりたいのでしたらレベルが4以上という事が条件となります」


 レベル4? 自分のレベルを知らないや。


「自分のレベルがわからないんですけど」


「見た所十五歳以上と思われますが…… 変わった服装をしていますね」


 ジロジロと装いを確認する。


「一昨日この世界に来た迷い人? らしいです」


「もしかしてユーヒさんですか? ナスカさん達から聞いていますよ」


「はい。鈴谷勇飛です。冒険者になりたいんですけどどうしたらいいですか?」


「あ、私はサーシャといいます。迷い人でしたら魔力量は高いはずです。魔力測定して一般の冒険者の魔力を上回っていれば登録可能ですよ」


 魔力量が高ければレベルは関係ないのだろうか。


「測定はできるんですか?」


「では奥の部屋へどうぞ。測定器がありますので魔力量がわかりますよ」


 サーシャに促されて奥の部屋へ入る。




 ただの板のような物を渡され、魔力を流し込む。

 文字が現れてサーシャに見せる。

 昨日習ったような気がするけどまだメモ用紙を見ないとわからないや。


 測定値を見てわなわなと肩を震わすサーシャ。


「レ、レベル2で魔力量が17,000ガルドです……」


 声も震えて驚愕の表情を浮かべている。


「それで足りますか?」


 魔力量の基準がわからないんだよね。


「は、はい。充分過ぎるほどです。冒険者のレベル10の平均値が15,000前後ですので、異常と言える数値です」


 顔を引攣らせて答えるサーシャ。


「ヒーラーの魔力でも平気ですか?」


「…… え? ヒーラーなんですか?」


 訝しげな表情に変わるサーシャ。

 表情の豊かな人だなと思う。


「ヒーラーだとダメなんですか?」


「ヒーラーでしたらあまりお勧めはしませんね。戦闘に使える魔法がありませんので……」


 苦笑いで言われてしまった。


 それならばと掌から魔力を放出して見せる。


「オレの魔法を見ますか? 大きな音もしますけど」


「まぁ…… どうぞ」


 放出した魔力を爆破する。


 室内で耳を劈くような爆発音。

 サーシャは悲鳴をあげて、耳を抑えてしゃがみ込む。

 オレの耳もキーンと鳴っている。


「ななな、何ですか今のは!?」


 驚愕の表情で叫ぶ。


「爆破魔法とでも言うんですかね? たぶん部屋の壁に穴を開けるくらいならできますよ」


 部屋の壁と言っても石の壁だ。

 訓練中に試した威力から考えてそれくらいの破壊力はあるだろう。


「確かにヒーラー特有の魔力のようですが、爆発するなんて初めて見ました」


 なんだか力の抜けた感じのサーシャ。


「これならモンスターも狩れますかね?」


「威力だけなら余裕だと思います……」


 サーシャに手を差し伸べて引っ張り起こす。


「じゃあ登録お願いします」


 冒険者登録を済ませる。

 ランクはレッドから始まるようだが、魔法を見た感じからオレンジランクとなった。


 まだ文字が読めない事を話すと、サーシャはクエストボードから受注できそうなものを選んでくれた。


「ナスカさんからもお願いされてますし、ユーヒさんを専属で担当させていただきますのでよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


「ユーヒさんはいつもそんな口調なんですか? 普段通りに話してくれると助かるんですが」


 誰かが助かるらしい。


「じゃあ普段通りに話す事にするよ。で? どんなクエストを受けられるんだ?」


「エント討伐クエストですね。樹木系のモンスターで動きが遅いです。剣で戦う場合は倒しにくいですが、先ほどの魔法でしたら一撃で倒せると思います」


「なるほど! オレ向きなクエストだな。それでどうやって倒した事を知らせるんだ? 嘘の報告するかもしれないだろ?」


「討伐クエストの場合は魔石の回収で報告となります。モンスターの死骸に地属性魔法を与えると魔石に還るんですが…… わかりませんよね?」


 苦笑いで問いかけるサーシャ。


「うん。わかんない」


「地属性魔法は肉体の強化にも使われています。強化と同じ魔力をモンスターの死骸に流せば魔石に還りますので問題はないはずです」


「まぁやってみればいいか」


 クエスト内容:エント討伐

 場所:デンゼル東部森林地帯

 報酬:一体につき5,000リラ

 注意事項:なし

 報告手段:魔石を回収

 難易度:2


 この街の名前はデンゼルというらしい。

 東門で訓練しているので森林地帯も知っている。

 東門から出て十分程度歩けば着くだろうという距離だ。


 そろそろ腹が減ってきたがお金がない。

 そして今夜泊まる宿もない。

 早くクエストクリアして報酬をもらわないとな!

 意気込んで早足で森林地帯へ向かう。






 役所から三十分ほど歩いて森林地帯に着いた。


 さっそくうごめく木が見える。

 エントだ。

 のそのそとこちらに近付いて来るが、こちらから近付いた方が早そうだ。



 3メートルは超えるであろう巨大なモンスターだが、動きが遅い事もあって恐怖はそれほどない。

 ゆらりと向けられた触手がこちらに伸びてくる。

 エントに向かって駆け出して触手を躱し、掌から魔力を放出して接近する。


 エントの腹部目掛けて右腕を伸ばしたところで、触手に脚を掴まれてしまった。

 やべーな。逆さまに吊し上げられてしまった。

 とりあえず体を引き上げて触手を爆破させて地面に落下。

 痛みはあるが耐えられなくはない。


 再び右手から魔力を放出して、怯んだエントの腹部を爆破する。

 ギィィ! という悲鳴と共に仰向けに倒れるエント。よーし、なんとか倒せた。




 サーシャから聞いていたようにエントに触れて強化と同じように魔力を流す。

 エントの姿が淡くなり、音もなく縮んで魔石になった。

 直径2センチ程の魔石を拾って制服のポケットに入れる。



 体が痛いし回復魔法を試してみる。

 掌に魔力を集めて左脇腹に手を添える。

 元の状態をイメージしただけで痛みが消え、回復されたようだ。

 自分の体であれば無傷の状態をイメージすれば回復できるのかもしれないな。




 少し先に進むとエントが二体見える。

 魔力を放出して駆け出し、エントがこちらに気付いた時には一体の背後に爆破を食らわせた。

 再び魔力を放出してもう一体に向かい合い、オレの腕に目掛けて伸びてくる触手を爆破。

 怯んだところをとどめを刺す。


 魔石に還してさらに奥へと進む。






 二時間程で十四体のエントを討伐した。

 ダメージも最初の一回のみ。

 初陣としては悪くはないだろうと思う。






 役所に戻って報告する。


「出て行ってから二時間でこんなに倒したんですか?」


 驚いた表情で問うサーシャ。

 二、三体倒して帰って来るとでも思ってたのかな?



「報酬は7万リラ! さぁて何食おう!」


 お金が手に入ったのは嬉しい。

 さっきから腹がグウグウ鳴ってるし早く食事を摂りたい。


「報酬だけではありません。クエストを余裕でクリアできましたのでランクも上がります。次はイエローランクですね」


「わかった。ところで明日もサーシャがクエスト選んでくれるのか?」


「字が読めるようになるまでは私が選びます。早く字の勉強してくださいね!」


「はーい」と気の無い返事をしながら報酬を受け取った。

 サーシャにお礼を言って役所を後にしようとしたところで引き止められた。


「ユーヒさん字が読めないんでしょう? 少し私が案内しますから少し待っててください」


「えー。腹減ったよ」


「お店行っても注文はどうするんですか?」


「オススメを出してもらう」


 グッと拳を握って言う。


「とんでもない量出てきたらどうするんですか。宿も良さそうなところを案内しますので…… これ食べて待っててください」


 袋に入ったパンを二つ渡された。買い置きしてあったのだろうか。

 待合室でパンを貪りながらサーシャを待つ。




「お待たせしました。では行きましょうか」


「早かったな。仕事はもう良いのか?」


「早退しました。あまり待たせるわけにもいきませんからね」


「なんか悪いな。別にオレ一人で探してもよかったけど」


「全然悪いと思ってませんよねそれ。ナスカさんに頼まれた手前、放っておくわけにはいきませんのでいいんです」


「なんか弱み握られてるのか?」


「そんなわけないじゃないですか! 以前助けてもらった事がありましたので、ナスカさんの頼みは断れません」


「まぁいいや。とりあえず宿探しから行こうか」


「ご飯はいいんですか?」


「あんな大きいパン二つも食べたらもう夕食までは食わなくていいや」






 宿は大まかに安宿から高級宿までだいたい三段階のランクがあるそうだ。

 全て朝夕食事付きだが、安宿はシャワーとトイレが共同。部屋も寝るだけの質素なものらしい。


 お金はそんなに無いが、安宿はやめてシャワーとトイレ付きの宿を選んだ。

 日本とは違い治安もそんなに良くはないだろうと警戒した為だ。


 あとは着替えが欲しいので買いに行く。


「できれば武器や防具などの装備も買って欲しいところですけどね」


「そうだな。もう少し金が稼げたら買いに連れて行ってくれ」


 とりあえず一般的な服で少し派手な色のものを数着と下着も購入。




「武器はどんなの買おうかな」


 今後必要になるであろう武器。

 オレにはどんなものが良いか少し悩むな。

 剣とかカッコいいけど使い方わかんないし……


「武器を買うとしてもユーヒさんならミスリル製の物が良いですよ。かなり高いですけど普通の鋼鉄製武器だと勇飛さんには意味なさそうですからね」


「武器が意味ないなんて事はないだろ」


「剣で切ってユーヒさんの爆発程の威力を出せると思いますか?」


 少し考えてみたけどサーシャの言う事にも頷ける。


「ミスリル製の武器はいくらくらいするんだ?」


「安くても1千万リラは超えますね。キメラ武器で500万前後でしょうか」


「キメラ武器?」


「キメラ武器は鋼鉄製の武器にミスリルが組み込まれた物です。ミスリル武器には劣りますが魔力を大量に放出できます。ミスリルは肉体よりも魔力を流しやすいので威力が跳ね上がるんですよ!」


「それならミスリル製の武器を買ったほうがいいな。しばらくは素手で戦えるだろうし金貯めよ」


「普通は素手で戦わないんですけどね。ただもう少し体を鍛えた方が良いですよ。ほとんどのモンスターは動きも速いし力も強いですから」


「どこか鍛えれるところはあるか?」


「武器屋の隣に確かありますね。武器を買っても扱えない人はそこで鍛えるみたいですね」


「明日は午前にクエスト受けて、帰って来たらそこ行くか」


 明日の予定も決まったしサーシャにお礼を言って別れた。




 宿に戻って夕食も食堂で摂る。

 何気に一人は寂しいなと思った。


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