フクロウとネズミ

温媹マユ

フクロウとネズミ

2019年3月10日 日曜日

9:50

 薄暗い部屋の中、四人の男女がテーブルを囲んでいる。小さいランタンだけがこの部屋の明かりのようだ。古い事務所のような、物置のようなそんな狭い空間。ここが彼らの住処だろう。


「今日の成果に乾杯」

 ひとりの男が赤い液体の入ったグラスを持ち上げると、続く「乾杯」と言う言葉とグラスの当たる音がこの狭い空間に響いた。


「園長、今日も無事仕事が終わりましたね」

「ああ、シェフのお陰で気がつかれずに済んだ。うまく調理をしてくれて助かった」

 園長と呼ばれた青年と、シェフと呼ばれたこのメンバーに不釣り合いに若い女性がもう一度グラスを重ねる。


「最近思うんすけど、俺たちの仕事もやっと軌道に乗ってきて、もう一安心かなと。俺はもう他の仕事を辞めて、これ一本でやっていこうと考えているんすよ」

 もう一人いた男はもう赤い顔をしている。酒に弱いのか。

「そうだな、バーテン。俺もそろそろ動物園もやめてこれ一本にしようと考えていたところだ」

 酒に弱いバーテンに園長が同意した。

 うんうんと、シェフも頷く。

 そして初老のもう一人も静かに頷いた。

 ここに居る全員が今までの仕事を辞め、彼らとの仕事を選ぶらしい。


「そうだ、ちょうど私たちが一緒に仕事をし始めて一年になるし、チームに名前着けない?」

 今までは彼らの集まりには名前がなかったようだ。ただの仕事上の集まりであるはずなのに、それに名前を付けようというのだ。

「そうだな、名前がないと何かと不便だし、門出に名前を付けよう。さて、何にしょうか」

 彼らを仕切る、このチームのリーダーは園長のようだ。


「あたし、チームフレンチとか考えてみたんだけど」

 最初に口を開いたのはシェフ。でもバーテンが続く。

「それなら俺はチームマティーニ。どうだ、格好いいだろ?」

「響きだけな」

 園長は首を横に振りながら否定した。


「そうだ」

 園長は横にある小さなネズミの置物をテーブルに運んできた。

「それなら、ネズミチームとかどうだ?」

「最低、絶対やだ」

「俺も」

「わしもじゃ」

 全否定され、落ち込む園長。

 始めて初老の男が口を開いた。


「わしならこれかな」

 今度は脇に置いてある少し大きめのフクロウの木彫りを指さした。

「集団ブッポウソウとかいかがかな?」

「何それ?」

 シェフはフクロウの置物と初老の男を交互に見る。

「仏法僧とはな、仏教の3つの宝物である、仏・法・僧という風になくフクロウのことじゃ」

「和尚、申し訳ない、ブッポウソウはフクロウでもミミヅクでもない。全く別の鳥だよ」

 和尚と呼ばれた男は顔を青くして上を見た。

「さすがエセ和尚ね」

 シェフとバーテンは笑った。


「じゃ、チームフクロウは?」

「確かに、夜行性、静かに飛ぶことなど共通点が多いかも知れない。静かに獲物を狙うその仕草は、我々の名前にするにはもってこいかも知れないな」

 園長の言葉に、全員が頷く。

「でもさ、最近聞いたやっかいな組織がチームあう……なんだっけ、動物の名前だって聞いた気がするけど。やり手の集団らしいよ。それこそ相手に存在を気付かせないというから。そして間合いを一気詰めて襲うらしいよ」

「それはやっかいね。関わりになりたくないよ。あたしははフクロウが好きだな。あの目、かわいいし」

「よし、決まりだ! 俺たちは今日からチームフクロウを名乗ろう!」

 もう一度全員がグラスを持ち上げ「乾杯」と叫んだ。


「遅くなりました、令状が届きました」

「よし、突入!」

 私は大声で指示を出す。

 前線が扉を破壊し、中へ侵入。

「そこまで、全員両手を挙げて立て」

 部屋の中にいた四人は大人しく手を上げ立ち上がっていた。

「連続強盗の疑いで全員逮捕する」

 令状片手に気持ちよく声を出す。今晩もうまい酒が飲めそうだ。

「おまえ達の名前は私が付けてやろう。チーム『フクロのネズミ』だ。全員逮捕だ」

 私の指示に従い、控えていたメンバーが突入する。

 そして全ては終わった。


「どうしてここが」

 園長が私に向かって声を上げた。

「おまえらのやったことは全てお見通しだ! あのフクロウの置物にカメラを仕掛け、ずっと見ていた。もちろん、ここがアジトだと言うことは気付いていたがな。尾行されていたことにも気付かないおまえらにはフクロウを名乗る資格はないな。やっぱりフクロウに食べられるネズミだ」

 今日のネズミは酒のつまみに最適だろう。

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フクロウとネズミ 温媹マユ @nurumayu

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