第51話 最後の挨拶

3月に1度、主治医のところに行くことになっていた。

アキレス腱を断裂してから、1年が経過し、

2年目に入った。

ツッパリ感はあるものの痛みはほぼない。

前回は、1月だったから、2か月ぶりの受診だ。

これが最後になることは分かっていた。

O先生 は、3月末で転勤してしまうことをU先生から聞いていたからだ。

2か月ぶりに、朝早く、県立リハビリテーションセンターに受付予約に行く。

一旦、帰宅して洗濯を済ませ、9時過ぎにもう一度病院へ。

コロナウイルスの影響で、マスクの着用とアルコール消毒が義務づけられている。

入院患者への「面会禁止」の貼り紙もある。

少し待って、診察室に呼ばれた。

長時間待っている皆さん、すみませんね。

「どんなですか?」

「そうですね、痛みはほぼなくて、日常生活で困ることはないです。」

O先生が、足首の強さを見ながら、

「かなり強さも出てきましたね。」

「筋肉も少しついてきましたから。」

「どうしようかな。実は、今月で僕、異動なんですよ。」

「知ってます。今日が最後だなと思ってきました。」

「他の先生に繋いでもいいんですが、もうそこまでではなければ、U先生に診てもらって、もし、手術が必要な時には、紹介状を書いてもらうのでいいかなと思うんですが」

「そうですね。そうならないようにしたいと思います。」

「じゃあ、U先生に今後もお願いしときますんで」

「はい。先生、ありがとうございました。先生のお陰で手術せずにここまで来れました。先生のお陰だと思っています。」

「いや、リハビリを頑張られたからですよ。油断せずに、気を付けて下さいね。」

「ありがとうございました。」

あの日、夜間救急を受け入れない同センターで当直だったO先生。

アキレス腱は、切れてすぐなら保存治療が可能だからと

救急を受け入れてくれた。

もし、他の先生だったら、受け入れてもらえなかっただろうし、

受け入れてもらえたとしても、手術だったと思う。

休日は、整形外科の救急がないことも初めて知った。

交通事故などは、外科だ。

外科や内科の救急対応はあっても、

整形外科は、死に直結するわけではないから、

次の診療日に来なさいが普通らしい。

もし、2日後だったら、確実に手術、入院だった。

結果として長くはなったが、入院している余裕はなかったから、

色んな意味で助かった。

O先生は、4月から大学病院勤務になるそうだ。

もう会うことはないかも知れないが、

これもご縁だったと思う。

まだ、満足のいく状態ではないので、リハビリは続ける。

不安は、一生続くかも知れない。

家以外では、サポーターをつけている。

再断裂や他の足をケガすることのないように用心だ。

完全復活までは、まだまだだ。

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