二番目

三宅 大和

第1話 二番目

 勉強はそれなりに出来るよ。理科の点数はいつも九十点代だし。

 運動もそこそこ、成績表では五段階中の常に四だった。

 絵は、もちろん美術部だから得意だよ。小池の次に上手いのは多分俺だと思う。

あいつを超えられるかって?・・・無理だな、だってあいつは天才だから。絵を描くために生まれてきたようなやつだから。

 苦手なこと?

 別に無いかな。やろうとして全く出来なかった試しないもん。そりゃ、完璧にやるのは無理だよ?でも、まあ、だいたいのことは人並み以上にやれる。

 特技?

しいて言うなら親指の関節が逆関節に百二十度曲がる・・・いや、これ特技じゃないな。

 将来の夢は・・・

 いや、まだいろいろ悩んでる最中なんだけど、とりあえず今は小説書きながらバンドやって、

 そうそう、俺ベースやってんの。教室とかで習いに行ってはないんだけど個人的にネットとか見ながら。

 そうなんだよ、小説とかバンドとか、安定しないものばっかに興味持っちゃって、正直生きていけるか俺自身も心配なんだよ。でもやりたい。

 どうせ最後は死ぬんだから、どうせならなにかしら爪痕を残していきたいんだ。

 まあ、やり遂げる前に餓死してしまっては元も子もないからとりあえずどこかの会社に就職はするつもりで居るよ。でも、やっぱり働くからには自分が好きなものの隣で働きたいんだよね。

 そうっ、俺には絵があるんだよ。仮にも三年間美術部で絵を描いてきたから画力には結構自信あるし、絵を描くのも割と好きだし・・・

 そりゃ真剣に絵を描いてたら、もっと上手く描かなきゃとか考えて、それでなかなか上達しなかったらイライラもするし焦るし、嫌になることもあるよ。

 まあ、それで絵関係の安定した職業ってなると、やっぱりデザイナーかなって思うから、俺、高校は美術系の高校に入って、そんで大学は京都芸大のデザイン科に入ろうと思ってる。

 ・・・うん、そうだよ。デザインはあくまでも最低限の仕事で、それで生計は立てて、本命であるところの小説家とバンドマンを目指すんだよ。

 やれる、やれるって。バンドが上手くいきだしたらデザインはフリーランスに切り替えたり、上手いことやれば出来るって。



 そう豪語していたのが三年ちょっと前。

 この三ヶ月後、俺は宣言通り偏差値もあまり高くない美術系の公立高校に入学した。


 

 えっ、俺のデッサン?えっと・・・上から二番目の右端に貼られてるやつ。

 まじで?ありがとう。結構自信はあったんだよ。一番左下のやつには流石に完敗だけど。てかほんとあの人上手すぎな。


 あ、お前も軽音楽部入るんだ。ちなみにパートは?

 ギター。いいじゃん、俺ベースだし一緒にバンド組もうぜ。俺、将来バンドマンになりたいんだよね。

 えっ、お前も?!


 高校展、どの分野で出展する?

 やっぱりお前は絵画か。誰か平面デザインで出すやついないかなあ~。

 ・・・えっ、俺が?まあ、油絵も楽しそうではあるけど、俺、デザイナー目指してるから大学行く時にデザインの表彰経験があったほうが有利かなとも思うんだよな。

 でもまあ、部活に入ってたまに描きに行くくらいならいいかもな。


 「結果どうだった?」って、定期テストの?

 まあ、一応ぜんぶ九十点代。

 いやいや、俺、バイトもしてないし割と勉強してるから。そっちはどうだったんだ?

 ・・・おお、それは確かにヤバイな。



 二年生になる。



 うわー、皆すげえ上手くなったなあ。

 俺は右端の下から二番目。けっこう立体感あるだろ?

 ・・・まあ、ちょっとサイズ感ミスってるな。ちなみにお前のは?

 お、おお・・・だいぶ腕上げたな。


 あっ、わりい、入り遅れた。

 真剣にやってるって。一弦太いからたまに指が引っかかるんだよ。

 いや、お前のはギター、弦の太さ全然違うじゃん。

 だからゴメンって、成績保持しながらバイトもして高校展も毎回やってるんだこっちは。お前、今年も去年も高校展不参加だろ?ちょっとぐらいは大目に見てくれよ。


 お前金賞かよ、すげーな。やっぱり二年間やってきてると違うな。俺、今年もデザインで出すべきだったな~。いろいろ試してみたくなっちゃってついつい油絵で・・・


 ちょー、見てコレ。

 危なかった~、ギリギリTOP5に入ったわ。

 英語やらかしたわ~、前のテストから十点も下がってる。バイト入れすぎたかな。

 お前、赤点無くなってるじゃん。良かったなっ。



三年生になる。



 ・・・駄目だなあ~、全然成長してる気がしない。むしろ俺、二年のときの方が良かったくない?

 そっかあ、やっぱり周りが上手くなってるだけか。

 ええっ、あいつあんなに上手かったっけ?

 つうか、お前のデッサンちゃっかり参考作品になってるし・・・


 ・・・なあ、お前卒業したらプロのバンドマン目指すのか?

 じゃあ、俺も・・・いや、やっぱなんでもない。

 卒業ライブ楽しもう。

 わかってる、ミスらねえよ。


 三年は高校展無いんだったな。

 じゃあもう残すところは卒業制作展だけだな。どんな作品にするか決まってる?

 へえ~、なんか面白そうだな。俺は結局デザインに戻ってきたけど・・・具体的に何をするかまでは決まってないな。まだ時間あるし、いろいろ考えてみるわ。


 うわ、やってしまった、八位。

 でもまあ仕方ない、今年は受験勉強だから、結局センター試験で良い点取れば一瞬で汚名返上だし。



 そして現在に至る。



 やりたいことがたくさんあった。

 出来ないことがあるのが嫌だった。

 一つのことしか出来ない。でもそれだけは一生懸命にやり遂げる。その一つを逃したら後には何も残らないから必死でしがみつく。そういう奴らが居る。

 でも俺は一発勝負が怖いから、いつでもどこへでも逃げられるように、手放したくなくなるまで育てようとはせず、浅く広げた。



 大学に落ちた。



 その時、素直に悔しいと思わなかった。ただ、そんな自分に悔しさを感じた。

 何かの一番じゃなくても、たくさんの二番があれば良い。

今思えば、全てはそんな臆病な気持ちで始まっていたんだろう・・・

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二番目 三宅 大和 @yamato-miyake

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