第8話 経済的不安

3月の始め、2月分の給料が入った。

社会保険料など引かれて、6万円ほど。

有休使っても半分しか働いてないのだから仕方ない。

この先、このわずかな給料さえも入ってはこない。

私には、貯えというものがない。

家賃、車のローン、光熱費や諸々の支払い。

それだけでも暮らしていけないが、

私には、お店の経営もある。

お店の家賃、カラオケリース代、光熱費、仕入れなどは、

個人の生活費の何倍も必要だ。

なのに、お店にも出られない。

自分がいなくても営業出来るくらいのスタッフを育てていなかったのは、

私の責任。

稼ぎ時の3月を棒に振るのは本当に痛い。

いや、痛いだけではない。

存亡の危機なのだ。

金曜日だけの営業をしてもらっても、

ほとんどお客さんは来ない。

売上は、そのままバイト代に消える。

私の手元には残らない。

マットのリース代も払ってない。

サニクリーンの営業の子から、電話があった。

ケガをしてほぼ営業出来ないことを伝え、

金曜日にスタッフの子に払わせると言うと、

「分かりました。今回の分いいです。来月も止めましょう。」

「いや、来月は止めてもらって、今月分は払うわよ。」

と言うと

「こんな時しか、サービス出来ませんから。気にしないで下さい。」

と言う。

この子は、昨年の西日本豪雨災害で3世代で暮らしていた家を流され、

車も流され、仕事にすぐは復帰出来なかった。

数か月の断水。

「大変だったね。」

「仕事に戻れて良かったです。気が紛れます。」

と言っていた子なのだ。

マットのリース代は、大して大きな金額ではないが、

営業には、こうした融通というのが大切だ。

私も昼間は、メーカーの営業。

本当は無理だが、お客さんのために特別にという事をしてあげると

信頼も大きくなるし、感謝される。

それが、その後の関係を大きく変える。

営業は、感謝されるということが大切なのだ。

もちろん、会社には事情を話して、了解は取っているのだが、

特別扱いだと言うことは大事なことだ。

これが出来ない営業は、まずダメだ。

お店の支払いが、とにかく重荷だ。

あれが、20日の引き落とし、

あれが、26日、あれが27日。

電話料金が、引き落とせなかったと振込用紙が届く。

辞めてしまえば、この高額な固定費からは、解放されるのではないか。

自分の生活費だけなら、何とかなるのでは…

色々考えてみるが、

辞めるなら、店を片付けなければならない。

それも今は出来ない。

営業の仕事も車が運転出来て、階段を登れなければ、

とても復帰出来ない。

一体いつになったら動ける?

続けられる?

リハビリは?

その間の収入は?

医療費は?

考えていると、不安でいっぱいになる。

不安が大きくなると吐きそうになる。

生活保護は?

調べてみる。

家も移ることになる。

車も手放すことになる。

売れる物は売った上で、認定される。

車を手放しては、就職出来ないではないか。

困っている間だけの支援はないものか。

福祉貸付金はあるが、返さなくてはならないものだ。

ちょっとだけ支援してくれたら、社会復帰出来るのだから、

そういう制度があってもいいのではと思う。

生活保護でまる抱えすれば、それは、かなりの社会的な負担だが、

今だけ、1ヵ月か2か月だけ助けて、みたいな支援金ないか。

ハローワークで求職支援制度はあるけど。

新しい仕事も探そうとしてみる。

年齢が、厳しい。

それに、この状況では面接にも行けないし

経済的な不安が一番のストレスだ。

ケガは治る。

でも、収入はない。

仕事に復帰してもその翌月でないと給料はない。

お店が、もう少し何とかなれば…

あんまり愛されている店ではなかったんだな…

落ち込むばかりだ。

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