第三話 爆竹

 今日の仕事は蝙蝠魔獣の討伐だ。

 洞窟に大量発生してるのを近くの村の人間が発見して依頼が出た。




 今回は下調べもばっちりだ。

 蝙蝠魔獣の弱点も分かっている。

 それは、大きな音だ。

 大きな音を聞かせると、気絶してしまう習性を持っている。




 問題の村に行って、案内人に会う。


「案内のアルビリータです」


 案内役の女性が挨拶をしてきた。


 アルビリータさんは灰色の髪を短く刈った女性で皮のスボンと上着を着ている。

 弓を背負っている姿が熟練の狩人に見えた。


「Fランク冒険者のオッスントです」


 俺は挨拶を返し会釈した。


「なるべく早く退治をお願いします。森の獲物が減ってしまって困ってます」


 苦々しげに語るアルビリータさん。


「人は襲わないのかな?」

「ええ、森の獲物も子供の猪ぐらいの大きさまでしか襲いません」


 俺の疑問に答えるアルビリータさん。


「それなら安心して討伐できます。じゃあ行きましょうか」


 俺は森へ行くように促した。


 アルビリータさんの案内で森に入る。

 しばらく森を歩き、丘の脇に出た。

 小高い丘の斜面に空いた穴から蝙蝠魔獣が出入りするのが良く見える。

 アルビリータさんに被害が出ると困るので帰ってもらう。




 とりあえず鍋の蓋と木の棒を音を立てる道具として持って来た。

 ガンガンと蓋を叩きながら、洞窟に入る。

 蝙蝠魔獣はバサバサと平気で飛んでいた。

 羽を広げると五十センチにもなる蝙蝠魔獣はこちらに襲い掛かってくる始末。

 駄目か。もっと大きな音が必要だな。


 爆発の魔法を試してみる。

 ポンと可愛らしい音を立てただけだ。

 俺の魔法の腕では仕方ない。

 大声で怒鳴ってみたが、疲れただけだ。


 飛んでいる蝙蝠魔獣に剣鉈で切りつけたが、ヒラリとかわされる。

 もって来たボーラという武器を投げてみた。

 これは紐の先端におもりが付いた物で慣れると鳥も落とせるらしいが、付け焼刃ではどうにもならない。




 アイチヤに頼もうかと考えた。

 でも、前の討伐は散々だったからな。

 そうだ、念話で本当に神なのか確かめてみよう。

 神だったらアイチヤに頼むのを辞めよう。


 魔道具を出して、起動の呪文を唱える。


「デマエニデンワ」


 プルルルと魔道具からいつもの音がした。

 念話が繋がる。


 アイチヤに神なのか確かめると眷族だという答えが帰ってきた。

 冗談で考えた事が半分当たってる。

 神なら断る予定だったが、眷属なら確約を取れば大丈夫だろう。


 俺を陥れる意図がない事を確認して、音を出す物を注文した。


 念話が切れしばらくして、森の中に光が溢れた。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 挨拶してきたアイチヤは手に小さな紙の箱を持っている。


「早かったな。今回の道具は何だ」

「バクチクっす。導火線に火を点けて投げるっす。一回やってみるっす」


 俺の言葉にアイチヤは答え、バクチクを一つ外しての火を点けて投げた。


 パンと音が鳴る。

 変な匂いがした。そう火山の匂いみたいな感じだ。

 大丈夫そうだな。


「注意点はあるか?」


 アイチヤに俺は尋ねた。


「密閉した所で爆発させると威力が凄いっす。手で握って爆発させると大惨事っす。危険っす」


 俺はアイチヤの言葉にその事態を想像して、大丈夫なのか不安になる。


「分かった気をつける」


 火をつけて急いで投げれば良いんだ。

 俺は心を納得させて言葉を返す。



 前の分と合わせたお金を払うとアイチヤは帰って行った。


 よし、やるぞ。

 早速一塊取り出して火をつけておっかなびっくり洞窟に投げ込む。

 パンパンと連続して大きな音がする。

 ぼとぼと蝙蝠魔獣が落ちる。

 ナイフで止めを刺し、洞窟更に奥に進む。




 大きな空間の天井に数え切れないほどの蝙蝠魔獣がいる。

 バクチクに火をつけて次々に投げ込む。

 音が反響してバクチクの効果を上げている。

 止めを刺すのが間に合わないぐらいだ。




 何かが落ちた蝙蝠魔獣を食っているのに気づいた。

 オーガベアーだ。

 幾分小振りだが、そういっても普通の熊より大きい。

 蝙蝠魔獣に気を取られている隙に剣鉈に鋭刃の魔法を掛けて背後に回る。

 そして、背中に覆いかぶさり喉をかき切った。

 血が噴出して鳴き声を上げて倒れる。

 幸運だった。一生分の幸運を使い果たした気分だ。




 その時奥の方からぬっと影が現れる。

 視線をやるともう一匹オーガベアーがいた。

 オーガの由来の二本の角が凶悪に見える。

 今度は前のよりでかい。

 こんなのが二頭もいるなんて聞いてないぞ。

 剣鉈を握る手が汗で滑りそうだ。

 ゆっくりと後ずさりして逃げる隙を窺う。




 立ち上がると三メートルあって凄い迫力だ。

 オーガベアーが咆哮を放つと蝙蝠魔獣が全て落ちる。

 耳がキンキンした。

 オーガベアーは俺の方を見ると四足でゆっくり近づき噛み付こうとし、大きな口を開けた。


 思考がもの凄く早く回転する。出た答えはバクチクに火を点けて口に放り込むだった。

 剣鉈を鞘に戻し、震える手でバクチクを掴んで魔法で火を点ける。

 そしてそっと口の中に放った。

 オーガベアーは口にバクチクが入ると餌と勘違いしたのか口を閉じる。

 ボンボンとくぐもった音が口の中から聞こえた。


 オーガベアーは痛みのあまり、のた打ち回る。

 チャンスだ。剣鉈に鋭刃の魔法を掛けて額に打ち込む。

 一瞬で勝負は決まった。


 オーガベアーはビクビクと痙攣し、果てた。

 足がガクガクして歩けそうにない。

 持って来た水筒の水をカブ飲みする。

 ふう、落ち着いた。




 足早に村へ戻った。


「オッスントさん討伐は終わりましたか?」


 アルビリータさんが俺を見つけて話しかけて来た。


「洞窟の中は誰か調べましたか?」

「いいえ、洞窟の中は見てません」


 俺の問いに首を振って答えるアルビリータさん。


「オーガベアーがいたんですよ」

「それは大変です。よく逃げれましたね」

「隙を見て倒しました。解体したいのですが、村人に手伝って欲しい」

「えっ、倒したのですか?」

「なんとか倒せました。幸運の賜物です」


 俺との会話のやり取りが進むにつれ、アルビリータさんの目がキラキラして尊敬の眼差しになった。


 あんな大物もう二度と出来ないよ。

 だけど、Cランクの魔獣だから、早ければ三年後には倒せるようにならないといけない。

 まあ通常はCランクでも四人ぐらいのパーティで倒すものだ。

 それなら頑張ればなんとかなりそう。




 オーガベアーは村に運ばれ解体された。

 毛皮だけ貰い、残りは村に寄付した。

 街に帰ると、オーガベアーの毛皮は金貨五枚になった。

 今回はどうなんだろう。やっぱりアイチヤは捻くれた金の神だな。



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商品名 数量 仕入れ   売値  購入元

爆竹  百個 二千五百円 五千円 玩具店

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