生まれながらの二番目

結城あずる

生まれながらの二番目

兄ちゃんはズルい。


何でもかんでも僕より先だ。


何かを買ってもらえるのも兄ちゃんが先。


何か習い事をさせてもらえるのも兄ちゃんが先。


勉強でも運動でも出来る事が増えていくのは兄ちゃんが先。


僕はいつだってお下がりになる。


買ってもらうよりもまず兄ちゃんの物が来る。


習い事ももう兄ちゃんがやってるものに行かされる。


勉強も運動も兄ちゃんがいるから比べられる。


いつでもどこでも兄ちゃんが一番目で僕は二番目。


兄ちゃんが悪いんじゃないのは分かってても反発せずにはいられない。


だって不公平じゃないか。生まれる順番なんて選べないのに生き方にも順番があるなんてあんまりじゃないか。


だから僕はいつも可愛くない弟だ。何かあれば兄ちゃんに反抗はするし抵抗もする。


会話なんか素っ気ないし、言う事聞かないこともしばしばだし、機嫌が悪ければ冷たくあしらったりもする。


それでも兄ちゃんは僕をちゃんと弟して構ってくるから困っちゃうんだ。


おかげで兄弟ケンカはしたことがない。


僕はケンカする気構えはあるのに、兄ちゃんにその気がないんだからケンカにならない。


それが余計に不公平に拍車をかける。


出来た兄と不出来な弟。周りからの僕ら兄弟の印象はまさにそれ。


そんな風に見比べられるのを願っても望んでもいなかったのに、気付いた時にはそんな兄弟図が出来上がってしまった。


それでも兄ちゃんは変わらなかった。相も変わらず僕を気にかけた。


僕も抵抗をやめなかったから兄弟の関係性自体も変わりはしなかったけど、周りの先入観は遠慮なく変わっていく。


いつの間にか一番目と二番目の距離は思った以上に広がっていた。


僕が望んでいた事はそんな大それたことじゃなかったはずなのに。


悔しさ。惨めさ。無力さ。溜まりに溜まった鬱憤が抑え切れなくなってしまった僕は、つい一度だけ兄ちゃんに怒鳴って心無い罵声を浴びせてしまった。


ただの八つ当たり。兄ちゃんに向かってさも兄ちゃんが悪いみたいに不平不満を当たり散らした。


結構……いや、本当に言ってはいけない言葉なんかも感情のままに言ったと思うけど、それでも兄ちゃんは一言一句にしっかりと耳を傾けていた。


でも。不満の捌け口が親に向いた時に初めて僕は兄ちゃんに叩かれた。


「家族を傷付けたら自分が傷付くぞ」なんて言って真っ直ぐに僕を見て。


「だったらもう兄ちゃんを傷付けてる」なんていじけたことを僕が言ったら「俺はお前の兄ちゃんだから受け止めるのが当たり前だ」なんて言って笑ってた。


それがなんだかカッコよくて、僕はやっぱり悔しかった。


自分の中で納得出来なかったのは、多分そんな兄ちゃんに憧れていたのを認めたくなかったからなんだと思う。


認めちゃったら一番目二番目っていうのはもう変わらない気がしたから。


僕はどうしたって二番目が好きじゃない。だから、意地でも追い付いて見返してやるんだって思った。


そう……思ってたんだぞ?



「……挨拶は済んだ?」

「……」

「病気とずっと闘ってきたんだもの。もう……ゆっくり……休ませて、うぅ、あげたいね……」

「……」



棺の中で眠る兄ちゃんはとても安らかな顔をしてた。



「こんな事まで僕より先じゃなくてもいいじゃないか……。兄ちゃんが居なかったら、僕はずっと二番目なんだぞ……?」



もう追い付けなくて、僕は何も知らなくて、すぐそこで眠る兄ちゃんの顔を見て止めどなく悔し涙が流れた。


ズルい。僕らを残していった兄ちゃんは、本当にズルい……。

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