集団葬儀

 霧雨が降ってきた。コーエンと私は馬に乗り、衛兵を四人引き連れ、カンパラの城へと向かう最中だった。


 戦いも一段落したので、ネーゼの城はドーム達に任せて、脱け殻になっているカンパラの城が気になった次第。


「雨が強くならなければいいのだが」

「通り雨ですよ。すぐにやみますわ」

「お前は五人衆の事はどう思っているんだ?」

「どうって……ドームはリーダーシップが取れる善きリーダー。スカッシュはもとプレイボーイで今は子育てに夢中の善きパパ。ウィルソンは常に冷静で時には非情でもある優れた軍師。ギルはお調子者だけど、根は優しいムードメーカー。メイビアは……少し影の薄い人。そんなところでしようか」

「メイビアについては間違っているぞ。あいつは斥候に優れ、先の黒い騎士団を三千人離脱させてしまったのもメイビアが先導したのさ。やはり五人衆に

 なくてはならない奴等ばかりだ」

「部下を信頼してますのね」

「そりゃあそうだ。十才以上離れているドーム以外は、スカッシュとメイビアは同い年、ギルがひとつ上ウィルソンは五つ上だ。年はバラバラなれど血の絆で結ばれている者ばかりだ」


「学校はどんなところでしたの」

「街なかにあってね、諸侯の子供や大富豪の商人の子息らが行く学校でさ。少し肩苦しかったかな、俺にとってみればね。俺はやんちゃなグループのリーダーでさ、いたずらばかりしてたよ。小さいころはね。ははっ今も変わらないか。成長が止まってるんだろうな」

「うふふ」


 カポカポと蹄の音が鳴り響く。


「コーエン様は、私のどこが好きになったの?」

「んんー顔かなやっぱり。怒るなよ、最初はみんなそんなもんなんだから。でもな、時をへるごとに影になりひなたになってくれる確かな存在、一万人の敵を前にして怯まないその勇気。これで改めてほれなおした。」

「勇気はコーエン様を見習っての事ですわ。私がどうにかしないとと思うと不思議と力が沸いてきます」


「前から聞きたい事があったのだが、お前のその『魅了』というスキルは小さなころから持っていたのか」

「いいえ、十五才くらいからですわ。いつも告白されて難儀しておりました」

「だろうな、丁度色気づく頃だ」

 私は作り話でお茶を濁した。


「あれはどうなったんだ。ほらレ…レ…」

「レズビアンですか?」

「そうだその気の病だ」

「すっかりよくなりましたわ。おかげさまで」

「今頃元騎士達は真面目に開墾に取り組んでいるだろうか。まずはそちらを見に行ってみよう」


 荒れ地の開墾を見に行くことになった。




 荒れ地では、広大な敷地を開墾している元騎士達が、力をあわせ、ともに働く力強い風景が広がっていた。


 私達は荒れ地に入りその一人に尋ねてみた。

「計画通りに進んでいるのか?」

「はい。城から派遣されてきたニールソンなる老人が手解きしてくれてからはスピードも一気に上がり半年程であがる見通しが着いたところでございます」

「その老人はどこにいる」

「あそこ、人が固まって木の根を牛を使って引き抜いているところにおりますが」

「礼を申す。いくぞ」


 牛にロープをかけて切り株を引っこ抜いている場所にいく。二十人ほどがともにロープで引いている。ぐらぐらしてはいるのだがなかなか抜けない。音頭をとっている老人にコーエンが声を掛ける。


「そちがニールソンか?」

「はい、旦那様」

「もう半年で牛が飼える状態になるとか」

「はい。私めは、もともと馬の牧場を開墾してきました。牛の牧場も手順はほぼ同じでございます。利益が出るのは二年はかかりますが、ここは立派な牧場になるかと思います」

「百人の元騎士の未来がかかっている。この荒れ地の開墾が終わったらニールソン、城へ参れ。特別に給金を与えよう。ではさらば、頼んだぞ!」

「ははー!」


 夜になる前に城へ到着した。今は主のいない城なので閑散としている。馬を降り、玄関に向かう。コーエンは中へ入り、大声で叫ぶ。

「ランドア!ランドアはおらぬか!」

「はーい!」

 コーエンが侍従長に任命したランドアが二階から降りてきた。掃除の総指揮をとっていたらしい。


「これはこれはコーエン様、お久しゅう存じます。今は全館掃除をしているところにて、主の帰りを今か今かと待っておりました。何でもクワイラで内紛が起きたとか。ご無事で何よりでございます」

「うむ。兄との戦いになった。しかし卑怯な手ばかりを使うやつでな。取り敢えず兵は奪っておき、今は捜索の真っ最中よ。その間にここに寄ったのだ。何でもここに置いてきた白い騎士団も皆殺しにされたと言うではないか。鎧に着けてあった銅の名札は分かったか?」


 ランドアが頭を下げて言う。

「はい、それをもとに棺桶を作り、墓地へ埋めて参りました。少しお待ちを」

 ランドアが地下の自分の居室にもどり、また玄関ホールへ上がってきた。

「これがリストでございます」


 コーエンはそれを見ると怒りに震え、リストをランドアに返した。

「これは大事にとっておけ。それともっと大きな紙に写し変えよ」

 コーエンが手を広げ一メートルぐらいに伸ばす。クワイラの城の前にある掲示板に張り付けるためであろう。


「明日朝一で墓に案内してくれ」

「わかりました。それと若、こちらの今月の給金が滞っているのですが……これが身分ごとの給金一覧表でございます。」

「五百五万ルピアか、結構するもんだな」

「大所帯なもので」

「少し待ってろ」

 コーエンは地下の金庫室に降りていった。


 私は侍女に紅茶をもってくるようにいう。喉が乾いてしょうがなかったのだ。やかんごと持ってくるように指示を出す。


 コーエンが上がってきた。五百十万ルピアを持って。


「信頼できる部下に預け、両替商に持っていき細かく崩すがいい。それより今日の飯は六人分余りそうか」

「厨房に聞いてきましょう。しばしおまちを」


 コーエンが私にこっそりもらす。

「使い勝手のいい男よ、ははは」


 やがて、戻ってきたランドアは、はーはー息を切らせながら帰ってきた。

「厨房に訊けば今日は大鍋にてシチュウのようでして、六人分など余裕で余ると申しております。」


 秋も深まった頃だ。太陽が沈むのが早くなってきた。


「馬の解体場があるでしよう、そこで牛の解体を頼めないかしら」

「牛を解体してどうするんです?」

「城の前庭で試食会を開くのよ。牛のシチュウに焼き肉、そして、この地方独特のピガタという豆のスープ。このスープは非常に豆板醤に味が似ている。これを煮詰めてソースにし、焼き肉のたれとして使うつもりなの。美味しくなるのは間違いないわ」


 辻の瓦版屋にたのんで無料試食会を行うことを広めていく。翌朝牛一頭分の肉が届いた。朝六時に起きて仕込みの音頭を取る。出来上がった焼き肉を、例のたれに付けて食べてみるとかなりの美味しさだ。

「これはいけるわね」


 次の日、朝の九時から墓にいき、神父を読んで葬儀をした。悲しい集団葬儀であった。皆、未来に向けて働いていただろうと思うと涙が頬を伝った。




 試食会は正午から始まった。集まったのは八十人ほど。

「それでは試食会を始めまーす!」


 皆それぞれ皿を持ち、まずは焼き肉から食べ始めた。肉を削ぎ切りにし、フライパンで焼いたシンプルな料理だ。


「これは……美味しいわね!」

「本当、ちっとも生臭くないし、ジューシーだわ!」

 皆口々に絶賛する。シチュウのほうも口の中でとろけるほど煮込み切ってあり、これもかなりの好評価だ。


「皆さーん、牛は美味しいでしょう。あと二年もしたら東の荒れ地が牧場に生まれ変わります。そうすれば毎日でも牛が食べられますよー!あと少しだけ辛抱して下さいね」


 第一回目の試食会は大盛況のままに終わった。


「反応はすごかったわよ」

「これを続けてやれば牧場の牛も大層売れるだろう」

「うふふ」

「決めた!やはり俺はこっちの城に住む。民は元気だし、約束を守ってたがえる事もない。それがなによりよ」


 二人で夕陽を見ながら誓った。

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