告白(仮)

 こうやって一人で歩いて帰っていると、小さい頃を思い出す。野原を駆け回り、昆虫を追いかけ、笑顔を絶やさなかったあの頃を。

「…………」

 いつもの帰り道から少しだけれる。少し歩くと、小さな公園があった。遊具もすべり台とブランコしかない。砂場には浅くて小さい穴や崩れかけの砂山と、子供が遊んでいた形跡がたくさんある。見ていると砂に触りたくなってくる。

「久しぶりに本気出すか」

 こう見えても小さい頃は『穴掘りトラップの達人』と呼ばれたいと思って頑張っていたんだ。

 公園に足を踏み入れる。袖を折って、裾をまくって汚れないようにしてから、まず砂場を眺める。そして笑う。

「ハハハハハハハハハハハッ! 見せてやるぜッ! 大人の本気ってやつをッ! 次、お前たちがここへ来たとき、二度と砂遊びする気が起きんほどになァッ!」

 俺は勢いよくジャンプして砂場へ飛び込む。着地は体育の授業でやった走り幅跳びをイメージ、そのまま……回転してかかとで穴を掘る!

「秘技! ドリルミサイルかかとォォォウッ⁉︎」

 なんだ……⁉︎ 突然、浮遊感に襲われ……しかも、視界が急に暗くなって――

「あ……俺……」

 俺、落とし穴に落ちてる……。見上げると、いつもよりずっと狭くなった空が覗いていた。落とし穴の淵の砂がパラパラと顔に降ってくる。

「深い……」

 さっきまでの威勢はどこへやら。俺はゆっくりと落とし穴から這い上がる。

「……っ! まだだ! まだ諦めない! 俺は諦めなィィィッ⁉︎」

 なんだ……⁉︎ なんなんだ⁉︎ この浮遊感、それに既視感。さっきと全く同じ……まさか……。

「……よし、砂遊びは止めよう!」

 落とし穴、もう一つありました。



「はぁ……」

 さっきの落とし穴で制服が盛大に汚れてしまった。しかし、引っかかったのが俺で良かった。小学生があんなのにはまったら、怪我するかもしれないし。

 公園のブランコに座って、赤い太陽を眺める。ああ、今日も今日とて今日が終わる。


 なんだか……眠い……。


「ハッ!」

 ここは……! 

 薄暗くなっていて最初はよく分からなかったが、夜目が利いてきて分かった。公園だ。

「体が……だるい……」

 あのまま寝ちゃったか……。どうりで体のあちこちが痛いわけだ。

 そのとき、公園の前を通る足音が聞こえてくる。朦朧とした意識の中で、その人物がウチの制服を着ているということに気が付いた。そして暗がりでもなぜかはっきりと分かった。それが乙宮春香であることに。

「って、乙宮がこんな時間にいるわけないだろ」

 乙宮は確か帰宅部だったはずだ。こんな時間に(正確な時間は分からないが)制服を着て歩いているはずがない。多分、まだ寝惚けてるんだな俺。はっきり乙宮だと分かったのも幻を自分で生み出したからだろう。

「乙宮ー! 好きだー!」

 乙宮の幻に向かって叫ぶ。よし、帰るか。明日は真人たちから大胸筋工場の話でも聞こう。

「…………ッ!」

 乙宮の幻はいってしまった。すごいな……まるで本人がいたみたいだ。

「最近のはすごいなぁ。はは……」

 幻に最近も何もない。もちろん、そんなことは分かっている。分かってはいるが、とてつもなく嫌な予感がした。もし、さっきの乙宮が現実の乙宮だとしたら、俺は薄暗い公園でいきなり乙宮に告白したことになる。もしそうだとするなら振られるのは当然、これから一年間、気まずい関係が続く。

「まさか! そんなわけないない!」

 あはは! きっと、あれも幻だ! そうだ! そうに違いない! さあ! 帰って寝よう! 眠いなぁー! 眠い眠い!

 結局、一睡も出来なかった。


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