第14話 テスト初日

「解答始め」


 テストが始まった。一時限目は国語だ。国語は得意科目なので、わたしはすらすらと問題を解いていく。

 そして、大問一の現代文を解き終えた。正直、現代文は全く勉強していなかったのだが、読む問題も書く問題も両方とも自信がある。

 やはり現代文は暗記しなくても全問解くことが出来るので、勉強する必要はない。

 これぞ、私の勉強法の一つ目。

 現代文は勉強しない! である。

 さて、次の大問二は古典だ。古典は暗記するところが多かったからしっかり勉強をした。その甲斐あって、古典もバッチリ。

 ラスト大門三は文法や漢字。

 文法は応用問題など一切出ず、簡単なものばかり出たのですらすらと解答をしていく。

 そして漢字も私に掛かれば簡単。

 だが、九番と十番で迷った。


(九)心理をついきゅうする。


(十)責任をついきゅうする。


 同音異義語だ。

 このテストのために学んだことを、教えて貰ったことを懸命に思い出そうとした。そして数秒後、誰かの声が私の脳裏をぎった。


「この『追究』は何かを明らかにしようとすることだ。例えばお兄ちゃんの本質を追究する、とかな」


 その時、晴斗は笑っていた。そして次には、


「それでこの『追及』は追い詰めること。お兄ちゃんが結婚してくれないのでその理由を追及した。って使ってくれると嬉しいな」


 その例文を聞いた時、私は晴斗の顔面を一発殴った記憶がある。

 そうだ、それだ。

 私は自然と思い出し、


(九)追究


(十)追及


 のように、解答欄を埋めた。

 そして同時に全ての解答が終了し、記号や漢字などが綺麗に解答欄に収まった。


「家に帰ったら晴斗にお礼でも言おうかな······」


 そう、私はテスト中に呟いたのであった。


 その後の社会も順調に進んでいった。

 社会は暗記さえすれば満点を取れる科目なので、学んだことをひたすら思い出して問題を解く。そして見直し。だいぶ自信がある。

 だが、最後に強敵は現れる。

 ――数学だ。

 こいつはどうも解けない。

 晴斗、まもるさん、玲香れいかさんに色んな問題を教えて貰ったが、実際その内の誰もいない空間でテストを行うとあまり問題を上手く解けない。

 ――テストを一人で受けている感覚。空虚なこの空間。

 そんな変な違和感に私は陥った。

 やっぱあの三人がいなければ問題を解ける気がしない。やっぱあの教えてくれる三人がいないと私は――。

 だが、それでも問題とは向き合わなければならない。

 だから私は問題を見る。三人の内の誰もいない空間で問題を見る。計算問題がずらっと並んでおり、見ただけで寒気がした。

 私はあそこまであの三人に数学を教えさせてしまった。それに対する三人の期待は自然と膨れ上がるはず······。

 故に低い点数なんて取ってしまったら申し訳ない。

 でも、それでも――。

 ――やはり私には数学が出来ない――。


「解答やめ」


 そして、今日のテストは終わった。



 ***



「ただいま」


 私は帰宅した。

 それもあまり元気がない様子で。

 理由は単純に数学に自信がなくて、晴斗を含む三人に申し訳ない気持ちがあるからだ。


「おかえり」


 そんな私に晴斗は一声。そして、


「テストどうだっだ?」


 やはり、と思った。

 晴斗は二階に逃げようとしている私にテストの自信の有無をいてきたのだ。

 晴斗は期待している。だから私は逃げ道を作る。


「まあまあ、じゃない」


 嘘はいていない。

 国語と社会は出来た。そこに数学が加わったことによって「まあまあ」という言葉も自然と追加されたのだ。


「そっか」


 晴斗は首肯した。それを尻目に私は自室へと向かって行く。

 そしてベッドへとダイブした。


「みんなに教えて貰ったのに出来なかった······」


 自己嫌悪――あの三人は私を教えるためにあの日、三時間もの時間をいてくれた。にも関わらず、その時間と相応の結果を出せた気がしない。

 何故自分は理系科目が出来ないのか。

 それも自己嫌悪した要因の一つだ。


「もう、明日は理科があるし······テスト嫌だな」


 若干の怒り。

 それはテストに対する理不尽なものだ。

 テストは高校に入学するための過程としてやらなければならない。ならば、その過程が上手く出来なければ、本番の高校入試は難しいものだろう。

 それは知っている。

 だからテストを受けなければならない。これは避けても通らなくてはならない道だ。

 私はその道を広げる少しの可能性を求めてベットから上がり、机に向かう。

 そして理科の教科書を広げて勉強を始めた。

 本当にテストって――面倒だよね。

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