第6話

                    *



「彼女はね、ご両親からは貰えなかった愛に飢えているんだ。だから、出来るだけ彼女の望むように愛を注いであげて欲しい」


 よろしく頼む、と真面目な顔をして頭を下げる吹雪に、慌てて顔を上げるように言い、


「元からそのつもりですよ。恩があるのもですけど、私、すばる先輩のこと結構好きですし」


 少し照れくさそうに雲雀は続けた。


「ほう? たとえばどういう所かな?」

「『氷の皇女』とか呼ばれてても、案外繊細で優しい所ですね」

「ふむ。分かってるじゃないか雲雀君」

「後、本当はもの凄くさみしがり屋な所とか可愛いです」


 本人はムキになって否定してましたけど、と、雲雀は続けて、クスリと笑った。


 クッキーが焼けるのを待ちながら、雲雀は吹雪とすばるの可愛いところについて盛り上がっていると、


「あっ、すばる先輩からです」


 すばるから雲雀の携帯に電話がかかってきた。


「もし――」

「雲雀ー……。まだかかるの……?」


 雲雀が出るとすぐに、すばるがめちゃくちゃ寂しそうな、とにかく甘えた声でそう言ってきた。


 耳をそばだてていた吹雪は、それを聞いて雲雀と2人でニヤリとする。


「はい、まだです。というかまだ1時間もってませんよ」

「そんな事関係ないわ!」


 私が待つのが嫌いなのは知ってるでしょう! とすばるはブーブー文句を言うが、その声はいまいち情けない調子だった。


「はいはい。分かりました。今すぐ帰りますよ」


 雲雀のその返答を聞くと、すばるは明らかに声が明るくなって、早くしてちょうだい、と言って電話を切った。


「そういうわけなんで、行ってすぐ戻りますね」

「いいよ、戻ってこなくても。ボクが後で焼き上がったの持って行くからさ」

「本当すいません……」


 ウィンクしつつそう申し出た、吹雪の厚意に甘えた雲雀は、


「もう全く。すばる先輩ったら……」


 実に楽しげに、やれやれ、といった表情でそう言った。


 使用済み、と書かれたカゴにエプロンを放り込み、足早に出ていく雲雀の背に向けて、行ってらっしゃい、と言いつつ吹雪は小さく手を振る。


「ふふ。あの子達の関係は、本当に見てて飽きないな」


 そう独りごちた吹雪は、鼻歌交じりにクッキーの焼け加減を確認した。


 プレートに並ぶそれは、全てちょうど良い具合に焼き上がっていた。

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姉妹達の純愛唄 赤魂緋鯉 @Red_Soul031

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