ACT06 仲良く見える手の繋ぎ方といえば?


「おはよう、朱実」


 休日、午前十一時より少し前。

 今日は、朱実と買い物にいく約束をしていたので、真白は待ち合わせ場所である駅前に向かったのだが。

 既に朱実は到着済みだったらしく、こちらに気づいて、にこやかな笑顔で迎えてくれた。


「おはよ、シロちゃん」

「早かったわね、朱実。待ったんじゃない?」

「ううん、そこまで待ってないよー。早起きはしたけどねー」

「そっか。それならよかった」


 どうやら、そこまで待たせていなかったようだ。

 真白、一安心である。

 朝の挨拶もそこそこに、真白と朱実は、駅の改札に向かおうとしたところで、



「お待たせッス、好恵このえ先輩。待ちました?」

「……ううん、陽太ようたくん。今来たところだよ」

「そ、そっスか。じゃあ……行きましょっか」

「……うん」



 他に、もう一組、同じ時間の待ち合わせがあったようだ。

 真白達とは近い年代の男女で、おそらく恋仲なのだろう。

 彼女が差し出す手を、彼氏がちょっと緊張した様子で取って、手繋ぎで歩いていく光景に、真白と朱実は思わず目を奪われた。


「おお……なんだか、イイね」

「初々しさ満開だわ」


 駅の改札を通る際は一度手が離れたものの、またしっかりと繋ぎ直すあたり、二人の仲の良さと深さが窺える。

 遠目から見ているこちらまで、ほわほわしそうな雰囲気だ。

 

「……シロちゃん」

「ん?」


 少ししてから、真白達も改札を通りつつ、駅のホームへと向かう道中。

 朱実が、何故かちょっと頬を染めつつ、呼びかけてきた。


「えっと……わたし達も、手、繋がない?」

「? どしたの、急に」

「あの、カップルさんを見てたら、なんとなく」

「んー、別にいいわよ」


 カップルであろうと友達であろうとなんであろうと、仲が良ければ手だって繋ぐだろう。何もおかしいことはない。

 そんな思いで、真白は朱実の手を取る。

 そうすると、朱実が何故か『ひゃっ!?』て驚いて、身を強ばらせていた。


「……シ、シロちゃん、なんだか、やけにあっさりだね」

「そう? 朱実、朝の登校時とか腕組んできてるでしょ。いつもの補給で」

「う……まあ、それはそうなんだけどね。改めてこういう風に手を繋ぐと、逆に照れくさいというか」

「?」


 そういうものなのだろうか?

 朱実はこう言っているものの、真白にとっては、スキンシップとしては結構物足りない気がする。

 確かに、手から伝わってくる朱実の温もりは心地いい。

 朝の登校時のいつもの『補給』に比べて接触は少ないが、これはこれでと思える。

 だが、足りない。

 もう少し、朱実の手の感触を楽しめる要素が、あってもいいと思う。


「…………ふむ」


 そこで真白は、いいことを思いついた。


「え? ……シ、シ、シロちゃん!?」


 繋いでいる朱実の手と自分の手をちょっと解いて。

 指と指を、一本ずつ絡ませて。

 そして、気持ち、強めに握っておいてっと。

 うん、これで良し。


「なかなか良い感じ」

「し、シロちゃん、これ……!」


 真白、ちょっと満足であるのだが。

 一方の朱実はというと、口をパクパクさせていた。


「ん? どしたの、朱実。最近よくそうなってるけど、今日はいつにもまして顔赤いわよ?」

「いや、なんでこの繋ぎ方……!」

「え? この方が、朱実の手の温もりが感じられるかなって。いつもの補給と同じくらい」

「でも、これ、いわゆる、こ、こ、こいび……あうう……」

「……もしかして、朱実、嫌だった?」

「い、いえ! 全然、そういうことは、まったく! むしろ嬉しいです!」

「なんで丁寧語になってんの?」


 こういう朱実のリアクション、実はまだ原因がよくわからないのだが。

 結構面白くいし、とても可愛いしで、真白としては最近の楽しみの一つになって来つつあった。

 なにより、朱実がいいというのなら、いいのだろう。

 だからこそ、


「今日は一日、歩く時はこうしてよっか」

「えっ…………は、はぃ」


 もっと、朱実とは仲良くなりたいと思うし。

 もっと、そうしていたくなる。

 今日は、真白にとって、友達と過ごすいい一日になりそうだ。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。


 最高か!

 シロちゃん、最の高かっ!

 こうまでなるとは、まったく予想できなかった。

 待ち合わせより二時間も前にここに来て、徳を積んだ甲斐があったってものよ……!

 それにしても、どうしよ、これ。

 今日一日、わたし、身が保つの? どうなの?

 超絶に嬉しい反面、今から不安だよ……って、あ。


「……陽太くん」

「え、先輩。お、オレ達もやるんスか?」

「……うん」

「では、その……は、はい」

「……ん、いい感じ、だね」


 さっき見かけたカップルさん、わたし達を見て、影響受けちゃってる!?

 おお、これまた見事な……しかも彼女さん、手どころか、そのさりげない密着具合は……う、わ~。

 お、お幸せに~。


 流石シロちゃん、その思い切りが、カップルさんの幸せ度も上げちゃったよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る