僕がテストに持ち込んだ“もの”は?

巽 彼方

僕がテストに持ち込んだ“もの”は?


 僕はゆうた。

 名前はどうでもいいのでこれ以上は触れないし、覚えてもらう必要もない。


 今日は経済学のテストがある。

 僕の専門は数学だ。

 大学で理学部数学科に所属している僕は、ほとんどの時間を数学の勉強に充てているので、今日はテストだというのに経済学の勉強は一切していない。


 大学の試験なんて簡単なんだから勉強しなくても大丈夫なんでしょ? と思うかもしれないが、うちの経済学の講義をしている松村の作るテストは難しいらしい。ソースは食堂でベチャクチャ喋っていた陽キャの集団。信憑性ほぼ0だから無視した方がいいか?


 とはいえ松村は今年うちの大学に来た教授なので、試験の難易度はまったく分からない。ただ、最後の講義で松村はこう言っていたのを思い出す。


「来週やる試験の話をするぞぉ! 私が作る試験は正直超難しい。私でも悩むレベルの問題にするつもりだ。ハハハッ! 何々? それじゃあ解けないって? そりゃそうだろう! なんたって専門家の私でも悩むレベルの問題だからね。ハハハッ! まあ君らのレベルじゃ全く歯が立たないだろう! だから1つルールを設ける。何かを持ち込んで良しとする。持ち込むものは参考書やプリントはもちろんスマホなどの電子機器など、この講義室に持ち込めるものならなんでもOKさ。何でも好きなものを持ち込んでくれたまえ! 君たちの健闘を祈る」


 だってさ。

 松村は初回の講義から経済学には全く関係のない、好きなラーメン屋の話をいきなり90分間話し出すぶっ飛んだ教授なのだが、テストでも面白いことをしてくるんだな。


 僕は自由度の高いものが大好きだ。

 せっかくなら面白いものを持ち込んでやりたい。


 何でも良いって言ったよな?

 僕は教授をあっと驚かすようなものを考え、当日持ち込む準備をした。




 僕は講義室に着いて周りを見渡す。

 9割型スマホやパソコンなどを持ち込もうと考えているのだろう。机の上にそのような電子機器が置かれている。中には、これは松村のホームページに載っていたのをコピーしてきたと言っている奴もいる。

 そういえば松村、『松村の経済学教室』とかいう名前のホームページを作ってますって、前に言ってたな。ホームページに載せているものをそのままテストに出すとは考えられないが、面白いことしてくる奴もいるもんだ。

 しかし、僕ほどぶっ飛んだものを持ち込む奴は流石にいないだろうね。先ほどから僕の近くを見て何やら話をしている人がちらほらいる。

 そりゃあまあ、不自然差に違和感を覚えるよな。僕もはたから見ていたら、きっと戸惑ってちらちら見てしまう自信がある。




 しばらくして松村が講義室に入って来た。

 ニコニコしながら講義室に入ってきた松村だったが、僕の周りを見て疑問に思ったのだろう。 僕が持ち込んだ隣のものを見て聞いてきた。


「そこの青いメガネをかけた黒い服の君。 隣のはどなたかな?」


 松村の質問に僕は平然と答える。


「僕が持ち込む“もの”です」


 周りは唖然とした。

 中には笑う者まで出てくる。


 僕はそんな奴らと松村に向かって、持ち込んだ“者”の説明をする。


「僕が持ち込んだのは、僕の父の知り合いである経済学の専門家です。 以前、ある大学でマクロ経済学について講義をしていた方らしくて、現在は定年を迎え趣味のゴルフを楽しんでいる方です」


 隣の男性が深々とお辞儀をして答える。


「どうも、山寺 登と申します」


 説明を終えると周りがまた騒がしくなる。そんなの反則だろ! とか、“物”じゃないから駄目でしょ! や、あいつ頭可笑しいんじゃねぇーの! なんて声も聞こえる。


 頭が可笑しいは僕にとって誉め言葉だよ。


 中でも一際唖然としていたのは松村だったが、しばらくするとニコニコな笑顔に戻り声を出して笑い出した。


「ハハハハハッ!! 面白い学生さんですね。私は何でも好きなものを持ち込んで良いとしましたが、と解釈したんですね。いや、面白い!! 専門家を持ち込みますか!? 私はこの方式のテストを10年ほどやって来ましたが、人物を持ち込んだのは君が初めてです。いいですよ! 持ち込みを許可します。ただ、テスト中に会話をされると周りに迷惑となりますよね? そこで、山寺さんにも今から同じテストを受けてもらい山寺さんの点数を君の点数としましょう」


 なんと! 専門家の持ち込みが許可されたのだ。最悪ネタとして不発に終わっても仕方ないやと思ってたので、了承してくれるのは意外だった。


 これで単位を落とすのがほぼ確定であった経済学の単位が取れるぞ!

 遊んでみるもんだな。


 さて、山寺さんに頑張ってもらいますか。






 半月後。

 僕は経済学の評価がの成績通知書を受け取るのであった。



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