第10話 ラ~ンチ

店のあきちゃんが、買い物をしてくれると言っても

他人なので、

「あれ買って来て」

「あれ、食べたい」

とか、言えるもんじゃない。

朝食用のトーストとヨーグルトがなくなって、

今日でも、明日でもいいのでと

遠慮気味にメールする。

「明日、お休みなので、いいですよ。昼でも夜でもいいですが、食事行きませんか?」

と来た。

!?

「ほんとに?嬉しい。ランチ行ける?」

「行きましょう。場所と時間はお任せします。」

やったー!

ランチ行くよ。

ケガしてから初めて。

どこに行こうかと模索する。

出かけるには、条件がある。

階段や段差がないこと

自動ドアであること

ボックスの椅子席であること

回転すしか、お好み焼きか、焼肉か

う~ん、悩ましい。

決めた!徳川だ!

お好み焼きのチェーン店の徳川。

実家の岩国にもお店があった。

就職したばかりの頃、友達とよく行った。

関西風の自分で作るお好み焼きが中心だ。

広島のお好み焼きとは違うが、

広島のお好み焼き屋さんは、ほとんどが小規模で

カウンターしかなかったり。

五ェ門なら、カウンターもテーブルもある大きな店舗だが、

多分カウンターだ。

松葉杖が邪魔になる。

「徳川でいい?」

「いいですよ。11時頃迎えに行きます。」

「久しぶりに化粧するわ。」

「おしゃれして下さい。」

「ジャージだけどね(笑)」

テンション上がってきた。

しかし、明日は、雨らしい。

ギプスは、濡らしてはいけない。

やっと、左足が着けるようになったとは言え、

濡らせない。

ビニール袋の上からソックス履くと、滑ってとれてしまう。

ビニール袋だけだと、歩くときに滑る。

雨か…

諦めるか

夜半から、雨が激しくなった。

朝起きたら、やや小降り。

路面は濡れているし、水たまりもある。

足を着かなければ何とかなるか。

化粧をした。

一応、服装も考えた。

ランチだけどね。

早めに1階に降りて、彼女の到着を待つ。

11時過ぎ、約束通りだ。

徳川は、駐車場からフラットで店に入れる。

もちろん、自動ドア。

たくさんのボックス席。

祝日限定のランチセットを注文。

徳川は、その名の通り、

徳川将軍歴代の名前がついたメニューになっている。

ランチセットは、名前はないが、豚肉、いか、エビ入りの豪華版。

更に、サラダとアイスクリームもついている。

から揚げも追加注文。

おしゃべりしながら、お好み焼きを焼く。

年末以来だ。

いつもは、コースなので、いかやエビは入らない。

テンション上がってるからか、よくしゃべる私。

から揚げも美味しいよ~

私たちの横を歩いていた女性が、

「あっ、元気?」

S社の同期だったTさんだ。

「初めてのランチなんよ。」

「そうなん。心配してたけど、何にもね、お手伝い出来なくて。」

Facebookを見て、心配してくれていた。

久しぶりだったので、少々長話。

そんなに親しかったわけではないが、

同期会を私が企画し、開催した時、

手伝ってもらって、その後の幹事をお願いしたという仲。

1時間くらい滞在。

斜め前のボックスには、外国人のご一家らしき3人がいた。

そのうちの青年も私と同じ松葉杖をついていた。

そうそう、ここなら安心。

妙に納得。

ここは、私が支払う。

あるスーパーに連れて行ってもらう。

店内に入ってからは、左足を着きながら歩いてみる。

本当は、色々買いたい物があったのに、あきちゃんに付き合わせているということもあって、

4つだけ買った。

いっぱい忘れたな。

まあ、無くても困らないが…

「他に行きたい所ありますか?」

「ありがとう。もう大丈夫。」

松葉杖で歩くのは、やはり疲れる。

左足が痺れてくる。

あと10日もすれば、車の運転出来るはずだ。

我慢、我慢。

ガンバの大冒険だった。

若い人は、知らないか。

出来立て、揚げたてはやはり美味しい。

もうすぐだよ。

もうすぐ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る