フクロウさん、風船取って!!

アほリ

フクロウさん、風船取って!!

 ほーほーほーほー。


 真夜中、僕。フクロウのプルメ。この木の主。


 ほーほーほーほー。


 餌のネズミを捕るのは、誰にも負けない百戦練磨。

 研ぎ澄まされた感覚と脚が、僕の自慢さ。


 しかし、そんな僕にこの後思いもよらない事態で・・・



 ・・・・・・



  カヤネズミは、ずっと高い木の上を見詰めていた。


 「あの木漏れ日からキラキラ輝くものは・・・何だろう?」


 ふわふわ・・・


 ぽんぽん・・・


 ふわふわ・・・


 ぽんぽん・・・


 「あれは・・・風船だ!!」


 カヤネズミのチュルリは目を輝かせた。


 「ネズミ仲間とお喋りした時に聞いたよね。

 風船っていうのは、人間がゴムの袋に空気を入れて膨らませて飛ばすものって。

 いいなあ・・・綺麗だな・・・」


 


 ふわふわ・・・


 ぽんぽん・・・


 ふわふわ・・・


 ぽんぽん・・・



 カヤネズミのチュルリは、じっとあの木々の間からそよぐ春風にふわふわと揺れる白い風船にしばし見とれていた。


 「・・・・・・」


 そのうち、カヤネズミのチュルリはだんだん興奮していた。


 とある慾望に胸が沸き、駆られた。


 「あの・・・風船を手に入れたい!!

 あの風船に掴まって空を飛びたい!!」


 カヤネズミのチュルリは、鼻の孔を孕ませて深く息を吸い込むと、地面から反動をつけて駆けだし、木の太い幹に掴まった。


 「よおし!!この木を登るぞ!!」



 たったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったった!!



 ずるり。



 たったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったった!!



 ずるり。



 たったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったった!!



 ずるり。



 「の、登れない!!も、もう一度だ!!」



 たったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったった!!



 ずるり。



たったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったったたったったったったったったったったったったったった!!



 ずるり。



 「ちくしょう!!この木め!!ネズミを舐めるな!!」



 「あっはっはっはっはっは!!」


 木の枝の上で笑い声が聞こえてきた。


 「な、何が可笑しい!!お、お前は誰だ?!」


  「はーい!俺、ニホンリスのグリボン。この森の番人さ。」


 リスのグリボンはちょこちょこちょこちょこちょこと木の幹を降りてきて、ニタニタと馬鹿にされてどや顔でプンプン怒るカヤネズミのチュルリを見詰めていた。


 「で、何か僕に用なの?用が無いなら、ここから出てよ!!」


 「あーら。君もこの白い風船が目的かい。

 俺も欲しいんだけどさあ・・・」


 リスのグリボンはそこまで言うと、顔をこわばらせて告げた。


 「この木の上には、この木の主でとてと獰猛なフクロウが居てね・・・見つかると・・・食われちゃう・・・から・・・」


 「フクロウ?!」


 カヤネズミのチュルリは、何か突然思い付いた。


 「あのフクロウにお願いすれば!!その主のフクロウに、あの風船を取って貰うって事・・・良いアイデアって・・・

 ねえ君!!正気か?!」


 「うん。」


 「で、その手筈は?」


 「ひ・み・つ!!」



 ・・・・・・



 真夜中になった。


 「これは、危険をかなり伴うけど・・・手段はこれしか思い浮かばなかったんだ。」



 ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅう・・・



 カヤネズミのチュルリは、わざと草叢の中で鳴いた。


 「さあ、来い!『餌』はここにあるどーーー・・・」



 ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅう・・・



 さぁっ!!



 ・・・来た・・・!!


 ・・・フクロウのおでましだ・・・!!


 フクロウは、羽音もなくカヤネズミのチュルリを鋭い感覚を研ぎ澄まして探しだし、逞しい脚を突き出して鋭い鉤爪を草叢の中の無防備なカヤネズミのチュルリを掴まえた。



 「ちゅーーーーーー!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!命だけはお助けをーーーー!!」


 突然カヤネズミのチュルリは、フクロウのしっかり掴む鉤爪の中で激しくジタバタと暴れた。

 

 「ほーほー!!そんなにちゅうちゅう泣いたって無駄だネズミ。」


 フクロウのプルメは、掴んでいる取り乱してるカヤネズミに言い聞かせた。


 「フクロウさん・・・フクロウさん・・・貴方の胃袋の中に私が収まる前に、お願いします・・・」


 「なあに?僕の餌。」


 「貴方の何時も留まっている木の真上に、白いゴム風船の紐が引っ掛かって浮かんでいます・・・

 それ・・・私が誤って飛ばした風船です・・・

 私は、この最愛なる風船に此の世にバイバイする前に逢いたいのです・・・

 だから・・・あの白い風船を取って来てください・・・」


 「はあ?ふうせん?!」


 フクロウのプルメは、鉤爪をカヤネズミのチュルリを掴んだまま音もなく飛び上がった。


 「ちゅーーーーーっ!!」


 フクロウの舞い上がる物凄いスピードで、カヤネズミのチュルリは思わず悲鳴をあげた。 


 「はっ?!」

 

 カヤネズミのチュルリは、気が付くと目の前に月灯りに照らされて、プカプカと浮かんでいる白い風船が見えてきた。


 「ほほぉーー。知らんかったなーー。僕の木の枝より高くに、白い風船があったなんて。

 風船・・・僕の方が欲しいよ。」


 フクロウのプルメは、美しく白い風船に夢中になってこの風船の紐を木から外したくなってカヤネズミのチュルリの掴んでいる鉤爪を思わず離してしまった。


 「私のアイデアが当たった!!いまだ!!」


 カヤネズミのチュルリは、バッ!と飛び出すと風船の紐をしっかと掴んだ。


 「わあっ!!おいこら!!ネズミ!!逃げるのかっ!!」


 フクロウのプルメはカンカンに怒って、風船の紐を掴んでフワフワと浮いているカヤネズミのチュルリを掴もうと脚を伸ばした。


 「でもいいさ。ここは、木の枝が密集しててさ。さん、に、いち!!てへっ!!」


 フクロウのプルメは、左右非対称の耳の孔を翼で塞いでニヤリとした。



 ぷすっ!!



 パァーーーーーン!!



 白い風船は、木の枝の芽に刺さってパンクしてしまった。


 「ちゅーーーーーー!!」


 カヤネズミのチュルリは、片手を割れた風船の紐を掴んだまま、真っ逆さまに木の下に墜落していった。


 「あーあ・・・遂に僕の対ネズミ百戦練磨が途切れたぁ。

 全部まさかの、あの頭上の風船のせいでね。

 にしても、風船惜しかったなあ・・・

 何処かに風船飛んでこないかなあ・・・

 もし拾った風船が萎んでたら、息を吹き込んででもものにしよ。ほーほー。」



 ・・・・・・・



 「で、あの風船を無事にゲット出来たの?ネズミさん。」


 ホンドリスのグリボンは、ソワソワしながら恥ずかしそうな素振りをみせるカヤネズミのチュルリに聴いてみた。


 「ほら、この通り。」


 「あらら・・・」


 カヤネズミのチュルリは、がっくりと肩を落として割れた白い風船の破片を目をしょぼつかせるリスのグリボンに見せた。


 「大丈夫だよ。ネズミさん。こうやって割れた風船の破片を口に宛がうと・・・」


 リスのグリボンは、頬袋をパンパンにして顔を真っ赤にして、割れた風船の破片をプックリとさせて必死にぷーーーっと膨らませてみた。


 「わーい!風船だ風船だ!!」


 カヤネズミのチュルリとホンドリスのグリボンは、その割れた白い風船でしばし愉しく仲良く遊んだ。


 ・・・結果オーライっ・・・!



 ~フクロウさん、風船取って!!~


 ~fin~

 


 





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フクロウさん、風船取って!! アほリ @ahori1970

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