キングス・アモー・ナツメルト

エリー.ファー

キングス・アモー・ナツメルト

 一番目の勇者が何であれ、そのしりぬぐいは二番目の勇者が行うらしい。

 それを知っていたら、それ以上のことはしなかっただろう。

 魔王を殺した。

 十二秒かかった。

 防御力の高いバグで生まれたザコ敵の方がてこずったので、正直拍子抜けだった。

 両親からもらった装備も使わなかったし、最後に通った村でもらった、振ると竜が出てきて相手に攻撃してくれるランプも使わなかった。

 女勇者と魔法使いと賢者が仲間になったが、正直ついてこれなかった。簡単に敵を殺して次のステージに向かうせいで、気が付けば全員、俺が殺し損ねた敵の攻撃で死んでいた。

 本来だったら、もう少しどこかの森で道に迷ってそこでレベルアップするのが普通なのだろう。そういう機会も与えられなかったパーティは俺以外全滅した。

 魔王は殺した時に何か喋っていたけれど無視をした。

 そのまま魔王の城に火を放って、全て燃やし尽くすと、誰かの叫び声がした。助けるはずの王女がまだ中にいたのだろう。

 急いで助け出すと感謝された。悪い気持ちではなかったが、真実を知らないのに助け出されたら簡単に感謝をして、命を預けるのはどうかと思う。

 そのままエンディングが流れ始めるところで、俺はそのバックステージへと歩いた。

 一番目の勇者は割と苦労したらしい。その経験値を引き継いだ二番目の勇者である俺は特に何の感情も、感動もない。このエンディングを見つめ続けたところで得られるものはな何もなかった。二回目のクリアの後には何かしらの報酬がもらえて、三番目の勇者に引き継がれる。

 その時には。

 今度は俺が殺される。

 二番目が殺されなければ、三番目の勇者を操作して、三度目の冒険には行けないからだ。

 三番目の勇者は、俺よりも退屈するのだろうか。

 俺は。

 ここまでの村で、できる限り店の店主を殺して、そのアイテムを奪ったり。

 中間ボスを無視してステージボスを殺すために、幾つかのバグを無理やり使ったり。

 父の形見と言われて村人からもらったアイテムを金に換えてさっさとカジノで使いきっても。

 何一つ変化はない。

 楽しくて強い勇者であり続けた。

 突然、スタッフロールが止まる。

 文字が化ける。

 エンディング曲のある一音が永遠と鳴り響く。

 助け出した姫様の顔の部分が、アイテムであるリンゴのドットの上の部分になっている。

 そのまま画面が黒くなった。

 俺は、そのまま動けなくなった。

 黒い画面の向こうに、今まで殺したモンスターと村人の姿が見えた。皆、顔の部分がアイテムのリンゴの上の部分のドットになっていた。

 音もなく、そして動くモーションもなく滑るように近づいてくる。

 囲まれる。

 何か喋りかけてきた。けれど、音もバグに侵されて何一つまともに聞き取れない。冒険していた際には聞き取る気もなかった言葉の端々が今になって気になった。

 宿屋の説明を聞くのが面倒で殺して、そのまま放置した宿屋の主人が目の前に立っている。メッセージを飛ばしている訳でもないのに、音声は徐々に早口になった。

 向こう側に白い光が見えた、三番目の勇者が最初の町にいるところだった。

 後ろを振り向くと、俺のことを指さしてせせら笑っていた。

 そして。

 もう片方の手で。

 勇者として旅立たせるために起こしに来てくれた母親を殺していた。

「やれることは全部試してみたいなぁ。」

 俺たちを操作するプレイヤーがそう言葉を吐く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キングス・アモー・ナツメルト エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ