流行り物は回り物
瀬塩屋 螢
フクロウは二度回る
告白前にゲームセンターで一緒に遊ぶと勝率がいいらしい。
なんでも、環境音が大きいので、会話をするために自然と距離は近付くし、UFOキャッチャーだとか音ゲーだとかでカッコいい所を見せれば、更に点数が高いとか。
信じるかって?
友達以上恋人未満の彼女との関係から少しでも前に進みたい俺は、藁にもすがりたい気持ちで、現在実行している訳なのだが、、
まさか、UFOキャッチャーにあそこまで苦戦するとは。
調節自体はそんなに難しくなくても、なかなか落ちない。景品が引っ掛かったと思ったら、次の瞬間にはアームの爪から離れて、元の位置で揺れている。
そんなことを何回か続けて、なんとか彼女が一番欲しがっていた最近流行りらしいフクロウのぬいぐるみを手に入れることに成功した。
財布から樋口さん一枚を犠牲にして。
途中から本来の目的を忘れて真剣になってしまったが、物は手に入れ恰好もついたので、後は昼飯をどっかで済ませて、告白する雰囲気を醸し出せれば、軌道修正は可能のはず。
彼女がフクロウを引き連れて行ったお手洗いから帰ってくる間に、次の作戦を考えて、ショッピングセンター内の食べもん処が載っている看板を眺めていた時だった。
「おにぃちゃ~ん」
「え?」
柔らかく
小学生かそれよりもっと幼いか、それ位の年頃の子。迷子だろうか。彼女は俺と目が合うと、目尻に溜めている涙を更に大きくした。
「……おにぃちゃん、じゃないっ」
「ごめんなぁ。おにいちゃんじゃなくて」
腰を屈めて、彼女と視線を合わせる。
ピンクのワンピースを着た、ツインテールの女の子だ。
探し人で無かったショックが大きかったのか、少女はついにはらはらと涙をこぼす。どうにかしなくちゃと、俺は彼女の頭のに付いたキャラ物のポンポンを避けて手を乗せる。
「お嬢ちゃん。おにぃちゃんとはぐれちゃったのかな? 俺……も一緒におにいちゃん探そっか?」
「っ、おにぃちゃ~ん」
こまったなぁ。会話が成立しない。泣き止んでくれないことには、周囲の目が気になって、一緒に探しに行くのはキツい。せめて一番近いインフォメーションセンターまで連れてってあげたいんだが。
「泣くなよ。お嬢ちゃん……名前は?」
「ひっく、いまさかあおい」
「あおいちゃんか……」
未だ泣き止む気配のないあおいちゃんの頭からそっと手を放して、立ち上がる。周囲に人はいるが、こちらに注意している人は思いのほか少ない。
俺は思いっきり息を吸い込んで、ひとまず周りに呼びかけることにした。
「あおいちゃんのおにいさーん! いませんかー!」
ほんの一瞬、喧騒が水を打ったように静かになった。だが、まるで俺の声なんか聞こえなかったみたいに、また話し声が辺りを包む。
あおいちゃんの方は、驚いてこちらを見上げるがまだ涙が流れ続けている。俺はもう一度彼女の前に屈んで、これからの事を考える。
そんな時だった。
「どうしたんだほぉ?」
「
「?」
彼女が帰って来た。さっき俺があげたでっかいフクロウのぬいぐるみの後ろに隠れて、アテレコまでして。
あおいちゃんも、突然現れたフクロウに目をしばたかせて、その様子を窺っている。
「どうして泣いていたんだほぉ、フクロウに教えてくれないかほぉ?」
「あのね、あおいのね、おにぃちゃんいつのまにかいなくなっちゃったの」
「いなくなっちゃったのかほぉ」
「そうなの、あおいおにぃちゃん探したいの」
「フクロウもそこのお兄ちゃんもお手伝いするほぉ」
「うん! フクロウさんも一緒にさがそ!」
怖い顔のお兄さんと一緒にいるより随分と安心したのか、あおいちゃんはぴたりと泣き止んで、元気になる。
この調子なら、もう大丈夫だろ。
「あおいー!」
アーケードの向こうから、俺と似た真っ黒な服装の男の人がこちらへ走って来た。俺も和泉もあおいちゃんもそちらの方を向く。
「おにぃちゃん!!」
あおいちゃんが真っ先に反応して、その男の元へ駆け寄っていった。
年頃は俺たちより少し若い位。俺も和泉もその様子を見守る。
「急に消えるなよ!」
「ごめんなさーい」
男の人の膝辺りにしがみついたあおいちゃんの姿を確認して、俺たちはその人の元に歩み寄る。
「あおいちゃんのお兄さんですか?」
「あんた達は?」
「あおいといっしょにいてくれたのー」
「じゃあ、さっきの声は……」
「それは彼です」
和泉がすかさず俺の事を指さす。俺は一瞬彼女の方を見て、ひとまず頷く。
「有難うございます。お陰で分かりました」
「俺は別に……」
「ねぇ、フクロウさんは?」
あおいちゃんの目線まで屈んだ和泉に、あおいちゃんが不思議そうに尋ねている。
「ふくろうさんはねぇ、あおいちゃんがお兄ちゃんと会えたから安心して他の人の所に行っちゃった」
「えぇー、そうなんだぁ」
「でもね、このフクロウさんを持ってたらいつか絶対またあおいちゃんの所に会いに来てくれるよ」
和泉が背中に回していたフクロウのぬいぐるみを、あおいちゃんの前に差し出した。
「ほんと?」
「うん!」
「おねぇちゃんありがと!」
あおいちゃんが抱き着くように、フクロウを和泉の手から取る。
「あおいの世話をしてもらった上に、ぬいぐるみまで、本当にご迷惑おかけしました」
「いやいや、俺相手じゃ全然泣き止んでくれなかったんで、俺の方こそ」
俺はあおいちゃんのお兄さんに少しだけ苦く笑って見せる。
お兄さんはあおいちゃんと手を繋ぐと、深々と一礼をした。
「バイバーイ、お兄ちゃーん」
お兄さんとぬいぐるみをしっかりと両手に握った、あおいちゃんは何度もこちらに笑顔を向けながら次第に遠くなっていく。
「あおいちゃんの為に呼びかけてたの、カッコよかったよ。おにいちゃん?」
「からかうなって」
「ホントだよ。あの子笑顔になってたし」
「それはどこかのフクロウさんのお陰だろ」
「あげちゃったの事、怒ってる?」
「そりゃ、金はかかって取ったもんだけど、あおいちゃん笑顔になったんだし、和泉に取ったもんをどう使おうが和泉の好きにしたらいいよ」
「ちぃくんは本当にすごいよね。たった一つのぬいぐるみで一日に二人も幸せ者をだしちゃうなんてさ」
「……」
和泉のそう言う事をあっさりと口に出せるあたりを俺は尊敬しているのだが、うまく言いな返せそうもないので、それ以上反論する事もあるまい。有り難く受け取っておこう。
「さてと、私たちもそろそろご飯食べに行きますか?」
「おう」
「せっかくのデートなんだから、美味しいものが食べたいよねぇ」
「えっ? 和泉それってどう言う……」
「さ、さぁー、どういう意味かなぁ」
気の所為か、彼女の頬が少しだけ赤くなっていく気がする。俺も似たような感じになっているだろう。
そうして和泉と並んで歩く道すがら、告白前にゲームセンターで一緒に遊ぶのも悪くないと思うのだった。
流行り物は回り物 瀬塩屋 螢 @AMAHOSIAME0731
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