第13話 雨音の心情

 ――朝の五時半

 目覚まし時計からはうるさい音が鳴っている。アラームだ。

 私はそのアラームを止め、起きる。

 今日は中間テスト初日。

 科目は国語、社会、数学だ。晴斗はるとまもるさん、玲香れいかさんにいろんなことを教えて貰ってその力を発揮する時が来た。

 もちろん、眠い。朝の五時半起きとかまじ鬼畜。

 二ヶ月ほど健康に配慮してこの生活を続けているがどうも慣れない。

 テスト前日は早めに寝るのがいいらしいから昨日はいつもより一時間も早い九時半に寝た。

 なので、八時間も睡眠を取っている。なのに、身体からだはだるいし眠いし。こんな状態で中間テストに全力で臨めるのかが心配だ。

 私は起きてすぐ制服に着替える。

 そして、着替えたのち扉を開け、リビングへと向かって行く。

 まずはブラックコーヒーをれる。そして、それを飲む。これによって睡魔を遠くにやることが出来るので、テストでは頭が回転するだろう。数学では、びしばし問題を解いてやる。

 一息ついたところで、次は読書タイム。

 朝は比較的暇なのでこんな感じに時間を潰している。

 そして、六時になった。しかし、晴斗は起きてこない。そのまま五分が過ぎたので、私は晴斗を起こしに行くことにした。

 本当に手間がかかる兄だ。正直、面倒くさい。自分で起きろや自分で。

 私は本を閉じ、晴斗の部屋へと向かって行く。

 そして、ノックをすることもなく、扉を力強く開け、


「起きろー!」


 と、眠気を覚ましてやった。

 今日もまたビンタをしなければならないのか。

 そう思ってビンタをする体勢を取ったが、それを見て、晴斗は瞳を大きく開けた。


「もう起きてるからビンタするなよ!」


 私は相当なことがない限りは起きている兄にビンタをする妹ではない。

 だからその手も引っ込めた。


「じゃあ、早く起きて朝ごはん作って」


 いつも通りの口調で晴斗に言った。


「ああ、今日は雨音あまねのテスト当日だったな。じゃあ、お兄ちゃん張り切っちゃうぞ」

「はいはい」


 晴斗は張り切っている様子。個人的に実は結構嬉しい。自分と私のために美味しい朝ごはんを作ってくれるからだ。

 だけど、その朝ごはんを作ってくれたことに関して素直にお礼を言うことは私には出来ない。

 なんか、照れくさいじゃん。だから別の言葉を探してそれを表に放っている。

 晴斗がたまに変な顔をしている時は「キモい」と、言うしそうゆう言葉が見つからなかったら黙り込むし······。

 本当はそうゆうことがしたい訳ではない。だけど、私には兄を褒めるという言動は出来ないのだ。

 理由は単純、照れくさいから。それと、私のキャラに合わないから。

 晴斗からしたら私は可愛いかもしれない。だけど金は奪うしで好感度は絶対に下がっていっているだろう。

 だから私は自分を変えていく。

 それが本当の私で本当の妹で『本物』なのだ。

 そんな決心をしつつ、私は階段を一段ずつ降りて行った。

 そして、リビングへと繋がる扉を開ける。

 ソファーに座り、再び本を手に持ち、読書タイム再スタートだ。

 それからおよそ一分後、


「おはよー」


 と、遅れた朝の挨拶が聞こえてきた。もちろん音源は晴斗だ。


「おはよ」


 いつも通りのキャラで私は大きくも小さくもない声量で言った。

 そして、晴斗は台所へとつく。


「雨音お兄ちゃんに力をくれ!」


 晴斗が私に頼んできた。だから私はいつも通り応援する気持ちが篭っていない声音で言う。


「はいはい。頑張れシスコン晴斗」

「おう」


 そんな私からの何も篭っていない応援を受け取りつつ晴斗は朝ごはんを作り始めた。

 そこからおよそ三十分後。


「出来たぞー!」


 読書をしていた私に晴斗が呼びかけてきた。

 今、いい場面なのに!

 惜しい気持ちを残しながらも私は本を閉じ食卓へと向かって行く。

 メニューはハンバーグだ!

 それは私の大好物。これをテスト当日に作ってくれるなんてありがたい。

 感謝の気持ちを晴斗に伝えたいが、照れくささと自分で作ったキャラがそれを拒み結局は、


「お! ハンバーグだ」


 なんて、一言しか発せなかった。

 私はハンバーグを箸で切って掴み口の中に入れる。

 やっぱりハンバーグは美味しい。特に晴斗のハンバーグは本当に美味しい。個人的には外食する際食べるハンバーグよりも美味しい。

「美味しい」と、三回も思えるほど晴斗のハンバーグはとても美味しい。


「どうだ?」


 晴斗はいてくるが、私の表情からして心は丸見えだろう。だから変な嘘もかないし、事実を誇張して言うこともしない。


「普通に美味しい!」

「それは良かった」


 私の感想に晴斗は満足そうな様子。

 だが、私はまだ続きの言葉を――作ってくれたことに対して感謝の気持ちを伝えていない。

 しかし、それはそんな簡単には伝えられない。だから今日も私たちの朝食には沈黙が走った。

 

 その沈黙が走ってからおよそ一時間後、髪を整えたり、歯を磨いたりして今は玄関に立っている。


「行ってらっしゃい」


 晴斗は私を送る言葉をくれた。

 しかし、「行ってきます」という言葉も表に出すのは難しい。

 しかも前なんてそのまま無視して家を出たし······。

 だからここでその言葉を出してしまったら私の晴斗に対するキャラが少し壊れてしまう。なので、今日もいつも通り無視して家を出る。

 そして、私は中学校へと向かうべく足を進める。

 前、晴斗からお金あげる、と言われた時は驚きと興奮のあまり「まじ!?」なんて言ってしまったが、今にしては後悔だ。

 まず、何。妹が兄からお金を奪い相談を兄に受けさせるって。

 そこから考えると晴斗は本当に馬鹿。なんでそんなに私のことが好きなの。全く理解が出来ない。

 お金までくれて相談を要求してくるだなんて、そんな兄は全国飛び回ってもいないと思う。

 だから、お金を貰うというのは『本物』の私を晴斗が見られるようになるまでにしよう。

 ――そして、『本物』の私で晴斗と接することにしよう。

 私はテスト初日にそう決心したのだった。

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