2番目の介護ロボット

けんざぶろう

成長

 僕の名前は、2番目。 本当は、自立型介護ロボットという名前があるのだが、ご主人様である清香ちゃんが、僕のことを2番目というために僕の名前は2番目になった。


「にばんめ、あれとって」


「清香ちゃんアレじゃ分からないよ」


「あのあかいの、とって」


 そう言って清香ちゃんは、棚の上のお菓子の袋を指さした。


「分かったよ、ちょっと待っていてね」


 清香ちゃんは生まれつき足が悪い。 だから基本的に僕が清香ちゃんの代わりに動いて身の回りの世話をしてあげる。


「にばんめ、どうして、いつもおとうさんとおかあさんはおうちにいないの? きよかがきらいになっちゃったの?」


 清香ちゃんはお菓子を食べ終わると、静かな部屋で泣きそうな表情を浮かべながら、僕に質問してきた。


「それは、清香ちゃんの為に働いているからだよ。 愛しているからいないのさ。 だから清香ちゃんは、お父さんお母さんが帰ってきたら、ありがとうって言ってあげるといいよ」


「わかったっ!! にばんめありがとお」


 僕の答えを聞いて清香ちゃんは、たちまち笑顔になった。 たまに、清香ちゃんは、ロボットである僕にとっては、難しいことを聞いてきたりもするが、僕はそれが楽しかったりもする。


「ねえ、清香ちゃん。 なんで僕の名前は2番目なんだい?」


 清香ちゃんが6歳になった誕生日の日に、いつものように清香ちゃんの隣で、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。


「だって、きよかのつぎだもん、だから2ばんめは2ばんめなの」


 なるほど、確かに清香ちゃんが生まれて来なかったら僕は必要とされていなかった。 僕は清香ちゃんの次で2番目だから、2番目なのかと納得した。 納得したのだが、清香ちゃんは、不安そうな表情でこちらを見てくる。


「もしかして、2ばんめは、きよかのかんがえた、おなまえがいやなの」


 その言葉に対して僕は首を振る。


「そんなことないよ、清香ちゃんが考えてくれた名前はすごく好きだよ。 こんな僕でも大切にされてるんだなって思う」


 その言葉に対して清香ちゃんはニコニコと笑顔を浮かべてくれた。


「2番目。 私、なんで足が悪いのかな」


 清香ちゃんが13歳になった時に、清香ちゃんが涙を流しながら僕に聞いてきた。


「そういう病気だからだよ。 もしかして何か学校であったのかい?」


「なんで私だけなの。 周りの友達は、みんな外で遊んでいるのに。 私だってサッカーがしたい。 野球がしたい。 みんなと運動会で走ってみたいよ」


 僕は生まれた時から清香ちゃんの介護をしてきたが、泣いた姿を見るのは初めてのことだった。


「清香ちゃん」


「ごめん、今は一人にさせて」


 そう言って、僕は初めて清香ちゃんの部屋から追い出された。 塞ぎこんでしまった清香ちゃんは。 部屋から出ないまま、2年が経過した。 僕は完全に清香ちゃんから必要とされなくなってしまった。


 ある日、もう清香ちゃんは僕が必要ではないのだと、そうお父さんから告げられた。 僕を必要としない。 それは、介護しなくても生きていける。 独り立ちができるようになったという意味合いで、とても喜ばしいことのはずなのに、なぜだろう何か頭の中でエラー障害が起きる。


 次の日、僕は清香ちゃんの、家を出ていくことになった。 自立型介護ロボットは自身の足で処理場へと向かうことができる。 もちろんそれには処理ナンバーコードを打つ必要があるが、お父さんは僕が自分で打つことができない処理ナンバーを親切に打ち込んでくれた。 僕はお父さんにお礼を言うと家から出ていく。


 家から出て1週間が経過した。 処理場はもう目の前である。 そんな時、何気なく見た駅前のモニターには、清香ちゃんの住んでいる地域に巨大地震が発生したというニュースが速報で伝えられていた。 映像には、きれいな街並みが倒壊する様子が映されていた。 頭の中がエラーでいっぱいになった。 僕はその足で処理場へと向かわずに、清香ちゃんの家と引き返した。


 家は悲惨な状態だった。 周囲の住人はいない、みんな避難したのだろうか? 清香ちゃんは避難できたのだろうか? 分からない。 瓦礫と化した清香ちゃんの家をひたすら掘る。 周囲には人はいない。 いや、いるが僕のことにかまっている余裕などないのだろう。


 ぼくはひたすらに掘り進めたそして清香ちゃんの部屋の残骸らしきものをどけた時に。 清香ちゃんはいた。


「清香ちゃん、大丈夫」


 僕は清香ちゃんをゆっくりと持ち上げ、脈拍や呼吸を確認する。 微弱だが、止まっていない、生きている。


「ちょっと待っていてね清香ちゃん」


 僕は夢中で台所だったところを掘り返し、ペットボトルに入った水を見つけた。


「清香ちゃんお水だよ。飲んで」


 清香ちゃんは、わずかに動く口で水を飲む。 それから、どれぐらい経過しただろうか、いろいろと工夫して介護をしたが、僕には清香ちゃんが死なないようにすることが精いっぱいだった。 苦しそうに表情を歪める清香ちゃんを見て、エラーでいっぱいになる。 そんな中、人間の救護隊が到着した。


「お願いします、僕には清香ちゃんを治すことができません。 お願いします清香ちゃんを助けてあげてください」


 人間の救護隊員にそう告げると、彼は力強く頷いて清香ちゃんを担いだ。 僕は付いて行こうとしたが、どうやらエネルギーを使いすぎたようで目の前が真っ暗になり動かなくなった。


 目を覚ますと。 そこには成長した清香ちゃんがいた。 20代くらいだろうか、ずいぶんと大人びたように見える。


「おはよう清香ちゃん。 ごめんね少しだけ眠っていたみたいだ。 また今日から、よろしくね」


 僕の声を聴くと、清香ちゃんの目からは涙があふれだした。 ひょっとしてどこか痛いのだろうか? まったく、すこし僕がいなかっただけで清香ちゃんはダメだなと思いつつ、清香ちゃんの2番目として、涙をやさしく拭いてあげた。

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2番目の介護ロボット けんざぶろう @kenzaburou

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