第5話:Cパート

 ヘスペリア平原から首都ヘリウムに向かう街道。ちょうど小高い丘を通る場所にそれ・・は、立ちふさがっていた。


「早く来ないかな~。僕、待ちくたびれちゃったよ」


 そんなつぶやきに「ガオ」とそれ・・答え吠えて、近くにあった乗用車の残骸を蹴り砕いた。


 そこにやってきたのは、運の悪い輸送トラックだった。革命軍が独立戦争を始めてから火星の各都市の物流は混乱しているが、人が生きて行くにはどうしても物資を運ぶ必要がある。それが例え革命軍の本拠地であるオリンポスと首都の間であっても行われていた。

 もちろん革命軍はオリンポスから首都への流通は禁じているが、それを守っていたらおまんまが食い上げとなる人達が多数存在するのだ。このトラックはそんな人達に法外な金で雇われたのだろう。


「な、なんなんだ、あれは?」


 トラックの運転手はそれに気づくと急ブレーキを踏んで停車する。


「巨大なライオン…。それも金属でできた…?」


 そう、街道に立ちふさがっているのは巨大なライオン…いや巨大な獅子だった。それも白銀の鋼で作られた巨大な獅子。それが街道に立ちふさがっていたのだ。


「化け物…街道に化け物…が。逃げなくちゃ」


 運転手は、慌ててハンドルを切りUターンしようとしたが、


「ちょっと待ってよ。首都に行っちゃ駄目って言われてたでしょ。とにかく、その荷台に在る物はここに置いていってね」


 場違いな事に、獅子の口から聞こえてきたのは幼さの残る少女の声だった。


「ひぃー。命ばかりはお助けを~」


 運転手は、懸命にも荷物より命を選んだ。彼はトラックから降りると、一目散に逃げ出した。


「ふぅ、聞き分けの良い人でよかったよ。みんなあんな人なら良いのにね、ガオガオ」


 巨大な獅子ガオガオは、「クゥ」と返事をする鳴くと、トラックをひっくり返して街道の脇に蹴り飛ばした。そこには、破壊されたトラックなどの車両の残骸が多数散らばっていた。ただ死体は見当たらないので、破壊されたのは車両だけのようだった。


「早く、きてくれないかな~」


 巨大な獅子ガオガオは、それに答えるように空に向かって「ガオーン」吠えるのだった。

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