第26話 夏合宿で襲われる?

「耀、野菜切るのこんな感じ? 」


 雫が、ビキニに短パンというまさにリゾートな格好で、川辺でバーベキューの用意をしていた。

 サークルの夏合宿で、バンガローを借り、女子十三人、男子八人で

 きていた。


 料理が得意な耀が食料の下準備の係りになり、もちろん耀を狙っている雫はべったりと耀から離れない。

 あまり得意とは言い難い包丁さばきで、ザクザクと野菜を切っていた。


「もうちょい薄くないと、火が通る前に焦げちゃうよ」

「エーッ、手を切りそうでやだ!」

「猫の手、習わなかった? 」


 耀が猫の手を作ってみせると、雫は可愛い~ッ! と耀の腕をとる。


「もう、危ないから。雫は包丁は持たないでいいよ。盛り付けしてよ」

「エーッ、耀と一緒がいい! 」


 雫は、わざと胸を押し付けるように、耀の腕に密着する。

 普通の男子なら、ムラムラきてもおかしくないだろうが、耀の表情は全く変わらなかった。


「いいね、二人共こっちむいて」


 写真係の男子生徒が、耀と雫の写真をカメラにおさめる。

 雫はわざと耀にくっつき、最高の笑顔をつくった。


「二人って付き合ってるの? 仲いいよね」

「まだよ。でも、お互いフリーだし付き合っちゃう? あたしは全然ありかも」

「いや、俺好きな子いるし」


 恋人発言はダメでも、好きだと言うくらいはいいだろう。


 雫は、ムッとした顔をしたが、耀の腕は離さなかった。


「それって……、まさかだけど学生課の人? 」

「えっ……」

「何々、学生課の人って誰? 」「耀って年上好み? 」


 雫の一言に、そこにいた女子が全員くいついてくる。


「ほら、眼鏡かけてる地味めな女の人。耀、最近よく彼女に話しかけてるから」

「ああ、あの眼鏡の? 違うでしょ? イメージできないよ、耀とタイプ違い過ぎない? 」

「いや、ああいう真面目そうな人ほどエロかったりして」

「うわ~ッ! 耀、エロ目的? 」

「なら、あたしでもよくない? 」

「いや、エロならあたしでしょ」


 皆好き勝手言う。


「エロ求めてないし! 」


 耀が勘弁してよと言うように、女子達の会話を遮る。


「ウッソ~ッ!エロいらない男の子なんて、男の子じゃないよ」

「でも、耀って淡白だよね。こ~んににナイスボディな女子が回りにいっぱいいるのに、全然手出さないんだもん」

「そりゃ当たり前だろ。友達には、手だしたらダメじゃない? 」


 女友達は多い。

 というか、友達のほとんどは女子だ。なぜかわからないが、昔からそうだった。

 耀的には、友達は友達であり、異性とは意識しない。だから、性的アピールをされても反応することはないし、耀の中では彼女と友達の区別ははっきりしているのだ。


「じゃ、あたし友達やめる。彼女に立候補する」


 雫がさらにくっついてきたので、耀はトイレ! と叫んで退散した。

 トイレの裏まで逃げると、耀はスマホを取り出した。

 大学は夏休みだが、汐里の仕事は休みじゃない。


 昼休みかな?


 耀はラインをうってみた。


 耀:まだ仕事?


 しばらくすると既読がつき、汐里から返信がくる。


 汐里:お昼休みだよ(^^)v

 耀:何食べてるの?

 汐里:焼きそばパン。耀君は?

 耀:カレー作ってるとこ。しおりん、早く会いたいな。あさって、しおりんの家に帰っていい?

 汐里:いいよ。待ってるね

 耀:じゃあ、カレーの続き作ってくるね。夜、電話してもいい?

 汐里:いいよ。頑張って作ってね

 耀:うん、後でね


 合宿は三日間。

 まだ初日だというのに、すでに汐里に会いたくなっている耀だった。


「耀! トイレ遅いと思ったら、こんなとこにいた! 」


 耀を探しにきた雫が、後ろから抱きついてきた。


「雫、冗談でも彼氏に立候補とか言わないほうがいいよ。雫に気がある奴だっているわけだし、勘違いされるぞ」

「勘違いじゃないし! 耀のこと、まじで好きだもん」


 雫は耀の前に回って、ギュッと抱きついてきて、勝負顔で下から見上げる。

 首に腕を回し、目をつぶって耀に顔を寄せてきた。


「俺、好きな子いるんだ。その子以外無理っていうか、本当にごめんな」

「誰よ? やっぱり学生課の眼鏡の女なの? あんなんおばさんじゃん! あたしのがいいって! 」

「ごめん……」

「どうしても? 」

「ごめん」

「なら、キスして! 一回でいいから」

「ダメだよ」


 耀は雫の肩を掴んで引き離した。


「なんで? 付き合ってとか二度と言わないし、別にキスくらい罰ゲームでだってするくらいだからいいっしょ? 」


 雫は無理やり耀の洋服を引っ張ると、体勢を崩した耀の唇に唇を重ねてきた。


 耀は雫の両肩に手をかけ離そうとした。

 しかし、雫は耀をトイレの壁に押し付けるようにし、さらに耀にしがみついてくる。


「ちょっと、まずいから! 」


 耀は、最大限の理性を総動員して、雫の両手を掴んで引き離した。しっかりと両手を掴んで胸の前までもってきて、諭すように言う。


「雫、こういうことしちゃダメだ! 」

「誰にでもするわけじゃないし、耀だからしたいんだよ」

「俺は全然嬉しくない! はっきり言って嫌だ! 雫とは付き合えないんだ。そういうふうには見れない」

「なら、身体だけでもいいよ。セフレでもかまわない」


 ヤってしまえば、自分の方を向かせる自信のある雫だった。


「俺は無理だから。雫を好きになることはないから」


 耀は雫を突き放して歩きだす。

 友達だと思っていたから、けっこうショックだった。

 雫のしたことにというより、自分が雫に勘違いさせるような行動をとっていたんじゃないか? ということに。

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