第二話 焼酎

 俺に遅れる事、何日か元手下が街に到着し始めた。

 誰でも考える事は一緒だな。


「お頭、聞きやしたかい。嘘をつくと呪いが発動するらしいでさぁ」


 元手下が道端で俺を見つけ話しかけてきた。


「お頭は止せ。ブロルディオさんだ」


 俺は強めの語気で言葉を返す。


「へい。途中で会った仲間が嘘をついて捕まって、牢屋で悪夢にうなされさんざんな目に遭ったと言ってました」

「そいつはどう切り抜けた」

「言えないと言いたくないで通してたら、悪夢で寝れないんで限界が来て。何でも善い事をさせてくれと懇願したら、釈放されたって言ってやした」

「そいつはひでぇ」

「まったくでさぁ。そいつのいう事にゃ自殺も悪事に入ると」

「そうかい」

「あっしは魔獣とか盗賊とかぶっ殺しましたが、平気でしたぜ」

「今ひとつ線引きが分からんな」


 元手下の話に俺は疑問を口にする。


 神にとっての悪事とはなんだろうか。

 生命なんざ、これっぽっちも気に掛けないのだろうな。

 自衛は悪ではないと言う事は分かった。

 多分利益か不利益かで判断しているな。

 一般社会の不利益が悪で利益が善ってところだな

 まあ、神のする事だから、考えるのも無駄か。


「そういえば、あっしは寄付をけちって銅貨一枚にしたら悪夢に襲われやした」

「俺は銀貨一枚したが大丈夫だった」


 元手下は口を歪めながら語り、俺は幸運だったのだなと思いながら受答えした。


「人助けだと短い時間でも一発なんでやすが」

「そろそろ仕事の時間だから俺は行くぜ」


 元手下の話を聞いて、時間を思い出し俺は話しを終わらせた。



 今日の仕事場は二メートル幅ぐらいの川だ。


「ブロルディオさん精が出るねぇ」


 通りがかった村人が話しかけてきた。

 俺は黙って黙々と作業する。


 俺は今スキルの有効活用として橋の工事をやっていた。

 重い石も丸太もスキルを使えば軽々だ。


「ここは滅多に人が通らないんだが、隣の村に行くには必要なんだよ。あんたが仕事を受けてくれて良かった」


 村人の感謝を受けて俺は短くおうと言って答えた。


 仕事でも善行をした事になると知ってこの仕事を選んだ。

 当分食い扶持は稼げるな。沢山儲かって人助けなんて仕事がありゃあいいんだが。




 で結局俺が選んだのは冒険者だった。

 塩漬け依頼をやると大抵善行になる。

 今日も村でゴブリン退治だ。

 ゴブリンは光物に目が無くて溜め込むから巣にはお宝がある場合もある。

 普通の冒険者は危険なので巣までは踏み込まない。

 畑に来たのを殺すだけだ。




 畑に来たゴブリンの後を付け巣を見つけた。

 巣は山裾の洞窟を利用した物だ。

 見張りがいる。石を投げて視線を違う方向にそらす。

 大剣を背中に装備したまま、腰のメイスを抜く。

 見張りのゴブリンの頭を勝ち割り、スキルを発動して巣に突入する。




 三匹程向かってきたので広い場所で大剣を使いなぎ払う。

 巣は迷路になっている。

 メイスに持ち替えて狭い通路を進む。

 棍棒を持ったゴブリンが十匹ぐらい押し寄せて来たが、メイスで棍棒ごと粉砕。




 何回か同じ様に繰り返し、一際大きいゴブリンがいる部屋に辿り着いた。

 こいつは切れ味の良さそうな剣を持っている。

 でも関係ない。大剣を振りかぶり力の限り振り下ろした。

 ガゴンと凄まじい音がしてゴブリンの剣を弾き飛ばし、脳天をかち割った。

 とんなもんだ。ゴブリンには遅れをとらないぜ。




 さてお宝はなんだろう。おっ宝石があるぞ。こいつは当たりだな金貨もある。

 さて娼婦は駄目だから、俺は借金を返すぞ。

 そうすれば少なくとも酒は飲める。




 街に帰り宝石を売り払い。いよいよ借金を返す。


「借金返済!」


 俺がスキルを発動すると手に握ったお金が光になって行く。

 これで酒の呪いは消えたはずなんだが。


「ステータス・オープン」


――――――――――――――――

名前:ブロルディオ LV55

年齢:32

魔力:34


スキル:

肉体強化


呪い:

悪事懲罰の呪い

罪滅ぼしの呪い

――――――――――――――――


 やったぜ、酒の呪いが消えている。

 借金返済スキルも無くなったな。

 そうと決まれば宿の食堂で飲むぜ。




 酒が飲みたくなった時に思った事がある。もう一度ウィスキーが飲みてぇ。

 でも今日は借金返したばかりで財布も軽い。

 アイチヤなら安くて美味い酒を持っていると考えた。

 ウィスキーはまた機会を改めて飲もう。

 実は神器は俺が持っている。捨てたり売ったりは呪いが発動しそうなんで大事に保管していた。

 アイチヤに頼むのは勇気が要ったが、呪いが増えたって構うもんか。




 俺は起動の呪文を発音する。


「デマエニデンワ」


 プルルルと神器から音がした。ガチャという音と共に念話が繋がる。


 アイチヤに一言、前事を謝ってから、安くて強い酒を注文した。




 ガチャという音と共に念話が切れる。

 慌ててステータスを確認するが、呪いは増えてない。

 ショウチュウとは聞いた事のない酒だが、美味いのかな。



 宿の部屋で待つ事しばし。突然光が溢れた。

 板に車輪と取っ手の付いた物を押してアイチヤが現れる。板の上には透明な容器に入った酒が載っている。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 部屋にアイチヤの楽天的な声がした。


「おう、早く酒をくれ。代金の銀貨十枚だ」


 俺は待ちきれなくて堪らない思いを前面に出してアイチヤをせかす。


「つり銭はないっす。サービスで銀貨九枚にするっす」


 アイチヤは微笑みながら値引きしてくれた。


「悪いな」

「リョウガエ。ありあとーしったー! デマエキカン」


 俺が銀貨を渡すと酒を置いて、謎の言葉を残し去って行った。




 宿の女将さんに断りをいれて焼酎を飲む。


「かぁーーたまらねぇ」


 俺は思わず感動の声を洩らす。


 こいつは強い酒だ。ウィスキーに比べると香りは無いし、味もほのかだ。

 水の柔らかさが酒に独特のコクを与えている。

 キレは良い。しつこくなくスルスルと飲める。




「あんた美味そうだな。俺にも分けてくれないか?」


 食堂の客の一人が申し訳なさそうに話しかけてきた。

 善行だと思って分けるか。


「この場にいる皆に一杯づつ奢る。強い酒だから、気をつけてくれ」


 俺は皆に聞こえるように大声で伝える。


「ありがとよ」

「良いって事よ。よし皆行き渡ったな。乾杯」


 感謝の言葉に照れ笑いしながら、音頭を取る。


「本当に強い酒だ。一杯で酔っ払っちまった」


 客の一人が赤ら顔で感想を言う。


「あたいも酔ったみたい」


 女の冒険者が手で顔を扇ぎながら感想を述べる。


 女冒険者は俺より若くて、魔獣の皮鎧を着て腰には小剣をぶら下げている。

 目付きは悪いが笑うと不思議に愛嬌があった。




「あたいはアダルラータ。あんた冒険者だよね」

「おう、俺はブロルディオ。まだ最低のFからランク一つ上がっただけの駆け出しだ」


 アダルラータの挨拶に俺も挨拶を返す。


「あたいはCランク。この酒気に入ったよ。一緒に飲まない」

「いいぜ。大いに飲もう。今日禁酒が解けたところなんだ」


 アダルラータの誘いに、俺は寛大な気持ちになって承諾する。


「そうかい。何があったか知らないけど苦労してるんだね」


 アダルラータは俺に同情の言葉を掛け、杯をあおった。


 俺はアダルラータと差しで飲んだ。

 十杯目までは覚えているんだが、そこから先の記憶がねえ。

 気がついたらアダルラータと裸で寝ていた。


「おい、起きろ」

「昨日は慰めてあげたのに。そりゃないんじゃない」


 俺の起床を促す声に、アダルラータは不機嫌に応じた。


「悪かった。また酒奢るから」

「きっとだよ」


 俺は謝罪し、アダルラータは期待のこもった目をして念を押した。


 どうやら金銭を絡ませず合意の上で事に及べば呪いは発動しないらしい。

 それにしても、頭がいてぇ。

 これもアイチヤの悪戯かねぇ。安い酒をしこたま用意したのもその理由なら納得するぜ。

 前のこと知らないふりしたのかもな。まあ二日酔いぐらいならなんともないがな。

 美味い酒をこれからもアイチヤに頼むとするか。



―――――――――――――――――――――

商品名 数量 仕入れ   売値  購入元

焼酎  四本 四千八百円 九千円 スーパー

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