よくも…よくも…許さないぞ! お前ェェェ!!

ちびまるフォイ

正義は弱いものの味方

「親友! 親友ーーーーッ!!」


「へへ、すまねぇな主人公……。仲間が来るまでもたなかった……。

 最後に……この剣を託すぜ……」


親友は剣を渡すとだらんとしたまま動かなくなった。


「ククク。おろかな人間よ。虫けらを片付けるのはたやすかったぞ」


「……ゆるさない……! お前だけは絶対に!!」


主人公の脳裏にかつてぶつかりあった親友の思い出が走馬灯のようによぎる。

はげしい怒りの感情が主人公の身体を包んでいく。


「お前だけは、許さない!!」


「な、なんだ!? なにが起きている!」


「俺は怒ったぞ!! うおおおおお!!」


激しい怒りが眠っていた主人公の実家の母を起こした!

潜在能力が覚醒した主人公の髪色が真っ赤に染まる。


「貴様……いったいなにが……」


「スーパー主人公Ⅱ’ターボだ」


「なんだと……貴様いったい……」


「普段は優しい心を持ちながら激しい怒りによって

 本来の力を解き放った主人公だ」


「優しいって自分で言うんだ」


「ラスボス、俺はもうお前をけして許さない!」


「ククク。わずかばかり能力が上がったところで我に勝てるとでも?

 ちょっと見た目が変わったから驚いたが、未だに能力差は歴然だ」


「なに……!?」


「そして、主人公よ。この娘は知っているな?」


ラスボスは玉座の後ろから囚われているはずのヒロインを出した。


「ヒロイン! よかった! 無事だったのか!

 貴様、まさかヒロインを盾にしようというのか!」


「クククク。そう思うか? おい、言ってやれ」


ヒロインは申し訳なさそうに告げた。


「ごめんね主人公……おとなになるってかなしいことなの……」


「どういうことだ? ヒロイン、早くこっちへ来るんだ!」


「もう、あなたの元へは行けない……」


「ラスボス……! まさかお前……!!」


ラスボスは悪そうな笑顔をしてみせた。


「ああ、そうだ。すでにヒロインは我が手中。

 貴様が救うべきヒロインはもういないのだよ」


「騙されるな! どうしてこんな笑い方のラスボスに惚れるんだ!」


「だって、ちょっと頭をなでられちゃったんだもん……」

「ちょろすぎか!!」


「というわけだ。貴様はもう戦う理由はない。無駄に命を散らすこともないだろう」


ラスボスの意思とは裏腹に勇者はますます怒りに震えた。


「許さないぞ……貴様……絶対に……!!」


膨れ上がる怒りの感情は主人公の肉体を大きく膨張させた。


本来の力を抑えるためにつけていた拘束具をふっとばし、

不自然な湯気と光が差し込んで主人公の(ワーオ♥)を隠す!!


「くっ……今度は一体何が起きたんだ……!」


「ラスボス……親友の命を奪ったばかりかヒロインまで略奪とは墓穴をほったな。

 俺は自分の強い精神力で抑えていたはずの本来の力を開放させた」


「なに……!」


「これが100%中の100%というわけだ。

 お前はもう死ぬ運命からは逃れられないぞ」


主人公はじりじりとラスボスのもとへ近寄っていく。


「親友から託されたこの聖剣ギャランドゥで貴様を必ず闇へと送る!!」


剣をさやから抜いた瞬間に、刀身が折れてしまった。


「ハハハ。おろかなり主人公! どうやらその聖剣は偽物だったようだな!」


「許さない……!」

「え?」


「俺と親友を騙した鍛冶職人、絶対に許さねぇぇ!!!」


鍛冶職人への激しい怒りが主人公の身体を包んだ。

身体にまとっていたオーラはより激しく稲光をまとうようになり、

顔つきもガラリと変わり目つきが鋭くなる。


「貴様……今回は我、関係ないだろう!?」


「もとはといえばお前が世界を征服しなければ、

 こんなパチモン武器を作ったりする必要もないから貴様を許さない」


「クッ……まさかこれほどとは……!」


すでに3回の覚醒を行った主人公の戦闘力はすさまじく、

ラスボスをはるかにしのぐほどになっていた。


しかし、なおもラスボスは余裕の表情を崩さない。


「ククク。主人公よ、相当なパワーアップをしたようだがそれも無駄だ」


「強がりか?」


「いいや。我のこの闇の羽衣は通常攻撃のいっさいを受け付けない。

 貴様がいくらパワーアップしたところで我に攻撃は通じないというわけだ」


「そんな……!」


「貴様のこれまでの努力も冒険も無駄だったというわけだ」


「ずるい……!」

「え?」


「そんなのずるい……絶対に許さない……!!」


「ちょっ」


「うおおおおおおお!!!!」


全然攻撃が通じないことへの理不尽な怒りが主人公を包んだ。

怒りに飲まれた主人公は肌が黒くなり、漆黒の翼が生えた。


「今度はいったい……!」


「お前を倒せるまでに変化した……!」


「バカな! 変身能力は我ら魔族のみのはず!」


「怒りに飲まれたことで闇になったのだ……」


同じ闇属性になったことで闇の羽衣も効力を失ってしまう。


「貴様……いったいどこまで進化できるんだ……!」


「バカに……するなぁぁぁぁ!!!」


「してないしてない!!」


ラスボスにバカにされたという思い込みによる怒りが主人公を包んだ!

髪の毛は伸び、身体はますます巨大化し、すでにラスボスをも凌駕した。


「サァ……覚悟シロ……!!」


主人公は目をギラギラさせ、口からは白い煙が漏れる。

ラスボスは主人公の変貌を確認すると、最初の主人公の姿に変身した。


やがて、主人公を追いかけてきた仲間たちに叫んだ。




「みんな! あのラスボスを倒すために、力を貸してくれ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

よくも…よくも…許さないぞ! お前ェェェ!! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ