魔術師は今日も忙しい

黒辺あゆみ

魔術師は今日も忙しい

現代日本を生きる皆様。

 あなたたちは魔法というものが、おとぎ話の中にしか存在しない、空想の産物だと思ってやしませんか?

 だとしたら、それはとんだ思い違いというもの。

 魔法は間違いなく存在し、それを扱う魔術師たちも日々戦っているのです。

 なにと戦っているのかって?

 それは、この世を暗黒に染めようとする闇の使者と、に決まっているじゃないの。

 え、厨二病くさいって? 仕方ないじゃない、事実なんだから。

 我々と闇の使者との戦いは世界の始まりの頃からずっと続いていると、導師たちに聞いてる。それが知られていないのは、世間には秘密にされているから。

 この世界がいつ終わってもおかしくない状況だなんて、知れたらパニックになるから、だそうだ。

 そんな秘された役目を負い、日々戦っている我々魔術師なんですけれども。

 今、私が戦っている相手は、ちょっと違ったりするんです。

 私が日々神経をすり減らし、平和のために戦っている相手。

 それは……。

「はぁーはははは!」

あそこの夜空に浮かんでテンション高く雄たけびを上げながら、バカスカと無駄にデカい魔術を撃っている相方ですよ!

 ああぁ、アイツが紡いでいる魔術がヤバいくらいにデカい! アレは明らかにオーバーキルでしょうがぁ⁉

「アンタ馬鹿なの⁉ 闇と一緒に街を消し飛ばす気⁉」

「闇よ全て消し飛べぇえ!」

あの男、私の声なんざ聞こえている様子はなく、魔術を撃ち出す態勢に入っている。

 うわぁあ、アイツのせいで東京が滅ぶぅ!!

 私は瞬時にアイツと街並みの間に入り、盾の魔術を展開する。

 これでも私、魔術学院を首席で卒業した美少女天才魔術師だからね! このくらいお茶の子さいさいよ!

 しかし学院主席の私をもってしても、アイツの魔術を相殺しきれない。

 盾を越えて来た魔術をもろに食らい、私は吹き飛ぶ。盾の魔術に全魔力をつぎ込んだせいで、簡単な浮遊の魔術すら発動できず、地面に真っ逆さまだ。

 私、死んだな。敵じゃなくて味方のせいで。フレンドリーファイアで死亡とか、浮かばれないったらないわ。

 え、闇はどうなったかって? そんなもの、とっくに消し飛んでるわよ。

 父様、母様、私は儚い命でした。美人薄命って本当なんですね。

「ホーホゥ」

そんな半ば魂が抜けかけていた私の頭を、どこからか飛んできたフクロウがガシッと掴んだ。

 痛い、フクロウの爪って痛いんだから、とまる場所を考えなさいよ! ってこのフクロウってばアイツの使い魔じゃないの!

 その使い魔フクロウはどこぞのビルの屋上まで、私の頭をつかんだまま飛んでポイっと放る。乙女への気遣いがなってないわ、アイツも使い魔はちゃんと教育していなさいよね!

 フクロウがそんなブーたれる私をジト目で見る。いや、もともとこういう目をしているか。

「ホーホゥ」

そしてフクロウが鳴いた直後。

 私はポワン、と温かい光に包まれたかと思ったら、アイツの魔術でズタボロだったのが、たちまち回復した。

 そしてスウッと背後に現れる気配。

「まったく、君はどうしていつも気が付いたらそんなボロボロになっているんだい? 僕に任せて下がっていろと、いつも言っているだろう?」

お・ま・え・の! せいだろうが!

アイツの「やれやれ、困ったちゃんだな全く」と言わんばかりの態度に、私の神経がブチ切れる。

 もうダメだ、これ以上は私の命が持たない。

 相方変更を申請しよう、そう今すぐに!

 決意した私はすぐに交信を飛ばす。

『導師たちよ……』

確かについ最近まで私は、自分が最強の魔術師だと思いあがってました。

 ちょっと魔術学院の成績がトップだったからって、調子に乗ってました。

 けれど、もうその天狗な気持ちもポッキリ折れて、心底悔い改めました。

 私は所詮凡人で、平均よりもちょっと魔術が出来る程度だったのだと。

 天才風を吹かせて、先輩魔術師たちに生意気な口を聞いていた自分が、無性に恥ずかしいです。

 真の天才であるあの馬鹿に比べれば私なんて雲泥の差、月とすっぽん、フクロウとスズメなのです。

 先輩方からの苦情に対しては、代わりに反省文でもなんでも書きますから。

 お願いです、コイツの相方をやめさせてください。

 え、ダメ? コイツの魔術を防げるのは私しかいない? そんなはずないでしょう……いや、あるかも?

 学院で神童と言われた私以外に、この魔術を食らって生きていられる魔術師が、他にいたかな? なんて言っても私、天才だからね!

 えぇえ、私しかできないって言われたら仕方ないなぁ。

 だって天才だからね! 大事なことだから二回言うけど! あ、二回以上言っているか。

「ホーホゥ」

アイツの使い魔フクロウが「反省してないなぁ」なんて生暖かい目で見ている気がするなんて、そんなはずはない。

 そして、結局アイツの相方をまた押し付けられた。

 おかしい、いつもこのパターンな気がする。

 私がどんよりと肩を落としていると。

「ほらグズグズするな、誰かに見つからないうちに撤収だろうが」

偉そうに指図するアイツに、私はまたブチ切れそうになる。

お・ま・え・の・せ・い・で! 時間を食ってるのよ!


現代日本を生きる皆様。

 今日の平和の影に、私という尊い犠牲があるということを、どうか覚えておいてくださいね。

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