『暇』という難敵

 治療開始直後の息子の様子として、これも小児特有の問題かな、と思う事があります。息子に治療中の何が辛かったか、と聞くと、まあ、色々な事が出てきます。薬が苦かった、副作用で熱が上がって辛かった、食事が食べられなくて辛かった等々。そして、中でも必ず口にするのが、


『暇だった』


 という問題でした。治療開始直後では、まだ身体も辛かったので、そこまで意識されませんでしたが、息子に言わせると、この時から既に、起きてる間、兎に角する事がなくて、辛かったと言います。これは本当、小児特有だと思うのですが『時間を潰す』と言う行為は、実は非常に高度な能力を要求される事なのだ、と思いました。


 息子は幸い、ひらがなであれば字が読めたので、まだ幾らか良かったかもしれません。絵本や、その当時はまだ読んだことがなかった漫画等を渡してみましたが、活発で、外遊びも大好きだった息子が、それだけで満足出来るはずもありませんでした。


 この頃、よく親子揃って遊んでいたのが、仮面ライダーの食玩のおまけ作り。息子はこの当時放映されていた仮面ライダーが大好きで、その影響で我が家は皆視ていました。その食玩に付いているフィギュアを組み立てて、飾って遊ぶ事をしていました。胸より上は問題なく動きますし、手先もどちらかと言えば器用な息子は、これに非常に興味を持ち、わたしと二人で「組み立て係」「シール張り係」に分かれ、お互いに話し合いながら遊んでいました。


 そんな息子の当時の口癖は、


「今日のおれは、負ける気がしねえ」


 でした。わたし自身は聞いたことがないのですが、朝、看護師さんが体温を測りに来ると、起きて一言目に言っていたそうです。当時放映されていた仮面ライダーの、相棒的キャラクターの台詞ですが、やはり、そうした影響を受けやすいのは、男の子の特徴でしょうか。何にしても、そういう言葉を口にすることが、彼の力になっていたのだろうなあ、といまは思ったりしています。


 話が逸れましたが、そうした方法で、どうにか暇を潰す事が、大袈裟ではなく、1つの越えるべき問題になりました。それでも「物分かりが良すぎて可哀想な所がある」と言われていた息子の性格が、プラスに働いた所もあった様です。


 また、そうした長期闘病中のストレスを見越して、病棟には保育士さんもいらっしゃいました。抗がん剤の影響が少ない時は、個室まで来てくださって、いろんな遊びを提供して頂きました。保育士さんは、本当に偉大な存在で、息子も、保育士さんが来てくれた時には、目を輝かせて折り紙で何かを作ったり、簡単な塗り絵の様な事をして、その時間を楽しんでいました。


 こうして、遊びを工夫することや、いろんな方の手助けを戴いて、息子は徐々に病院での生活に馴れていきました。入院後期にはゲームが出来るようになり、暇を潰す問題は改善されていきました。おかげでいまの息子は、完全なゲーマーですが、まあ、それも、命あってのものですし、宿題等は黙っていてもやるので、多目に見ています。


 

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