第1話 余暇

妙な夢を見た日には、それが気になって1日を終えてしまうことがある。つかさ 聖秋せいしゅうにとって、人の一生というのはそんなものだろうという意識しかない。

知らない間に始まり、いつの間にか終わっている、強烈に引かれた線の上をたどたどしくなぞるだけの、退屈な、退屈な夢そのものであると。

同じ世界で、同じ空気を吸い、同じ国にいて、同じ教室にいるのに、いつも司だけがどこか別の国の、妙な世界の、異質な人間のように見られ、本人もそれを当然のことだと思っていた。今教室の隅では誰かが持ち込んだ夢の話から悪夢とか吉夢とかのことに話題が転がっている。

(夢の話などしていて、恐ろしくならないのだろうか。)

眠りの間を縫うように訪れるそれを手繰り寄せようとするとき、彼は一種の恐怖を感じた。なにか触れてはならないものに触れているような、背後に暗く不気味なものを感じながら、全く馬鹿げていて、しかし現実感のある、空想などとは違う自分の心の深部に、いやもっと不可解な、死とか、生とか、そこに巣食う何かを探ろうとするような、後ろ暗さと鳥肌が立つような罪深さを感じるのだ。

(レイ、レム、ヨシ、コウ、か。)

その文字列を解読しようと躍起になっているのを見たあと、自分の手帳に目線を戻した。平凡な水色の手帳に、几帳面な字で日付、名前、必要事項などがぎっしりと詰められている。

(玲、rem、淑美、光正・・・へえ。)

黒い大きな目を話題の中心になっている人物に向ける。高身長の八月一日は決して美男ではないが、人良さげな顔をして、万人に愛されるような面立ちである。実際司にしても、特別会話したことのない人々の中でも好感の持てる人間という位置づけだった。

(面白そうだ。・・・たまになら、脱線してみるのも悪くない。)

ちょっと笑った時、どこか遠くからから救急車のサイレンが聞こえて来ていた。

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