第3話

 三人は一先ず近場の廃村へと逃げ込んだ。

 パワードスーツは俊敏であり、機動性に優れる。とはいえ遮蔽物の無い荒野で二機と戦うのは分が悪いと判断したからだ。


 幸い、ハッキングしていた一機目は機能不全から直ぐに追跡はしてこなかった。それに二機目に追いつかれる前にこの廃村に隠れる位の時間はあった。


「マックス、右手は大丈夫か?」ジーンは崩れかけた塀の影から様子を見ながら言った。

「少し火傷しただけだ。もう少し距離が近かったら溶けて短くなってたところだけどな」

 マックスは頭部のバイザーを空け、外気に顔を晒していた。深い彫りのある顔と、その奥に強い意思を持った青い瞳が見えた。

 深呼吸を繰り返し、不意打ちで高ぶった自分自身を鎮めた。

 右手を開いては閉じ、具合を確かめる。戦闘に支障は無いようだった。


「クソ! やっぱり罠か!?」

ジェリコは舌打ちをした。ジェリコもバイザーを開いておりイラついた表情を見せていた。

「恐らくそれは無いだろう。依頼主は二体いるとは一言も発していなかった。北のオアシスはともかく、道が分断され困っている当人が嘘をつくとは考えにくい」マックスは下たる汗をパワードスーツのごつい手で器用に拭いながら言った。


「何かを見落としていたのか?」

「ジーンは自分が見落としたと思うか? 情報を集めたのは主にミヤコだが、その情報を全員で整理したんだ。むしろ最初から欠けていたと見るべきだろうな」

「つまり?」ジーンの表情は見えないが真剣な眼差しをしていることはその声色から分かった。

「奴の痕跡から一体だけだと勘違いしていたという単純な理由さ。恐らくもう一体の方はおれがハッキングを仕掛けるまで完全に休眠状態だったか。あるいは連携して交互に活動していた為に、二体の分の痕跡を一体分だと思わされていたってところだろうな」

「今、二体同時に活動しているのは、仲間の危険を察知して……ってことか」ジェリコは納得した様子で頷いた。

「他にもいるかもしれない可能性はあると思うか?」ジーンは壁隙間から二機の様子を伺いながら言った。


Thud……Thud…… .


規則的な足音は着実に三人の元に近づいてきていた。

「それはないだろう。いたらとっくに俺達は取り囲まれて。あの端末みたいに溶けてるところさ」マックスはバイザーを閉じた。

二機のグラスホッパーの重い足音が壁のすぐ向こうにまで迫っていた。


Beep!Beep! Bleep!Bleep!


 二機はぴったりと揃って動き、互いに情報をやり取りしていた。カメラが上下左右にしきりに動き、三人を探していた。


「ジェリコとジーンは奥の奴をやれ。連携されたら厄介だ、引き離すぞ。見たところ電界装甲が展開されている。機体の前に付いた二枚の板が見えるか?あれを壊さない事には弾が逸れて当たらないぞ。だがジーンのレールガンなら逸らされず威力が減衰する前に着弾させられるかもしれん。ジェリコ、お前は奴の目を引き付けて狙撃の隙を作ってやれ」

 ジェリコは腰の水筒から水を補給すると頷きバイザーを閉じると、左腕のバリスティックシールドを展開させた。それは折り紙のようにパタパタと開いていった。


「マックス、あんたはどうする?」ジーンは電磁加速銃をチャージさせた。キーンという高い音とモーターの加速する音が聞こえた。

「俺は奴に取り付いて直接こいつをぶち込む」そう言ってマックスは左手の点火型杭打ち器の安全装置を解除した。

「ジェリコ、しくじるなよ」「うるせぇ、そっちこそ!」

「いつも通り、合わせて飛び出すぞ」


 装甲の下、太ももや脛。黒いラバー状の人工筋肉の制限が外され、その細かい網目模様は腕や脚の動きに合わせ自在に伸縮し人の力を何倍にも引き上げる。ギチギチと音をたてて駆動し躍動した。

「GO!!」

 三人は跳躍し壁から飛び出した!

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