第三話 新たな仲間

「疫病を治す───って、今言いました?」


 我が耳を疑った神父は、目の前に立つ医師に再度問いかけた。モーガン医師は肩を竦める。


「と言っても、治療法を知っている訳じゃなくて、ただ純粋に医者として手助けをしたいだけです」

「そのために、私の力が必要だと?」

「ええ、その通り」


 モーガンは微笑を浮かべながら、にこやかに答えた。


「僕は初めてこの国に来た新参者です。何も知らない。だけど、目の前で苦しむ人のために何かしてあげたいと思っています」


 ───人々に寄り添い、救う立場にある聖職者なら、この気持ちが分かりますでしょう?


 朗らかな笑みを一切崩さず、モーガンは神父に詰め寄った。


「僕は本気ですよ。妻のアグネスとも話し合って、ここへ移住することにしました」


 大英帝国とエルコム帝国は、比較的距離の近い島国ということもあって、文化や慣習こそは似通っている部分はあるが、宗派が同じではないなど、相容れない違いが存在する。

 また産業革命や市民革命などにより、政治や経済において国際的な権力を誇っているのはイギリスであって、他の国々に遅れをとっているエルコムは弱い。移住することにメリットは存在しないとも言える。


「私からも、お願いします。どうか、私たちに協力させてください」


 アグネスは、そのビロードのような澄んだ瞳で力強く、目の前に立つ二人を見つめた。とうの二人は、しばらく無言で見つめ合ったが、二人を受け入れるかどうか決めあぐねている。


 だがその直後、二人が座っていたソファーに、もたれかかっていた若い日に焼けた肌をした男が勢いよく胃の内容物を吐き出した。

 老医師はため息を吐き、廊下の先で酒を飲んでいた看護師にバケツを持ってくるよう指示をしてから、二人に向き合い、またため息を吐いた。


「まあ、うちは働ける奴がいつも足りないんでね。働き手が増えるのなら、素性がなんであれ構わない」


 老医師の決断に、神父はあとざすった。


「そんなに簡単に雇ってしまっていいんですか? 善人とは限りませんよ?」

「何か悪さを働きたいんなら、死ぬかもしれない、こんな危険な場所にわざわざ来ないだろ?」


 確かにそうだ。老医師の言葉に、神父は唸る。反対意見はないと判断した老医師は、二人に威勢よく言い放った。


「さあ、無駄話をしている時間はない。仕事をするぞ」


 恰幅の良くて小汚い中年女性の看護師ナースが駆けつけた。口は酒臭く、顔も赤く火照っていて、飲酒していたことが一目で分かる。


「神父、先ほど三人死にました。葬儀屋を手配したので、それまで祈っておいてください」


 働き手が増えたからといって、状況が劇的に大きく変化する訳ではなかった。

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