私は犬が好きだ。なんなんだあの生き物は。


 隙あらばSNSで犬の動画ばかりを見ている。えさをがぶりつくだけだったり、プールに無理やり入れさせられたり、どんな動画だってかまわない。ただ、犬が映っているだけで目が吸い寄せられていく。いつの間にか口もとが緩んで、にやけている。


 いつからこんなに好きになったのかわからない。おそらく、以前はこんなに犬好きではなかったはずだ。昔、犬を飼っていたが、『うん、今日も犬はいるな』くらいの冷めようだったはず。犬のおもしろホームビデオを紹介する番組も『ふーん』程度で、人間が調子に乗って股間をぶつけている動画の方がまだ笑えていた。


 でも、今はどうだ。今一番好きなテレビコーナーは『今日のわんこ』である。あのコーナー最高だ、って思う日が来るなんて、昔の自分には想像できなかっただろう。


 ちなみに、一番好きな犬種は『コーギー』。溌溂とした元気さに、シュッとした顔立ち、なのに、足は短くて、身体は大抵丸みを帯びている。ああ、なんて完璧なフォルムなんだ。抱きつきたい。そして怒られたい。


 とまぁ、知り合いの前で犬の魅力を語ったら十中八九ドン引かれるであろうほどのオタクっぷり。というか、もうすでに語っているので、知り合いはさぞかしドン引いていることだろう。


 でも、どうしてここまで『犬』が好きなのか。冷静に分析してみる。

 それはたぶん、犬が正直者だと思うからだろう。嫌なことをされたら吠えて絶対に避けようとするし、嬉しいときは尻尾を振って走り回る。もし、ご主人のことが好きなら、ご主人の前でぴったりとくっついて離れないでいる。


 そんな、犬の馬鹿正直さが、けっこう羨ましかったりする。人間同士だと、そんな感情表現はなかなかできない。もちろん、するときもあるけれど。自分の正直な気持ちとは裏腹な言動をしてしまうことの方がよっぽど多い。嫌われたくないから、穏便に済ませたいから。理由は様々あれど、保身している自分がときおり情けなく思ってしまう。


 そういった意味で、『犬』は憧れでもあったりするのだ。


 でも、犬だってそんな単純じゃないかもしれない。面倒だけどエサをもらうためにお手をしたり、散歩で別ルートに行きたいのにやむなく従うしかなかったり。


 『ご主人、なんでこっち行かないのー! こっち行きたいー! 可愛い子がいる予感がするのにーー!』


 犬には正直者でいてもらいたい、と強く願うばかりである。


 そして、どんな些細なことだけでもいいから、自分の気持ちを正直に伝えていこうと思うのであった。


 だから明日も、私は正直に犬の魅力を熱弁して、ドン引かれようと思う。

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