桜の木の下で

 

 桜の木の下で

 

 桜──満開の桜。

 日はすっかりと暮れていた。金色の月に面紗ベールのような薄い雲が懸かっている。

 君とこうして桜の木の下で一緒に花見をしている。僕にはそれがたまらなく幸せなんだ。

 ずっと君と一緒に。

 僕らはいつからこうして花見をしているのだろう。

 遠い昔からのように思えるし、昨日からのようにも思える。

 

 でも、僕と君は決まって夜に花見をしている。

 いつとかもうわからないけど、君とずっとこうしていられるなら僕は幸せだ。

 

 風で舞い散る桜を眺めていると君がふと呟いた。

 「また来年もこうして桜を見たいね」

 僕は何も言わないで静かに頷いた。

 杯に一弁の花弁が入った。

 

 薄雲が晴れた。

 月明かりだけが僕らを照らしている。

 僕はそっと君の手の甲に自分の手を重ねた。

 君の顔が少し赤くなるのがわかった。

 

 こんなにも愛しい君との時間を僕は失いたくない。

 

 風に舞う桜が僕らを優しく包み込んだ。

 澄んだ空気が心地いい。

 目に映る全てが美しかった。

 桜も月も風も。そして君が。

 

 永遠の時の中で僕らは生き続ける。

 明けることのない夜。

 年を取らない僕ら。

 僕らはずっとこうしていられる。

 飽きることなんてない。

 君と一緒なのだから。

 この世の全ての美しさに見飽きることもない。

 

 いつまでもずっと。

 桜の木の下で────

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詩集「心の形」 武市真広 @MiyazawaMahiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ