第18話 闇賭博場の女王

「いらっしゃい。やっと来たわね」

 麗華は、闇賭博場にやってきた田上を笑顔で迎え入れた。


「麗華……ここに戻ったって話、本当だったんだな」

 田上は険しい表情で麗華を見据えた。


「ええ。私の居場所は、ここだから」

 麗華は笑顔のまま、さらに目を細めて田上を見据える。


田上はホールを見た。ホールには客どころか、ディーラー、バーテンダーすら居ない。


「……何か、あったのか?」

 田上は店内を見回した。田上は感じる──


「何かあったと言えば……そうね。私、先月からここのオーナーになったの。すごいでしょ?」

 麗華は田上に向かって、残忍な笑みを浮かべた。



 ──言い知れぬ、違和感。



「……真矢はどうした?」

 田上は早足で事務所に向かう。麗華も田上について歩く。


「ねぇ優さん、覚えてる? 初めて対戦した女の事」

「何の話だ?」


 事務室に入った2人は、椅子に腰かけた。田上はゲスト用ソファ。麗華は、真矢が座っていた椅子に。


「優さんが初めて倒した女。あの子ね。〝清算〟されてなかったの。真矢が匿っててね。それで、2人で駆け落ちしたみたいよ?」

 麗華は指先で顎をなでた。手入れされた真っ赤なネイルが、ライトの光を反射する。


「星乃。嘘をつくな。真矢はどうなった?」


「……何よ! 一度も呼んでくれなかったくせに、今さらその名前で呼ばないでよ!」

 麗華は立ち上がって田上を睨みつける。


「……」

 田上は無言で麗華を見上げた。麗華は軽く咳ばらいをして椅子に座りなおす。


「……あの男はね、若い女を狙って破産させてたの。本来〝全身清算〟で数千万のカネになる身体を、自分のために無駄遣いしてたのよ? それが、北竜会にバレた。それだけよ」

 麗華はタバコに火をつけた。


「……そうか」


麗華の細いタバコから、煙が立ち上った。


「で。今日はね……お客様は、アナタだけなの。ディーラーもいないわ」

 麗華は煙草の煙を田上に向かって吐く。


「俺だけ……」


「ええ。それでね。オーナーとして言わせてもらうけど……貴方は邪魔なの」

 そう言うと麗華は指を鳴らし、事務所に、北里とジョニーが入ってきた。ジョニーの手には、ビデオカメラ。北里はトランプを持っている。


田上が立ち上がって北里の前に立つ。


「……アンタが新しい麗華の男か?」

田上は北里を睨みつける。魔眼は、まだ開かれない。


「冗談言うなよ。この人は、アニキ……幹部の愛人だ。俺なんかが手を出したら、石狩湾に沈んじまう」

北里は苦笑いを田上に向ける。しかし、サングラスの奥の目は笑っていなかった。


「アンタとこの人が勝負する所を、記録する様に言われてきた」

 北里はカメラの電源を入れた。


「俺と、麗華が……勝負するだと?」

 田上は眉をひそめ、カメラと麗華を交互に睨みつける。


「ええ。でも、ディーラーがいないから、勝負はポーカーじゃないわ」

 麗華は出会った頃の笑い方でもなく、共に過ごした笑い方でもない、妖しい笑み浮かべて立ち上がり、田上に歩み寄る。


 その姿は……シックな赤いドレス。ハーフアップにした上品なブラウンの髪、長いまつ毛、真っ赤なルージュ。



真矢が作った、麗華ではない。

田上に恋した、星乃でもない。



〝麗華〟が妖艶な笑みをたたえながら、口を開く。



「ババ抜きで、私と遊びましょ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る