極秘情報!アノ不祥事の真実とは!?

譚月遊生季

某日、ある記者によって持ち込まれた特ダネより

 外務省高官が煽り運転で逮捕された。

 何事もなかった平和な日々に、ポツリと降って湧いた不祥事。世間は色めき立った。

 嘲笑、非難、失望の声が次々に世論を騒がせる中、

 当事者である女は会見を開き、こう語った。


「この度の失態を、深くお詫びいたします。事態を重く受け止め、外務大臣には既に辞意を伝えました。私の退職をもって、この騒動に関する責任を負うことといたします。誠に申し訳ございませんでした」


 冷静かつ真面目な記者会見は、義憤を燃やす材料もなければ同情を誘う涙もなく、言ってしまえば面白味の欠片もなく終わった。


 その女が宇宙飛行士の訓練を受け、月面調査の任に赴くまでは。


 世間は困惑した。いや、混乱した。

 不謹慎なのか、それともむしろ真摯なのか、それすらも判別がつかない。ニュースのコメンテーターですら苦笑以外の言葉を首を捻って絞り出している中、女は宇宙へと旅立った。


「……そう。世論は誘導できたようね」


 特務機関「U-space」日本支部との通信で、女はかの会見のごとく静かに語った。

 やがて大気圏に突入し、地上との通信は途絶える。

 地球を離れる前、かつての、いや、今も変わらない上司に問うたことが彼女の頭に過ぎる。




「でも、大臣。なぜ煽り運転なんですか?」

「それぐらい方が世間は面白がる。……ただ、面白がられすぎるのも困り物だ。そこは会見で調整してくれ」

「分かりました。撹乱が終わり次第、極秘ミッションに向かいます」




 宇宙人との接触。それを、総理大臣が「外務省」の管轄と指示したことから騒動は始まっていた。


「……不名誉な称号ね。煽り運転で辞職、なんて」


 人工衛星からの電波が受信範囲になったのか、遠ざかる地球がモニターに映る。


「まあ……成功すれば一瞬で消し飛ぶ程度の汚点だけど」


 宇宙空間に浮かぶ基地へ、スペースシャトルは進んでゆく。

 いずれ、月面で待ち構える「生命」と接触するために……




 原稿は、即座にゴミ箱行きとなった。

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