インターセプト
第32話 幕間――芹沢 颯希の独白――
定時報告。というより私だけの独り言。
どうにも
どう考えても、客観的に見れば美水希ちゃんと彼は付き合ってるじゃないか!
まあ、天然街道まっしぐらの夏杜希ちゃんの意識は無自覚だけれども、彼らの本来あるべき関係性を暗示しているが。
でも、最も重要なことを当事者本人らが認めようとしない。
その自覚が芽生えない。
あまつさえ、美水希ちゃんのことを〝芹沢さん〟と他人行儀な扱いをする始末。
……言い方が雑ね。
他人行儀というより、これは拒絶かしら? 無意識の拒絶。
つまり、彼の意識を構築するために繋いだ彼女らの自意識がそれを拒んでいるのではないか……。
まあ、誰もこんなことを試したことはないだろうし、私が独断でこのようなある種の禁忌に触れていることはよく理解している。
だからといって私はこの選択を後悔しない。
必要だから。これは誰よりも、彼と。そして、なにより美水希ちゃんにとって必要なものだから。
自己同一性を確立するまで時間はかかると思っていたが、なかなかうまい具合に進展はしてくれない。
理論を体系的にまとめあげたからといって、臨床的な実例が皆無の現実。そう易々とは結果を望めるものではないか……。
嘆息して、ずいっと苦みが沈殿した珈琲を一口含んで、軽くむせる。
その壊滅的な不味さに顔を歪ませる。
この冷めきった珈琲。
いくら甘くたってぬるま湯につかり続けるのはいかがなものかと再考する。
やっぱり、多少の刺激。ともすれば、劇薬なくして〝フィナーレ〟を迎えることは難しいかな。
ならばここは一つ。あまり使いたくはなかった手を打つしかない。
時間は有限ではない。
こうしている間にも、ゆうくんの大切だったものが失われつつある。
彼女の意思を尊重せずに、勝手に手を下すことに一瞬の躊躇いを感じるけど致し方ない。
別に怒られたって構わない。必要なこと。……必要なことだから……。
そうと決まれば行動は迅速かつ徹底的に、だ。
私はマグカップに注がれた泥水と大差ない黒い液体を捨てて、白衣に袖を通す。
これぞマッドサイエンティスト。
私は正しい。それを誰よりも理解しているからこそ、口元に現れる笑みが抑えられない。
美水希ちゃんにとって必要、とか割と言い訳なのかもしれないな。と
さあ、待っていなさい。
今までのようなぬるま湯を期待しているのだとしたら私は許さない。
早くそこから抜け出して、私たちのもとへと
あたしは。芹沢美水希は。夏杜希は。あと、ついでに彼女はあなたのことを待っている。
だから早く目を覚ませ、
いつまでも火傷すらしないぬるま湯なんかにつかっていないで、その居心地の良さなんてさっさ捨てて、この現実まで脱して来い!
となりのあの子がカワイイだけの話 梅星 如雨露 @kyo-ka
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