賑の56 そう言われてもな?



「ミントは試験どうだった?」

「まぁいつも通りかな」

「はぁ……余裕がある人は言うことが違うわね〜」

「姉さんはもうちょっと余裕をなくしたほうがいいのよ」

「うぐっ!余裕なんてないわよ……」


 沙織に詩織は相変わらずだし、駿もいつも通りの順位だな。


「なんでミントは勉強してる感がないのにいっつも上位なのよ!」

「ははは、沙織ちゃんは勉強してるのにどうしていっつも下の方なんだろうね」

「……駿……後で覚えときなさいよ」

 掲示板に張り出された理数系の順位表を見た後、俺はふらっと文系の順位表に目を向ける。


 相変わらず独走の首位だな、あいつは。

 8教科800点満点で789点てどんな点数だよ?


「とても敵わないね、柊くんには」


 俺が順位表を見上げていると知らぬ間にミドリンが隣で苦笑いをしていた。


「そういうミドリンも一桁順位だろ?大したもんなんじゃないか?」

「200点近く離されたらもう笑うしかないからね」

「まぁそりゃそうだな」

「それはそうと沙織くんは僕が結構真剣に教えたんだけど……さっぱりなんだよ」

「ははは、何を教えたんだ?」


 すっかり校内でも有名になっているこのバカップルが2人きりになったら勉強どころじゃないと思う。

 実際そうだったのだから、あの有様なんだろうけど。


「楽しそうね」


 ミドリンと笑い合っていると珍しく言葉が順位を見に来た。

 一回だけ見に来た後は興味なさげにそれ以降は来なかったのにどういう風の吹き回しか。


「安定の首位だな、お前は」

「おかげ様で。そう言うあなたも変わりないみたいね」

「ああ、まぁあんなもんじゃないか」

「そうね」

「……もしかしてミントくんと柊くんは……?」


 今まで校内では意識して話さなかった俺と言葉が普段通りに話しているのを見たミドリンはピンときたようだ。

 野次馬根性丸出しの沙織と詩織に駿も集まってきたのでいつもの面々にかいつまんで説明する。

 当然周りの学生たちは少し距離を置き興味津々に聞き耳を立てているのが丸わかりだ。


 みんなに小声で祝福され、何となく照れ臭くもありそれでいて嬉しくもある変な感じを味わい俺と言葉は顔を見合わせて笑いあった。


 きっとすぐに学校中に広まるのだろう。

 言葉はもう全く隠す気がないのか、2人でいるときのように俺に寄り添って話を聞いている。

 それがあまりに自然すぎて周りで見ていた学生たちも気にならなかったくらいだ。


「じゃあまた後でね」

「ああ、またな」


 別れ際も俺と言葉にしてみればいつもと同じ、素っ気なく見えるものだった。


 残念ながら周りが期待していたような甘い関係には程遠い。


「あれ?アリサは今日は来てないのか?」

「嶺岸くんなら今日は風邪を引いたとかで休んでいるよ」

「へぇ、アリサも風邪引くんだな」

「はっはっは、聞かなかったことにしといてあげるよ、ミントくん」


 その後教室に戻った俺はクラスメイト、主に男子から質問責めにあったのは言うまでもない。

 中には手荒い祝福をしてくれるヤツもいたが、まぁそれもご愛嬌だ。

 授業が終わり皆部活に行ったり帰る中、駿はいそいそと教室を出て行く。

 俺も沙織に詩織も大体わかっているので、いちいち聞くほど野暮なことはせず駿の背中にエールを贈る。



「周りの視線が大概痛いな」

「そうなの?私はなんとも思わないけど」

「お前はそうだろうさ」


 今日は鉄塔には行かずに──やたらと周りに見られていたから行けなかったのだが、真っ直ぐに部屋に帰ってくるとすでに言葉が定位置で紅茶片手に寛いでいた。

 すっかり我が家みたいな顔をしてるよな、こいつは。


「お前のほうはどうだった?」

「特に何もないわよ、先日散々聞かれたから今更それ以上のことなんてないもの」

「ああ、そう言えばそうだったな」


 コーヒーを淹れ隣に座って学校でのことを話す。


「それよりもうすぐ文化祭よ、あなたのクラスは出し物とかは決めたのかしら?」

「文化祭?」

「あら、何も聞いてないの?2月の末でしょ?」

「そんな話知らないぞ、担任も何も言ってなかった……と思う」

「……寝てたから知らないだけなんじゃない」


 そう言われてもついウトウトと寝ちゃうのは仕方ないだろ?教室が冷暖房完備だからちょうどいい室温で起きとくほうが無理だ。


「まぁ、また明日にでも……って明日は土曜か。来週にでも聞いてみるわ」

「相変わらず適当ね」

「気のせいだな、うん」


 晩御飯の支度をしにキッチンに立つ言葉の後姿にそう声をかけると肩をすくめられる。

 時計の針が9時を過ぎた頃、2人でのんびりと晩御飯を食べてテレビを見ながら他愛もない話をして。


 結局、全く帰る気配を見せない言葉は俺の肩に頭を預けて寝息を立てている。

 週の半分を俺の部屋で過ごしているが本当にこいつの家は大丈夫なんだろうか?

 あの個性的な妹も祖父母の家に行っていると聞いているし……本人が何も言わないから俺も聞こうとはしないが、それでも気になるのは気になるわけで。


 そのうち聞く機会もあるだろうか。




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君のこころに咲かせる華はどんな色がいいですか? 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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