祐とニコと夏休み

 学校での僕は、おそらくボッチというものに分類されるのであろう。

 そんなボッチにも当然夏休みという長期の休みはやってくる。

 学校はあまり好きではないから嬉しいと思う反面、全く予定もない夏休みのスケジュールを見るとなんだか悲しくなってしまうのが僕だ。

 今年の夏休みももちろん友達との予定なんてものはなく、スケジュール帳も真っ白。

 それに加えて、今年の夏休みにはもう1つ気がかりなことがある。

 ……僕は夏休みの間中ずっとニコに付きまとわれることになるのだろうか?

「ミャーン。ミャワワーン」

 今日のニコは、勉強をしている僕のノートの上にのって邪魔をしている。

「くそ、なんでお前はそんなに可愛いんだよ」

「ミャ」

「それにしても、本当よく鳴くよなお前」

 可愛いは可愛いんだが、これでは勉強ができない。

 むにっとニコをつかんでだっこして、ノートの上からよけようとすると。

「っ⁉」

「ニ、ニャー」

 ニコが爪をだしてノートにしがみつき、おろされるまいと踏ん張っていた。

「えー……」

 こんなことが、ここ数日ずっと続いている。

 やたらと僕に擦りついてきたり、僕の邪魔をしたり。

 自分で言うのもなんだが、えらく僕を気に入っている様子だ。

 可愛い猫にずっととなりにいられたら、普通はメロメロになってしまうだろう。

 実際僕だって余りの可愛さについわしゃわしゃと撫ででしまいたい気分である。

 しかし。仲良くなればそれだけ別れの時に悲しくなるということだから。必要以上に仲良くするなんてことは、しない。

 僕は勉強するのをあきらめて、オレンジジュースでも飲もうとリビングへ降りていく。

「ニャッ、ニャッ、ニャッ、ニャッ」

「……」

 ここまで来たら予想たはずだ。そう、ニコがついてきていた。

 階段を1段降りるごとに、しっぽを揺らしながらニャッなんて言っている。

 リビングに入ると、そこには先客がいた。

 その先客は、えらくご立腹な様子だった。

「(こういうのはスルーするのが一番だよ)」

 無言で脇を通り抜け、ニコとともに冷蔵庫へ向かおうとすると。

「ちょっと待ちなよお兄ちゃん」

 声をかけられてしまった。

 ギギギギと首を回してやよいを見る。視界の端で、同じように振り返るニコが見えた。

「あのさあ、それ、マジでどういうことなわけ?」

「……何のこと?」

「ニコのことに決まってんでしょ⁉」

「えー……」

 決まってはないと思うんだけど、という言葉は心の中に留めておいた。

「何でニコはお兄ちゃんにばっかりなつくの⁉ 拾ってきたのあたしなんですけど!」

「そんなこと僕に言われても困るんだけど……」

「そういうことだから、今日はニコはあたしがもらうね」

 やよいはそういうと嫌がるニコをむんずとつかんでリビングを出ていった。

 僕としては好都合以外の何でもないのだが、少し寂しいような気がした。

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