20. 無理矢理エピソード割ったせいでヒキが弱いな




「今日はヒカル君と、ミチヒちゃんと遊んだよ!」


「そうなのか! 何をしたんだ?」


「あれでしょ、ケンカごっこ」


「何だそれ?」


 下の階からナツヤと父さん、お母さんの声が聞こえる。

 父さんがこんなに早く帰ってくるのはどれくらいぶりだったか。

 今晩はお母さんも腕によりを掛けてご飯を作っている。


 トマトとチーズのけるのがほんのりとこの部屋までかおった。



:今日は夕食はいいんですか❔❔


オッチマ:食欲しょくよくがありません



 ボクはベッドにもたれて床に座り込んでいる。

 スマホをタップする指が痛い。

 寒くても、ストーブを点ける気力が湧かないのだ。



オッチマ:想定外でした…オカルト的なものがあれほどクラスタに影響力えいきょうりょくを持っていたなんて…対抗する手段しゅだんがわかりません


:まだ“敵”がいます😡😡諦めてはいけません‼‼😫


オッチマ:はい…しかし、あの子達や先生、ソコツネクラスタ…。あまりに大きいものと向き合っているようで、何をしても無駄なような気になってしまいます…


:、、、


:オッチマさん、少し見方を変えてみましょう


:これを見てください



 うーみんさんの次のメッセージにはSSスクリーンショット添付てんぷされていた。

 それは一つのツイート。



ソコツネさん㊙情報@sokotsunemaruhi

ソコツネさんは本当は北朝鮮キタチョウセン工作員こうさくいんなので、ガソリンの臭いだけでご飯三杯いける。



オッチマ:これは?


:このツイートのrtリツイートといいねの数を見てください👀



 百七十二と二百三十六。



:172と236、これが私の知る限りソコツネクラスタ全体で最もバズったツイートです😋


:これはいいねの数でも東中トーチューの全校生徒の半分ぐらいです。もちろん反応せず見てるだけの層もいるでしょうが、そういう人たちが実際に活動しているクラスタだとは考えにくいでしょう⁉⁉


:236、生徒も教師も他の人も含めてその程度。つまり、ソコツネクラスタなんてそれぐらいの規模きぼしかないんですよ😁


オッチマ:それでもよっぽど多く感じます


:感じるだけです。そもそもが東中トーチューの中でだけの組織。教育委員会や警察、簡単ではありませんが取れる手段はまだ幾つもありますヨ👍 公権力こうけんりょくにまで対抗たいこうできるわけアリマセン😉


:お友達のことを思い事を荒立てないよう一人で奔走ほんそうしているのはわかりますが、貴方だけが背負う必要は無いんです、、、だから、ネ😊



 なぐさめの言葉に正直、すごくほっとする。


 ……でも、それでも。



オッチマ:ありがとうございます。少し気分が楽になりました。まだ一人でやれそうです。


オッチマ:うーみんさんには助けてもらってばっかりで、どうやってお礼したらいいかわかりません


:イエイエ、お気になさらず😅‼


オッチマ:でも、どうしてそこまでしてくれるんですか? オカルトが趣味しゅみとはいえ、こんな面倒事に親切しんせつにしてくれるのが少し不思議です…


:オッチマさんがワタシの大事なヒトだからです✌😘✌



 うっ。



:と、言うのももちろんあるのですが、、、


:最初に言った通り、ワタシはソコツネさん㊙情報に興味があるんです😎


オッチマ:それはどうして?


:あれが何かオカルトと関係あることは私も初めからピンと来てました。でもねえ、、、


:オッチマさん、㊙情報のツイート、面白いですか⁉


オッチマ:いいえ


オッチマ:クラスタもみんな何が面白くてこんな奴に集まってるんだろうといつも思ってました


:でしょう⁉ 面白くないんですよ㊙情報は‼‼‼😫


:㊙情報は面白くない、だからクラスタも大して集まらないし、やることにもセンスが無い。だから、㊙情報たちの目的、この先待ってるオチもきっとつまらないでしょう。オッチマさんのお友達もオカルトに対する感覚は素晴らしいですが、ハナシには全然魅力がありません🤮🤮


:見ててもどかしくて、、、


:ワタシならこうするのにって、、、ワタシならもっとバズれるのにって、、、


:それでついつい目が離せないんですヨ。㊙情報にも、オッチマさんのお友達や幽霊にも


:できればアドバイスしてあげたくて、、、😅


オッチマ:は、はい…😅



 やっぱりちょっと変な人だ、うーみんさんは。

 優しいけど。







 翌朝。

 今日はユキもゴミさんも現れなかった。


 ハルカちゃんはいる。

 ソコツネさんの机に鉛筆えんぴつで何か書いている。


 タナカ君は窓の方をぼんやり眺めていた。


 もう余裕が無い。

 率直そっちょくに行く。


「おはよう」


「おう」


 ここ三日のパターン通り彼の前の席に座り、ボクは口を開いた。


「ハラダ君の行方について、心当たりがあるんだ」


 彼は太い眉をキリリと吊り上げる。


「何故今まで言わなかった?」


「隠しててごめん。でも、信じてもらえるかわからない話だったから、タナカ君のことも知りたかったし」


「……何故今話そうと思った?」


 顔を硬くし、言葉は少なく。

 完全に警戒態勢に入った。


「あのね……ソコツネクラスタのことは知らないかもしれないけど、東中トーチューが今ちょっと、おかしくなってるのってわかると思うんだけど……」


 タナカの表情が一層強張る。

 何に反応した?

 いや、わからない。

 続けよう。


「ハラダ君も関係あるんだ」


「……そんなことは知ってる」


「だよね。状況はどんどん悪くなってる。ボクはそれを何とかしたい。本当はタナカ君がどういう立場なのか見極めてからにしたかったんだけど、リスクを取ることにした」


「正直だな」


 言葉と裏腹うらはらに目が不審げに細められる。


「正直だよ。だから言うけど、ハラダ君は呪いを返されたんだ。マナちゃんを呪って、ボクが返した」


 ガタッ、とタナカの机が大きな音を立てた。

 立ち上がって掴みかかられるかもしれないけど、彼から視線を外さない。


「マナちゃんが呪いで消えそうだったから、仕方なかったんだ。呪われた人を戻す方法はわかる?」


「……」


「ボクの知り合いにその手のことにとても詳しい人がいるんだ。ハラダ君のこと、どうにかできるかもしれない」


 事前にうーみんさんに確認は取ってない。

 『できない』と言われてしまったら嘘をつくことになる。

 人は信用できない情報を与えられると嘘か本当かで判断はんだんしがちだ。情報に対しての嗅覚きゅうかくますには相応そうおう訓練くんれんる。


 タナカはがっぷり腕を組み、机にもたれてボクに迫った。


「呪いなんてものがあるとして、どうにかできるかもしれないとして、何故そうしない?」


 ここからが正念場しょうねんばになる。


「ハラダ君が信用できないから。マナちゃんをどうして呪ったのか目的がわからない」


 途端とたん、タナカの顔が真っ赤に染まった。


 え、なんで?


「お前……クソっ!」


 彼はそう吐き捨てると、自分の顔を手で覆いガシガシと引っ掻いた。

 手が降りると赤い爪跡つめあとを残しながら、こちらを憎々し気に睨みつける。


「お前、お前こそ何が目的なんだ。フジモリ達と組んで何をする気だ?」


「違うよ! ボクはマナちゃんを止めたいんだ」


「何の為に止める?」


「それは……マナちゃんが何か大変なことして、みんなが困らない為だよ。今まで通り、シバタが腕を折られる前みたく、何事も無い学校生活を過ごせるように」


「は?」


 タナカは驚いたように目を丸くした。


「お前、ちょっと待てよ。、それで何事も無く、か?」


「そうだよ」


 よくわからないけど、もうここで押すしかない。


「マナちゃん達に対抗する有力な手段をボクは持ってない。ハラダ君も同じ目的だったとして、もし他にも仲間がいるんだったら、ボクも協力したいと思ってる。ただできればマナちゃんもそんなにひどい目にあって欲しくない、もちろんハラダ君も他の誰もね。お願い、助けてほしいんだ」


 深く頭を下げて、十秒。


 カタン。

 鉛筆の転がる軽い音が聞こえてから少し、静かに顔を上げた。


 タナカは不快感を含む、得体えたいの知れないものを見る目でボクを見下ろしている。


「ダメだ」


「え……」


「お前は信用できない。気持ち悪い。もう話しかけてくるな」


 そう言うと、彼は一度だけボクの右肩を突き飛ばした。


 ボクは何も言えず、そそくさと自分の席に戻る。



 急ぎ過ぎた。急ぎ過ぎた。急ぎ過ぎた。



 ハラダ君のことも二人の関係、例の三人目の情報も、前もって集めておくべきだったのに。

 どうして失敗した、何が気にいらなかった、再交渉さいこうしょうの可能性は……。しばらく色々なことを脳内に巡らしていると、風が吹いて全身に寒気さむけが走る。


 風?

 そう思ってクラスを見回す。

 いつの間にかクラスタの子達がやってきて一心不乱いっしんふらんに“おまじない”をやっている。


 ハルカちゃんはいない。握っていた鉛筆はソコツネさんの机の上に置いたまま。


 その鉛筆が風に吹かれてコロコロと音を立て、下に落ちる。

 ソコツネさんの席にほど近い窓が開いているのだ。



 あの窓は、誰が開けたんだろう……。







「どうしたの、今日は何も話すことが無いのかな?」


「……はい」


 放課後、国研でボクは背中を丸めて返事した。


 “敵”という最後のカードを失くした今、打てる手は無い。

 一日悩んでも良い考えは浮かばなかった。

 大分疲れている。

 早く帰って、少し眠りたい。


「じゃあ、今日は私から話すね」


「え?」


「モロズミさんが最近とても難しい顔をしているものだから、心配になっちゃった」


 思わず先生を見ると目が合う。

 こちらをいたわるような穏やかな表情だ。


「モロズミさんがフジモリさんやソコツネクラスタのことで不安になる理由、ちょっとわかる気がするの」


「違います……」


 不安。

 そんなものじゃない。

 絶対に何か悪いことが起きる予感があると思って今まで動いてきた。


「何が違うの?」


 でも、先生の目を見ていると、口から反論を出そうとすると、溶けるように消えていく。


 絶対に何か悪いことが起きる予感。

 そこには何の根拠こんきょも無かった。


「……」


「わかるよ。フジモリさんはとても影響力の強い子で、近頃は突飛とっぴな行動を取っているから、何か仕出しでかしちゃうんじゃって思うんでしょ」


「はい……」


「でもね、そこは私達を信用して欲しいの、わかってくれる?」


「……私達とは?」


「先生達やご両親、まあ後は他にも頼れる大人がいるから。何かが起きた後も支えて、導いていける。学校、この社会にはその為のプロセスが幾つも用意してあるの」


「しかし、起きてからでは取り返しのつかないこともあります……!」


「起きないと取り返しのつかないことだってあるんじゃないかな?」


「どういう意味ですか」


「考えてみて。何にしても彼女なりの目的があって、それが彼女にとってどれ程大事かわかる?」


 これまで見てきたマナちゃんの真剣な表情を思い起こす。


「やらかして大変なことになる。成し遂げられず挫折ざせつする。どちらが彼女にとってマシなのか。その裁定さいていを、モロズミさんができるの?」


「……」


 それは、わからなかった。


 言葉に詰まってしまった。

 設問せつもんの重大さもさることながら、どう答えても揚げ足を取られる。


「ろ、論点ろんてんがズレています。マナちゃんの行動によって起きることは本人だけじゃなく、周りにも影響があります。ボクはそちらもあわせた問題だと考えています」


平行線へいこうせんだね。貴方はどうしても彼女が重大な事件を起こすと確信していて、絶対にゆずらない。、わかる気がするな、モロズミさんのこと」


 うっ。

 不味い方向に入った、そんな雰囲気。




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