りんねさくら

逢柳 都

第1話

 桜舞う三月。

学び舎を背にするも、めぐみは「帰りたくない」と友人のはるかと二人、河川敷に寝そべった。


「終わっちゃったねー」

めぐみはポケーと空を見ながら、つぶやいた。

「終わったねー、でも楽しかったよね。あんなことやこんなこと……」

「楽しかったね。あーあ、永遠に高校生してたい!! これからは社会人かー。はるかと一緒の会社が良かったな~」

「私もだよ。ずっとめぐみといたい」

「…………はるかぁぁ……なんで引っ越しちゃうのぉぉぉぉ~……」

 めぐみはとうとう泣いてしまった。えっぐえっぐと嗚咽を漏らす。小学生のころに孤児院で知り合ってからいつも二人一緒だった。はるかだって寂しいし、泣きたいけれど妹同然のめぐみの前だ。ぐっとこらえ、ハンカチを差し出してめぐみを優しくなだめる。

「『――春は別れの季節なんかじゃない、”またね”の季節である!  byはるか』! なんてね。お互い忙しくはなるけど、二度と会えないわけじゃないんだから――だから、笑って?」

「……そうだね、隣の県だし、スマホもあるし! また遊ぼうね!」

「うん。いっぱい遊んで、いっぱい話して、いっぱい楽しもう!」


”思い出に”と、お互い拾ったきれいな一輪の桜を交換しあって、お揃いのめぐみ特性お守り袋に入れた。引っ越し当日、二人は「またね」と笑顔で手を振り、それぞれの道を歩み始めた。


まさかあんなにも早く再会するとは知らずに―― 。



 新緑の四月。

はるかが働き出して、初めての休日のことだった。今日は何をしようかと布団にくるまっていると、スマホが”きらきらぼし”を奏でた。めぐみだ!

スマホを鷲掴み、電話に出る。

「めぐみ! 元気? そっちはどう?」

「………………」

「めぐみ? どうしたの? めぐ――」

「はるかちゃん…………」

孤児院の院長の声だった。なんで? めぐみは? 

あのねと切り出されたそれは、はるかをどん底に突き落とした。院長の呼びかけで何とか気を持ち直し、強盗のようにタクシーを捕まえ、走らせた。



 霊安室――そこに、めぐみはいた。けど、あの笑顔を見せてはくれない。それどころか、目を開けてもくれない――もう、二度と。永遠に。

変わり果てためぐみを前に、はるかは膝から崩れ落ちる。院長が後ろから支える。

 昨日未明、車に轢かれそうになったマメシバを助けようとして、重傷を負ってしまい、急いで病院に搬送されるも、命はめぐみの手からこぼれ落ちてしまった。


先月「またね」って笑い合ったばかりなのに……。めぐみ――――――……。



 「今日は院でゆっくり休んでおいき」と院長が言ってくれたので、甘えることにした。久々に見る院の仲間たちと時を過ごした。めぐみとの相部屋がまだ空いていたので、シングルベッドに潜りこむ。狭いと蹴り合いながらも眠ったのが嘘のようだ。

「こんなに広かったっけ……。寒いよ、めぐみ…………」

――めぐみ…………。


「めぇぇぐうぅぅぅ~~」

壊れた蛇口のように涙があふれてとまらない。

引っ越さなければよかった。もっと連絡を取ればよかった。もっと一緒にいたかった。布団に丸まって、静かに激しく泣いた。


「くぅぅん~……」

突然、外から鳴き声が聞こえた。院では何も飼っていない。そこには、赤毛がきれいなマメシバがいた。駆け寄って、わっしゃわっしゃ頭をなでる。花には、桜の花びらが付いていた。首輪に、ボロボロのお守り袋がついていてハッとする。それは、めぐみお手製のあのお守り袋だった。

「え…………なんでキミがこれを――」


”車に轢かれそうになったマメシバを助けようとして――――”


「…………まさか、ね。キミがめぐみな――」

「わんっ!」

「へ…………?」

マメシバはしっぽをふって応えた。

”また一緒にいられるね”と言っているような気がした。













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りんねさくら 逢柳 都 @red-cat

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