2番手の僕が1番になりたい時

ペグ

2番手の僕が1番になりたい時

「おー正人……来てくれてありがとう」


 僕は学校の帰りに……正直友達と呼びたくないようなやつに喫茶店に呼び出されていた。


 本当は……このお店のドリンク高いし周りの人たちも高級そうな人ばかりだからこの行きつけになりそうな店も嫌いなんだよね。


「話ってなに?」


 僕は友達もどきこと横山の前の席に座る。


 ちなみに飲み物は先にカウンターで受け取ってきている。……一番安い飲み物で三百円以上っておかしいと思うのは僕だけなんだろうか。


「じつはさ……俺またふられちゃって」


 またかよ。ってか何回目だよ!


 僕はそう言いたくなる衝動を抑える。


 横山は僕と同じクラスの女子の霞さんに恋をして……今回でちょうど五回目になるかな。


「まぁそういう時もあるよ」


 この相談も何回目だよ……帰ってこの時間を使って中学の友達とオンラインゲームしたい。


 本当……なんで僕って断れないんだろう。


「今回で……俺あきらめようかとおもうんだ」


 これも何度も聞いたセリフだ。


「いやいや、あきらめなければうまくいくって」


「……そうかな」


 これのやりとりも何回目だ。


 一度「諦めれば」といったら「でもさー」から始まり延々とこいつの自慢話を聞かされて……最終的にはまた告白しに行くんだし。


 そう、こいつは自分のなかでは”あきらめない”って答えを見つけているのだ。


 それを共有してほしいだけなんだ。


「でももう五回だしさ……さすがにむりかなって思うんだよね」


「うーん、どうだろうね」


「なんでうまくいかないんだろう」


 ……はっきり言ってこいつの見た目はいい方ではないと思う。


 それに性格が自過剰のナルシスト。さらにストーカー気質を持つ……なかなか悪質なやつだ。


「まぁあきらめきれないんならさ」


「そりゃあきらめきれないよ。だって霞はかわいいし」


「なら頑張ってみるしか」


 まぁ僕はクズだろう。


 まっとうな人間なら傷口が深くなる前に止めるべきだと自分でも思う。


 ”ピロピロピロピロ”


「あ、ごめん電話だ」


「なんだよ……」


 僕は一度店の外に出る。


 そして僕はポケットからスマホを取り出し電話をかけてきた相手を確認する。


 スマホの画面にはしっかりと”霞 マドカ”と表示されていた。





『もしもし……霞です。正人君ですか?』


「……あ、はい正人です」


 僕の携帯で違う人が出てきたらやばいけど。


『あの……大丈夫そう?』


「うん……今日説得できたらいいんだけど、熱意がすごすぎるよ」


 僕は……はっきりいう。


 僕も霞さんが好きだ。


 だけど僕は部活が同じわけでもないし……ただ同じクラスメイトなだけだ。


 僕は高校二年生になっても女子とうまくしゃべれないのだ。


 だから僕は……あいつを利用して電話やメールなどを送りあうきっかけを作ったのだ。


『あのね……こないだ私の最寄りの駅まできたって友達から聞いて……もう本当に怖くて。それに私のSNSも見てるみたいで……ネットもちゃんとできなくて』


 電話越しでも怯えているのはわかる。


 本当は僕がスパッとあいつに”迷惑だ”と言えればいいのだが……いや無意味だろうけど。


 あいつは一度霞さんに”ほんとに無理です”っていわれても照れ隠しと言い張るようなやつだからな。


「なんとか……がんばってみるよ」


『じゃあ夜に結果を聞きに電話するけど……大丈夫?』


「だ、大丈夫だよ…………そろそろ戻らないとあれだから」


 本当は切りたくないけど。


『わかった、……それじゃあよろしくね』


 僕はクズだろう……友達もどきとはいえ知り合いをだましているし。


 なにより好きな人ですら安心させることができない……ダメ野郎なのだ。






「ごめんごめん」


 僕は再びあいつがいる店内に戻る。


「おそいよ。俺のことの方が重要だろ」


 イラっと来るな。……それでも僕は言うことができない。


「悪かったって……それで霞さんのことはどうするの?」


「そりゃもちろん……あきらめたくないけど、あきらめる」


 ……それが一番いい。僕はこいつが諦めたら……告白するんだ。


「本当に?」


「え、いや……わかんないけど」


 いや……わかんないじゃ困る。ってか自分のことだろ。


「そもそもなんで好きになったんだ」


「それは……やっぱり一目見たときかわいかったし」


 そう、こいつは……見た目だけで決めているのだ。


 そもそもこいつは僕のクラスに来た時に一目ぼれしたとか言ってずっと付きまとっているのだ。


「なぁ本当に……どうするんだ」


 僕はこいつが嫌いだ。


 でもこいつを出しに霞さんと話すのだ。


 ……もう後ろめたさを持ったまま霞さんと電話をしたくないのだ。


「……やっぱり諦められない」


 もうやめろよ。


「そうか」


「きっともう少しで俺の魅力に気づくとおもうんだ」


 ちがう、もうお前は終わってるんだ。


「そうかもな」


「……やっぱり相談役としてお前は最高だよ。俺の言ってほしいことを言ってくれるし」


 違う、もう僕のためにもやめろよ。


「……あぁ、そっか。」


 僕はあいつに言いたいことを言えずに……喫茶店を出た。






 その後、俺はあいつの部活などの愚痴を駅のホームで聞いた後自宅に戻って霞さんからの電話を自分の部屋で待っていた。


 ”ピロピロピロピロ”


 スマホの画面には”霞 マドカ”としっかり表示されていた。


「もしもし」


『もしもし……ねぇどうだった?』


「うーん……今日であきらめてくれればいいんだけど」


 僕は……好きな人にすらうそをつく。


『そっか……ごめんね、こういうの頼めるの正人君だけで』


「い、いやいやこっちこそ! ほんとはすぐにでも終わらせたいんだけどね」


 本当だ……こんな関係じゃなくて普通に電話したいのに。僕の勇気がないばかりに。


『それでね……今日こないだいってた文芸部の後輩としゃべれたんだ!』


「……そうなんだ。よかったね」


『うん! やっぱり後輩に好かれる先輩になりたくて頑張ってるからうれしいんだ!』


「僕も後輩とうまくしゃべれなくてさ……」


 そういえばあいつが「お前はいい相談相手」なんて言ってたっけ。


 そう……結局僕はメインではないんだ。


 霞さんも……最近は文芸部の後輩の話しか出てこない。


 そう僕の話などしない。


 ……僕はただの二番手なんだ。


 結局僕がいなくても……僕が一位というわけではないんだ。


『本当に正人君は聞き上手だよね……そういうところはすごいとおもうよ』


「そうかな」


 別に僕はあいつとおしゃべりしたいわけでもないし。


 二番手って言ったけど……僕が一番になりたい。ただ今の僕にはその資格はないかもしれない。


 それでも……


 僕が一番に想われたいのは。


「ねぇ霞さん……」

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