第43話

 零細哀果――ペンネーム伊吹トアラがシナリオを手掛けた『インセスト・トゥルー』。

 リミリーにそっくりな容姿をした梨美(りみ)は、主人公と血縁関係にある実の姉であり、メインヒロインだ。

 交通事故で幼い頃の記憶を失っていた主人公は、そんな梨美のことを姉ではなく、女性として見てしまっていた。同じ屋根の下で暮らしていく中で、女性としての興味から恋心へと昇華してしまう主人公。そして、戸惑いながらもその気持ちを受け入れるヒロイン梨美。

 『インセスト・トゥルー』は、血の繋がりという壁を意識しながらも、お互いの気持ちを制御できない姉と弟を描いた恋愛作品だ。

 いつかは別れないといけない、頭の隅にそんな考えを持ちながら遊ぶ二人の姿は悲哀に満ちていた。そして何よりも、尊かった。

 結末を言ってしまうと、二人が別れることは決まっていた。最後に、心を痛めながらもその覚悟ができたのはきっと、それに見合った幸せを、短いながらも濃密に感じることができたからかもしれない。

春は桜の木の下で弁当を食べて交互に膝枕なんかをして。

 夏は海でお互いの素肌に目を泳がせながらぎこちなく波打ち際で水を掛け合って。

 秋は普段よりほんの少しだけ遠い見知らぬ土地で、珍しい食べ物に舌鼓をうって。

 冬は聖なる夜に、相手が喜ぶ顔を想像しながら思い思いのプレゼントを交換して。

 寝る間も惜しんで哀斗は、『インセスト・トゥルー』をプレイした。梨美と主人公が楽しそうに笑う姿を見て、胸が痛かった。気を抜けば、呻いてしまいそうだった。

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