二番目の独白

秋瀬田 多見

落ちた物の独り言

 ほんの少し前までは、俺が一番目だった。それがどうだ。今となっては、そんな時代はとうの昔かのように扱われる。あれだけ、ちやほやしてくれた人たちは、どんどん少なくなっていった。



 正直なところ、慢心していたよ。まさか、俺を超えてくるヤツが現れるなんて思いもしなかったからな。これから先ずっと、俺が一番でいられるような気がしていた。そんな訳ないのにな。


 時の流れとともに、流行り廃りもある。それに乗れなかったのも問題だ。俺はずっと赤い服ばかり飽きることなく着ていた。それがイケてると思っていたからだ。そういう主張の強い色の方が皆の目に留まるだろう?でも、それが受け入れられ続けるわけがなかった。


 今一番に躍り出たアイツは白い服を着こなしている。俺には無かったセンスだ。どうやら清潔感というものが今の流行りのようだ。俺も流行を取り入れなければいけないのだろう。



 俺が一番だったころ、下にはアベが居た。あいつも当時はこんな気分だったのだろうか。自分に絶対の自信があったのに、井の中の蛙だったことを思い知らされた。いや、きっと俺の方がキツい。俺とアベは競っていたからな。俺が一番とは言え、アベもすごい奴だった。


 そんな俺たちをアイツは出てきた途端に追い抜いて行った。到底届かない位置まで高くそびえ立ったんだ。もうあれは、笑っちまったよ。悔しさは当然あった。でも、絶望の方が明らかに大きかった。アイツが俺の視界に現れた瞬間に、敗北を悟ってしまったんだ。


 諦めるなって声が聞こえてきそうだ。俺だって張り合えるものなら張り合いたいさ。でも、俺の成長期は終わったんだ。これ以上伸びることは無い。ましてや、アイツに辿り着くなんてどうあがいても不可能だ。そのくらい馬鹿な俺でも分かる。



 ただ、二番目になった今、これはこれで良いのかもなって気持ちもあるんだ。なんていうか、一番目の重荷から解放された。その期待の重さが嬉しいとも思っていたさ。でも、いざ二番目に落ちてから気が付いた。ああ、俺はずっとこんなにものプレッシャーの下で足を踏ん張っていたんだなって。


 アイツはまだその重さを理解していないんだろう。俺を見下したような目で見て笑っている。まさに、俺が通って来た道でもあるんだけどな。一番目ってのは単純に憧れるようなものでもないんだ、意外と。


 これから、俺が何年生き続けられるかは分からない。長生きすればするほど、きっと俺の順位もさがっていくだろう。今はまだ二番目だが、三番目、四番目と落ちていくんだと容易に想像がつく。


 寂しさが無いと言えば、嘘になるな。過去の栄光があったからこそ、それに縋りたくなる。でも、その栄光があったおかげで、二番目になった今でも俺のことを好きでいてくれる人がたくさんいるんだ。人数の問題じゃない。そういう人が居てくれる、それだけでもう俺は何番目になろうと構いはしない。なんかそういう気持ちになれたんだ。


 大人になったということなのだろう。別に比べるものじゃない。確かにアイツは一番目で、人気だってもう俺より遥かに大きい。でも、だからなんだっていうんだ。俺は俺、アイツはアイツだ。二番目になってこんな事に気が付くなんて、唯の負け惜しみみたいだよな。そう見えるのも分かる。分かるけど、これが本当なんだ。気が付くタイミングが悪かった。


 アイツもそのうち気が付くだろう。一番目とか二番目とか、そんなことに大した意味はない。自分の事を好きでいてくれる人がいることだけが重要だ。そんな人が居る限りは、出来るだけ、ぶっこわれてしまうまで俺は立ち続けていたい。いや、立ち続ける。そんな気概でいる。




 と、まあ、なんか胸の内をさらけ出しちまって少し恥ずかしかったな。別に皆にどうこうして欲しいってわけじゃない。ただまあ、忘れられるのだけは悲しいな。別に一番目が好きならアイツの所に行けばいい。でも、わがままを言わせてもらえば、たまには俺のところにも足を伸ばして欲しいって気持ちもある。意外と楽しいと思うぜ?人も空いているしな。

 


 あれ?そういえば、まだ名乗っていなかったか?まあ、薄々勘づいているだろ?






 俺の名前は東京タワーさ。


 今後ともよろしくな。

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