復讐のレッドドラゴン

 リューホがこちらへ歩いてくる。その話はすぐに街中に広がり、リューホの進撃を食い止めるため、また街中の者が玄関口に押し寄せてきた。コーエンと私は白馬に乗り、およそ五キロメートル先まで馬を進めた。


 降伏か、あるいは突っ込んでくるのか分からないまま近づくのを待っていると、クワイラの弓矢隊が前に出る。


 リューホが叫ぶ。

「コーエンはいるかー!」

「ここだー!」

「今から厄災がこの街に降りかかる。座して見ているがいい」

「厄災だとー?」


 リューホが手を上げると、とんでもない怪物が翼で空を切りリューホの後ろから現れた。レッドドラゴン。火の竜である。全長は二十メートルをゆうに越え、どす黒い赤の体色に黒いゼブラ模様のドラゴンが、全速力でこちらへ向かってくる。

「飼い慣らすまで往生したわ。ゆけ、ドラゴンよ。そのような街は破壊してしまえ!」


 それを見た群衆はクモ の子を散らすように逃げ始めた。


 ドラゴンは手前の家を一発で踏み潰す。さらにとなり、さらにとなりと一軒一軒踏み潰してまわる。するとふわりと宙を舞ったかと思えば、群衆に向けて炎を吐き出す。


「うあー!」

 幾人かの人々が犠牲になり燃え尽きていく。


 ドラゴンは破壊の限りをつくしながら王城へ向かってゆく。


「わーはっは。愉快だ。愉快だ。もっと壊せ、もっと燃やせ! はっはっは」


「狂ってやがる」

 コーエンは考えている。ドラゴン属には確かある共通の弱点があったはず。「逆鱗」である。喉の奥の方にあり、通常の鱗の流れとは逆向きに鱗が生えており、そこを触れようものなら怒り狂い触った者には死がもたらされると。しかしそここそが弱点なのだ。そこには太い動脈が通っており、剣でつくと大した力を入れなくてもずぶりと入り、血を吹き出して死んでしまうと言う。古今東西ドラゴンを倒した者は、みなこの逆鱗でとどめを刺しており、ドラゴン退治の要所なのだとか。


 ドラゴンは時計台にしがみつき、長い首を左右に振りながらまた炎を吐き出している。


 コーエンはそれを下の方から眺めてみた。確かに喉の奥に色の違う箇所がある。あれが逆鱗だなと見定め城の方に向かう。


 ズシン、ズシン、ズシン!


 城では外の地獄絵図とは関係無しに、まだ舞踏会の真っ最中である。そこへ大ホールの天井が破壊され、ドラゴンが首を突っ込む。いきなりの展開に大騒ぎとなり皆が右往左往し始めた。ギルは立て掛けておいた剣をとり、ドラゴンと対峙する。炎を吐きかけられるもそこは五人衆の一人、ひらりとかわしてみせる。


 皆が逃げ惑う中、一人の女性が熱い目でその光景を見つめていた。ルンビーニ・ディートリッヒ嬢である。 伯爵家の三人姉妹の末っ子で姉二人はとっくの昔に嫁いでおり、今日は婿養子選びに出向いてきたのだ。


 ドラゴンを前にして一歩も退かないギルを見てルンビーニは一発でこの人が運命の人だ!と思った。


 ギルは鼻の辺りを剣で突くも思った以上に装甲が硬い。どこかに弱点はないか……ギルは目を狙って剣を伸ばすと、あっさりと左目を潰す事ができた。


 痛みに悶え首を左右に振り、ところ構わず炎を吐き出すドラゴン。首を引っ込めようやく城から立ち去った。


「お怪我はありませんか?」

 ルンビーニがギルに駆け寄る。

「なに身軽なのがとりえでして」


 こうして一組のカップルが誕生した。




 デミアン王と王妃は地下牢に避難していた。そこでスーリアに話かける。

「スーリア、スーリアよ」

 マットレスに横になっていたスーリアは、王直々の対面に面食らいながらも立ち上がってお辞儀した。


「東方ではそうやって礼をするのか。ささっ、固くならずにそこに座れ」

 スーリアは素直にマットレスに座った。ズシンズシンと城が壊される音がする。スーリアは不審な顔をする。

「あの音は何ですか?」

「今ドラゴンが暴れ回っているところよ、まあ気にする事もない」

 デミアン王もそこにどっかりとあぐらをかいて座る。

「ゲーテを完治してくれたこと、誠に感謝する。この通りじゃ」

 頭を下げるデミアン王に「勿体のうございます」と恐縮しきり。


「それでじゃ、そちに刑を課すのをやめようと思っておる。ゲーテの命の恩人じゃからな。そこでもうゴライアス帝国に帰るのはやめて、ここ王宮で働かぬか。お前の仕事に対する真摯な姿勢、感服しておる。お前もワンエン一味の悪虐非道な振る舞いに嫌気がさしておるのじゃろう。年収で一千万ルピア出そう。どうじゃ悪の道から足を洗うんじや。師匠とは縁を切れ。ん?」


 スーリアは涙を流して聞いていた。そして一言。

「お世話になりまする」

 とだけ答えた。




 街の中はまだどこへ逃げれば良いのか分からない人でごった返していた。こちらへ逃げれば踏み潰ぶされそうになり、あちらに逃げれば炎で焼かれる。体の大きさのわりに身軽で素早いのだ。


 やがて街の中は閑散とし始めた。郊外へと逃げ延びたのだ。


 リューホが街中に歩を進める。コーエンを見定めると叫び声を上げた。

「その男を焼き尽くせ!」

 ドラゴンが近寄ってきてやたらめったら炎を吐き出す。素早く建物の影に身を隠し機会を伺うコーエン。


 そこへやっと駆けつけた五人衆が、リューホが引き連れている五十人ほどの軍団に突っ込んでゆく。ドームが先陣を駆け抜け、スカッシュとウィルソンが剣で斬りふせてゆき、ギルとメイビアが矢を放つ。


混戦になってしまった。しかしスカッシュとウィルソンが一人、また一人と倒していく。気づけば軍団の方は皆死ぬか重傷を負って勝負はついた。


残りはリューホのみ。五人衆が一丸となって攻めても全て弾き返され強い。スカッシュが上段をウィルソンが下段を攻めてもひらりひらりとかわされ、反撃の一閃がスカッシュの肩を貫く。

「ぐう!」

 ドームが後ろから槍で突くも、まるで後ろに目がついているかの様に受けて懐に入り、剣を滑らせ左手の指を切断する。これにはたまらずドームも後ろに引き下がる。


「生け捕りにしろー!」

 コーエンが叫ぶ。


 これほど強い相手を前にして生け捕りにするとは、殺す方がまだ容易い。メイビアがロープを取りに馬に乗る。城への道を猛ダッシュだ。


 スカッシュとウィルソンが剣で猛ラッシュをかける。リューホのスタミナを奪う作戦である。これにはさすがのリューホも、たまらず肩で息をし始めた。


「リューホ!もう逃げ場は無いぞ。観念して縛につけ!」


 しかしリューホはめげない。突いても突いても受け止める。そこへ剣先が上手く兜の金具に引っ掛かり、脱げてしまった。しかし諦めるそぶりを見せない。スカッシュの一撃がリューホの頭に当たり血に染まる。


 ついにリューホは剣を落とした。握力がなくなったのだ。そこへ一番体格のいいドームがリューホに組み付いた。格闘になる二人。


 そこへメイビアがロープを担いで戻ってきた。


「なぜこんなことになったのか。全てはお前の思慮の浅さよ」

 リューホは遂に力つき、ロープでぐるぐる巻きにされ観念した。


 残るはドラコン一匹。装甲が固いので並みの武器では話にならない。


 私はついに決心をし、ドラゴンの前に進み出た。ドラゴンが首を振り、興味深げに私を見る。私の回りをピンクのオーラが包み込む。ますます右目を近づけるドラゴン。私は最後の策にでた。


 シャツのボタンを上から外し、おっぱいをポロンと出した。


「サービスよ♡」


 するとドラゴンは、鼻血をぶっと出し、横にうーんと言いながら倒れ、失神した。


 最後に現れたるはコーエンだ。逆鱗に剣を突き刺し、横一文字に斬り開くと、どばっとどす黒い血が溢れ出てきた。


 血が流れ出る。最後の一滴まで出尽くしたところで死んでしまった。ここにリューホのクーデターは幕を閉じた。


 それを遠巻きに見ていた街の人々は、コーエンをドラゴン殺しの英雄として祭り上げ、子々孫々まで語り継いだのであった。

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