祐とニコと再会

 ニコがやよいにつれされられてから数日がたった。

 あれから、ニコは僕の部屋に来ていない。

 でもリビングにいるのはたまに見かけるし、やよいがエサを持って歩いているのも見るから、ちゃんと食べたりはしているのだろう。

 元気にしてるかな。ちょっと様子見に行くかな。

 なんて考えながら部屋を出てやよいの部屋の前に来るも、そのドアをノックする前に、僕はくるりと身をひるがえして自分の部屋に戻った。

 また付きまとわれたら大変だし、やよいは絶対部屋に入れてくれないどころか、ニコを見せてもくれないだろう。だったら無駄なことをせずに、自分がやりたいことをして過ごす方が何倍も有意義なはずだ。

 机のイスに腰かけ、ゲームをするためにスマホを起動させる。

 何気なくメッセージアプリを開いてみるも、特に返信すべきメッセージはない。

 おととしからやっているグループチャットのメンバーともクラス替えの後から連絡を取っていない。一応クラスのグループに入ってはいるが、僕が返信すべき内容はない。

 メッセージアプリを終了し、最近はまっている音ゲーを始める。やや難易度高めの楽曲に苦戦しつつも楽しんでいた、その時だった。

 バッタン!

 僕の部屋のドアが大きく開け放たれ、ニコが入ってきた。

「ニコ……?」

「ミャア」

 ニコがまっすぐに僕の方へ歩いてきて、足に頭を擦り付ける、のをかわして部屋を出て、やよいの部屋を確認。やよいの部屋のドアが開いていた。

 やよいが簡単にニコを部屋から出すはずがない。

 リビングへ行くと、やよいのものと思われる置手紙が置いてあった。

『コンビニ行ってくる。すぐ帰る』

 そのそっけない文面から、僕は推理をした。

 やよいが部屋を出て、家も出た後に、ニコはやよいの部屋から出て僕の部屋に来たということ。

「……ひさしぶりだな、ニコ」

「ミャア」

 僕はニコを抱っこして自分の部屋に帰ると、頭を悩ませた。

 ニコに付きまとわれるのは面倒くさい。でも、やよいのもとへ帰してしまったら、ニコにとって退屈に日々を送ることになるだろう。あと、僕もちょっとだけ、本当にちょっとだけ寂しい。

「少しだけ、僕の部屋にいるか」

「ミャア」

 僕は机の扉を開け猫じゃらしを取り出す。念のために買っておいたものだ。

 それを少し動かしてやると、ニコは予想以上にくいついてきた。

 一生懸命に猫じゃらしを追いかけて、キャッチする。爪を出してそれを抱きかかえ、ガジガジかじる姿はとてもかわいらしい。

 そうして遊ぶこと数十分。

 今度は人の手によって僕の部屋のドアが大きく開け放たれた。

「なんだ、やよい。人の部屋に入るときはノックをした方がいいぞ」

 優しく注意をしたつもりだったのだが、逆にそれがやよいの気に障ったのだろう。イラつきをまるで隠そうともせず部屋に入ってきた。

「ちょっとお兄ちゃん。あたしの部屋勝手に開けてニコ連れ出したでしょ」

「それは誤解だな。ニコが自分で開けて自分で入ってきたんだ」

「それ、マジ?」

「マジもマジ、大マジだ。あまり怒らない方がいいぞ、ニコが怖がってる」

 僕は怯えているニコを指さして言った。

「怒ってるつもりはない。っていうか、マジでなんなの? ニコはそんなにお兄ちゃんのことが好きなわけ?」

「どうだろうな。まあ、あれだ。ニコも同じ部屋にずっといるんじゃつまらないだろ。たまには僕の部屋で遊んでもいいと思うんだ」

「たまにはっていうけどさあ。ニコはずっとお兄ちゃんの部屋にいるじゃん」

「やよい。動物と仲良くなるペースなんて人それぞれだ。やよいもじきにニコと仲良くなるだろ。だから下手に拘束しない方がいい。ゆっくり慣れていくのが一番だ」

 やよいは少し間ニコを見つめていたが、やがて口を開いた。

「それもそうか……」

「何か言ったか?」

「は? 何でもないし。はんっ、せいぜいニコと仲良くやることね」

 やよいは妙に上から目線でそれだけ言うと、さっさと部屋から出ていった。

「反抗期か……? そう思わないか、ニコ」

 当然のことだが僕の言葉を理解できていないであろうニコが、不思議そうに首をかしげる。そして床に落ちているねこじゃらしをこれでもかというほどに見つめた。

「……はあ。よっしニコ、今日は満足するまで遊んでやるぞ!」

「ニャッ!」

 こうして、僕とニコの夏休みや幕を開けたのだった。

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