第4話 ちょっとだけ遠出

 朝早く、晴天の空に向かって多数の竜騎士が、訓練に飛び立っていくのは壮観な眺めだった。

「うん、特に変な飛び方してる子はいなかったね」

 思わず笑みを浮かべると、隣に立っていた竜騎士団長が僕にサッと小さく敬礼を放ち、笑みを浮かべて傍らにいた自分のドラゴンに乗った。

「今日は頼むぞ、先に上がる。編隊最後尾につけ」

「はい!!」

 僕は返事してファルセットの背に飛び乗った。

「よし、いこうか」

 僕は小さく笑い、ファルセットの首を撫でた。

 団長のドラゴンが大きく羽ばたき素早く飛び立つと、僕も足の合図でファルセットを空に飛び立たせた。

 そう、今日は少し遠くの演習場まで飛んで訓練のため、なにかあった時のために僕も同行する事になった。

 これは今が初めてじゃない。夜までに城に戻る予定ではない「お泊まり」では、ほぼドラゴンのお医者さんという役割で同行するのが常だった。

「昼間飛ぶなんて久々だねぇ……」

 眼下の景色を眺めながら団長のやや後ろを飛んでいくと、百騎以上いる竜騎士達がこの種の用語で小隊というが、六騎ごとの塊に分かれて複雑な図形の点という位置で飛んでいる編隊の後方に追いついた。

 団長が手で合図を示し、そのまま編隊の前方に向かって飛んでいった。

「天気もいいし、いいもんだね。さて、どこいくんだろう。聞いてなかったよ」

 僕は思わず一人笑った。


 城から半日ほど飛べば、セロヘレナ平原という広いだけの草原上空に達した。

「この辺だと思うけどな。他に訓練出来そうな場所ないしね……」

 案の定、そうだったらしい。

 竜騎士団の皆が次々着地していき、ざっと様子を見て大丈夫そうだと思って、僕もファルセットを着陸させようとしたときだった。

「ん?」

 それは、いきなりだった。

 なんらかの魔法を使っていたのは間違いないが、僕の左右を挟むような感じで、いきなり二騎の竜騎士が出現した。

 僕は咄嗟の動きで首から下げていた銀色の笛を掴み、独特の音階で甲高い音を鳴らした。

「……はい、もう掴んだよ」

 僕は笛を咥えたまま、小さく笑みを浮かべた。

 空中に止まったまま、間抜けといえば間抜けな感じの二騎の見慣れない竜騎士は、空中で羽ばたいて止まったまま動かないドラゴンの上であたふたしていた。

「……さて、どうしようかな」

 僕は笛を咥えたまま左右の二人に笑みを送った。

 しばらくそのままにして、僕は指で空中に右手の人さし指で短い文章を書き、終わると同時に笛を吹いた。

 そのまま反対を向き、もう完全に騎乗している竜騎士のいうことなんか聞かないドラゴンたちは、一目散にどこかにすっ飛んでいってしまった。

「ダメだこりゃ……『もういいから、ママに抱っこしてもらいなさい』って適当にやったんだけど、本当にいっちゃったよ。まだ、戦場に出すには早すぎるぞ!!」

 僕は笑って、そのまま地面に下りたのだった。

 当然他の面子も気がついていたので、慌てて事情を聞かれたが、僕の話を聞いてただの笑い話程度に収まった。

 竜騎士の一団を狙う時、真っ先にターゲットにされるのが、僕のようなドラゴンテイマーだ。

 ここを真っ先に押さえれば、その竜騎士団を掌握したに等しいからだ。

「まあ、僕はいかなる時でも、背中に乗っけてる人のいうことを聞くようにって、最初に教えるんだけどね。当たり前だけど、全部見きれるわけないから!!」

 僕は笑って、ファルセットの首を撫でた。

 これが、少し遠方まで出た訓練初日。その、やや遅い昼食の前の出来事だった。

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